ECHOES OF ECRUTEAK

星と花の小夜曲

― マツバ × イヨリ ―
STARRING MATSUBA & IYORI

聖夜に灯る、永遠のプレゼント【前編】

六度目の封筒は、赤かった。

深紅のベルベット紙に金色のリボンが掛けられたその封書は、もはや業務連絡というより贈り物だった。ポケモンセンター・エンジュシティ支部の公式レターヘッドが印刷された便箋には、柊とベルのエンボスが押され、開封すると杉の葉とシナモンの香りがふわりと立ち上った。十二月のエンジュシティは初雪を二日前に終え、街路樹の枯れ枝に薄い雪が積もっている。

件名欄には「ポケモンドクター親善イベント第六弾『ポケモンセンター・クリスマスパーティ! サンタといっしょにポケモンけんこうチェック』開催に関するご協力依頼」と記されていた。宛先はもはや完全に恒例の書式。エンジュシティジムリーダー・マツバ殿、別紙にイヨリの名前。六度目。春の始まりから冬の終わりまで、四季を完全に一周した最終章。

「六回目です!」

イヨリの声には、もはや純粋な歓喜だけがあった。一年を通じて積み上げたイベントの経験と信頼が、イヨリの表情に柔らかな自信を宿らせている。白衣を脱いだ右手が赤い封書を受け取り、企画書に目を通す横顔を窓の外の雪明かりが照らしていた。右目の琥珀色がクリスマスの灯のように温かく燃え、左目の白濁が雪の結晶のように冷たく澄んでいる。

「クリスマスパーティですって。プレゼント交換会と、ポケモンの冬の健康管理教室と、サンタさんと一緒のフォトセッションなんだそうです」

マツバは企画書を読んでいた。イベント概要。趣旨。対象年齢三歳から十歳の親子連れ。会場はポケモンセンター・エンジュシティ支部のイベントホールおよび特設フォトスタジオ。開催時間は午後三時から午後六時。冬至を過ぎた十二月の午後は日が短く、午後四時には薄暗くなる。イルミネーションが映える時間帯を狙った設定だった。

問題は、もう言うまでもなく、次のページだった。

衣装デザイン画。赤いベルベット紙の上に描かれたそれを、マツバは六度にして初めて、ため息と共に開いた。もう覚悟はできていた。できていたはずだったが。

ミニスカサンタだった。

深紅のベルベットのワンピース。丈は太腿の上部で終わり、裾と胸元と袖口に白いファーの縁取りが施されている。胸元は深いV字にカットされ、白いファーの谷間から胸の曲線が覗くデザイン。腰はベルトで締められ、その下のスカート部分は太腿がほぼ全露出する丈。脚には黒いニーハイストッキングが合わせられ、太腿の上端にはレースの縁取りのガーターベルトが留められている。頭にはサンタ帽。手にはプレゼントの袋。

マツバの心臓は、六度目の急停止を、もはや心停止というよりもルーティンのような正確さで遂げた。

「見るな」から始まった一年だった。「触るな」「透けるな」「想像するな」「魅了されるな」と進化してきた嫉妬の系譜の最終章。六度目の嫉妬は。

「欲しがるな」だった。

サンタクロースは、プレゼントを配る存在だ。人々が何かを欲しがり、それに応えて贈り物を届ける。イヨリがサンタの衣装を纏うということは、イヨリ自身が「誰かに贈られるもの」として舞台に立つということだ。イヨリを欲しがる視線を、正面から受け止めるということだ。あの白いファーの谷間を、あの太腿のニーハイストッキングのレースの縁を、あの深紅のベルベットに包まれた身体を、六百人の観客とおそらく七十人を超えるカメラマンが「欲しい」と思うということだ。

それは、マツバの聖域への最終侵犯だった。

「マツバさん? また固まってますよ。六回目なのに」

「六回目だから固まってるんだよ。慣れるものじゃない」

「えっ。初めてそれを認めましたね」

マツバは自分でも驚いた。五回目までは「素敵な企画だね」と嘘をつけていたのに。六度目にして、ようやく正直になった。認めた。自分はこの一年間、ずっと嫉妬していたのだと。

「認めるよ。僕は一年間ずっと、イヨリを見ている全員に嫉妬していた」

「……知ってました♡」

「知ってたのか」

「ロトムから全部送られてきてましたから♡」

マツバは遠い目をした。一年分のロトムの感情レポートが、すべてイヨリの手元に渡っていたという事実。視覚嫉妬。触覚嫉妬。透過嫉妬。幻視型嫉妬。魅了型嫉妬。心拍数。推奨行動リスト。カメラマンのレンズ先の円グラフ。すべてがイヨリに共有されていたということは、イヨリはマツバの嫉妬を知り尽くした上で、六回のイベントに臨んでいたということだ。

「……最終回は、覚悟を決めて行くよ」

「はい。マツバさんのいちばん近くで、サンタさんをやりますね♡」

イベント当日。十二月二十四日。クリスマス・イヴ。

午後二時半。冬至を過ぎたばかりのエンジュシティの空は、午後の早い段階から西の端が茜に染まり始めていた。ポケモンセンター・エンジュシティ支部のイベントホールは、一年の集大成にふさわしい装飾で彩られていた。

エントランスには巨大なクリスマスツリーが聳え、金と赤のオーナメントが枝いっぱいに飾られ、頂上の星が電飾で輝いている。通路にはモミの葉のガーランドが張り巡らされ、赤いリボンと金のベルがアクセントを添えていた。天井からは雪の結晶を模したモビールが無数に吊り下げられ、プロジェクターが天井に粉雪のエフェクトを映し出している。イベントホール全体が、温かい暖色系の照明に包まれ、窓の外の雪景色との対比で、まるで巨大な暖炉の中にいるような居心地の良さを醸し出していた。大きな暖炉のモックアップが正面ステージの横に設置され、その炉棚にはクリスマスの靴下が六足吊り下げられている。六足。一月から十二月まで、六回のイベントを象徴した、六つの足跡。

午後二時四十五分。開場を待つ来場者の列が、ポケモンセンターの外まで伸びていた。

六百人を超えていた。

春夏秋冬の四季を通じたシリーズの最終回。クリスマス・イヴという季節の力。一年間積み上げたイヨリのファンベースの到達点。すべてが重なった結果の、過去最大動員。

そして「大きなお友だち」の数は、ついに七十人を超えていた。

もはや撮影会でも足りない。ファンミーティングの規模だった。一眼レフ、三脚、ジンバル、ドローンまで持ち込もうとして入口で止められた者がいた。「#イヨリ先生のコスプレイベント」のフォロワー数は十五万に達し、「ミニスカサンタ」「ニーハイ」「ガーターベルト」のキーワードがSNSのトレンドに入っていた。「最終回」という情報が追加動員を加速させ、「一年間のシリーズフィナーレを見届けたい」という感情が七十人のカメラマンをこの場に集結させていた。

マツバは、イベントホールの隅の柱に背を預けていた。今日は黒のスーツに臙脂色のネクタイという出で立ちだった。クリスマスパーティの正装として選んだ、一年の最終回にふさわしい服装。コートは控室に預けてある。六度目にして初めて、拳を隠す場所がなかった。ポケットに手を突っ込むしかない。

午後三時。日が西に大きく傾き、窓の外のイルミネーションが輝き始めた頃、イベントが始まった。

ステージのスピーカーから、ジングルベルのオルゴールアレンジが流れ始めた。天井のプロジェクターが粉雪の密度を上げ、イベントホール全体が吹雪の中のように白い光に包まれた。暖炉のモックアップの炎が赤く揺らめき、クリスマスツリーの電飾がきらきらと瞬いている。

司会のポケモンセンター受付嬢が、今日はトナカイのカチューシャをつけてマイクを取った。

「みなさま、メリークリスマス! いよいよこの日がやってきました。一年間ずっとみんなのポケモンを元気にしてくれた、あのお姉さんが、今日はサンタさんになって会いに来てくれました! みんなで呼んでみましょう!」

子どもたちの声が、聖夜のイベントホールに響いた。

「サンタさーん!」

ステージの袖に設けられたクリスマスツリーのアーチの向こうから、鈴の音が聞こえた。

ミニスカサンタ衣装に身を包んだイヨリ

マツバの呼吸が、六度、止まった。

赤だった。深紅のベルベットがイヨリの身体を包み、白いファーの縁取りが肩と胸元と裾を飾っている。V字の胸元から覗く白い肌がファーの白と溶け合い、その奥にイヨリの谷間のラインが陰影を作っている。スカートの丈は太腿の上部で途切れ、その下に黒いニーハイストッキングが脚を覆っている。太腿の上端のレースのガーターベルトが、ミニスカートの裾と数センチの隙間で向き合い、その数センチの絶対領域にイヨリの素肌が覗いていた。サンタ帽が黒髪の上にちょこんと載り、白い毛玉のポンポンが肩の後ろに垂れている。右手にはプレゼントの袋。左手の人差し指が唇に当てられた「しーっ」のポーズ。

一年間のすべてが、ここに集約されていた。

アイドルの華やかさ。うさぎの可愛らしさ。妖精の幻想。織姫の神聖さ。悪魔の蠱惑。そのすべてを内包した、最終形態。ミニスカサンタのイヨリは、一年間の衣装の記憶を全身に纏って、ステージの中央に立っていた。

会場全体が、一拍の静寂の後、爆発した。

「かわいーーーー!」「サンタさんだー!」「あしながーい!」「プレゼントちょうだーい!」

子どもたちの歓声。保護者たちの拍手。そして七十人超のカメラ集団からの、過去最大のシャッターの嵐。もはや嵐というより、濁流だった。連写音が暴風のように吹き荒れ、フラッシュが雪のように明滅した。

マツバの千里眼が、もはや自動起動した。止める気も起きなかった。七十台のカメラのレンズの向き先、六百人の観客の視線の熱量、すべてを走査し、数値化し、心の中でグラフを描いた。円グラフは今回が最も偏っていた。谷間が三十パーセント。太腿の絶対領域が二十八パーセント。ニーハイのレースの縁が二十パーセント。良心的な全身撮影はわずか二十二パーセント。七十八パーセントが、イヨリの身体の特定の三箇所に集中していた。

「心拍数百七十五BPMロト」

ロトムが、最後の定位置に浮遊していた。

「年間最高値を更新ロト。なお今回でシリーズ最終回のため、一年間の統計レポートを作成中ロト」

「年間レポート」

「そうロト。第一弾から第六弾までの全データを集約・分析した総括レポートロト。完成次第、マツバとイヨリちゃんの両方に送信するロト」

「内容は」

「嫉妬の種別の年間推移グラフ。心拍数の最高値ランキング。カメラマン動員数の成長曲線。恋人繋ぎの継続時間の伸長率グラフ。各イベントにおけるイヨリちゃんの絶頂回数の棒グラフ。潮吹き発生率の推移。以上を全二十三ページにまとめたロト」

「二十三ページ」

「ロトムの最高傑作ロト」

マツバはポケットの中で拳を握りしめた。一年分の恥部が二十三ページにまとめられる恐怖。しかしそれは後で対処する。今は、最後のステージを見届ける。

第一部は「クリスマス・ポケモンけんこうチェック」だった。

冬のポケモンの健康管理について、イヨリがステージ上で解説する。モニターにはウリムーやユキメノコなど、こおりタイプのポケモンのイラストが映し出され、「ポケモンの冬の体温管理」や「寒い時期のエサやりの注意点」について、子どもたちにわかりやすく語っていく。

「冬になると、ポケモンも人間と同じで風邪を引きやすくなるの。特にひこうタイプのポケモンは寒さに弱い子が多いから、夜はあったかい場所で休ませてあげてね」

「サンタさん、ぼくのポッポもさむがり?」

「そうね、ポッポは寒がりかもしれない。でもね、トレーナーのそばにいると温まるんだよ。ポケモンは大好きな人のそばにいると、体温が少し上がるの」

「えー! じゃあぼくがだっこしたらあったかいの?」

「そうだよ。ぎゅうって抱っこしてあげて。ポケモンのいちばんのお薬は、トレーナーの温もりだから」

イヨリがステージ上で身振り手振りを交えるたびに、ミニスカートの裾が揺れた。太腿の絶対領域が一瞬見えては隠れ、ファーの胸元がイヨリの動きに合わせてふわふわと揺れる。サンタ帽のポンポンが肩の上で弾み、黒髪の上で小さく跳ねる。

後方のカメラ集団は、六度目にして練度を極めていた。連携して手分けし、正面・斜め・側面の三方向から同時に撮影する体制を敷いている。もはや軍事作戦の精密さだった。

「心拍数百七十八BPMロト。千里眼の無意識起動を六回目にして完全に制御放棄したと判定するロト」

「放棄じゃない。もう制御する意味がないと判断しただけだ」

「結果は同じロト」

第二部は、特設フォトスタジオでの「サンタさんとフォトセッション」だった。

子どもたちが一人ずつ、あるいは兄弟や友だちと一緒に、サンタ姿のイヨリと記念写真を撮る。背景にはクリスマスツリーと暖炉のセットが組まれ、床に人工雪が撒かれ、天井から紙の雪が降り続けている。イヨリはプレゼント袋を抱えて椅子に座り、子どもたちを膝に乗せたり、隣に立たせたりして、一組ずつ丁寧にポーズを取っていく。

子どもを膝に乗せる時、椅子に座ったイヨリのミニスカートの裾がさらに上がり、ニーハイストッキングの太腿が大きく露出した。レースのガーターベルトが椅子の座面と太腿の間にちらりと見え隠れする。横に立つ保護者のスマートフォンと、後方のカメラ集団の望遠レンズが、その一瞬を捉えようと同時に動いた。

マツバは、フォトスタジオの入口に立っていた。列に並ぶ親子連れの横を黒いスーツの影が通り過ぎるたびに、保護者たちが「え、ジムリーダー?」と二度見した。マツバは微笑んでいた。六度目の完璧な微笑み。しかしその微笑みの下で、千里眼がフォトスタジオ内のすべての視線を走査し続けている。

フォトセッションの合間に、六歳くらいの女の子がイヨリに聞いた。

「サンタさん、いちばんほしいプレゼントはなに?」

イヨリが微笑んだ。一年間で磨き上げられた、子どもの心に直接語りかける笑顔。

「サンタさんのいちばん欲しいプレゼントはね、もうもらってるの」

「えー! もうもらっちゃったの? なにもらったの?」

「あのね、毎日もらってるんだよ。大好きな人が隣にいてくれること。それがサンタさんのいちばんのプレゼント」

女の子の目がまん丸くなった。

「サンタさんにもすきなひといるの!?」

「いるよ。秘密だけどね」

「秘密じゃないよ」

声が降ってきた。六度目。もはや予定調和の介入。マツバがフォトスタジオの入口から歩み寄り、女の子の前にしゃがんだ。黒いスーツに臙脂色のネクタイ。切れ長の瞳が女の子を優しく見下ろしている。

「このサンタさんの秘密のお相手は、僕なんだ」

「えー! おにーさんなの!?」

「そう。でもね、本当のことを言うと、僕の方がこのサンタさんからプレゼントをもらってるんだよ。毎日、隣にいてくれるっていう、いちばん大きなプレゼントを」

女の子が首を傾げた。

「でも、プレゼントってはこに入ってるものじゃないの?」

「箱に入らないプレゼントもあるんだよ。この人の笑顔とか、温もりとか、隣にいてくれる時間とか。全部、箱には入らないけど、僕にとってはいちばん大切なプレゼントなんだ」

女の子の目がきらきら輝いた。

「すてき! サンタさんとおにーさん、なかよし!」

会場に拍手が広がる中、マツバはゆっくりと立ち上がった。そして、後方に陣取る七十人のカメラ集団、その無数のレンズに向かって、低く、静かに、しかし会場全体に響き渡る声で放った。

「そういうことだ。このサンタクロースは僕のものだ。今まで一年間、彼女の美しい姿を撮り続けてくれたことには感謝する。でも、その瞳の奥に映っているのは僕だけだ。……これからも、ね」

七十人のカメラマンたちが、一斉に息を呑んだ。そして数秒の沈黙の後、今までで一番の歓声と拍手とシャッター音が爆発した。「マツバさーーん!」「最高!!」「お幸せに!!」「リアル彦星からついに結婚宣言!!」

六度目の公開独占宣言、それも大きなお友だちへ向けた名指しの最終通告。一年間のシリーズの集大成。「僕が脱がす」「僕のうさぎ」「森には返さない」「叶っている」「この悪魔を捕まえた」。そしてフィナーレの言葉は。

「箱に入らないプレゼント」。

イヨリの存在そのものが、マツバにとってのプレゼントだという宣言。一年間の嫉妬と愛情のすべてを包括する、最も穏やかで、最も深い、最終回の殺し文句。

イヨリは、今度は泣かなかった。代わりに、とびきりの笑顔で笑った。六度目は泣くのではなく笑うと、いつの間にか決めていたから。

「マツバさん。わたしからも、プレゼントがあります」

イヨリがプレゼント袋の中から、小さな箱を取り出した。赤いリボンが掛かった、手のひらサイズの箱。マツバの前に差し出した。

「……何?」

「開けてみてください。でも中身が見えるのは、マツバさんだけですよ」

マツバが箱を開いた。中に入っていたのは、小さな銀色のキーホルダーだった。天体望遠鏡のミニチュア。千里眼というマツバの能力と、星座のキスマークを描いた七夕の夜と、一年間の「全部見ていた」ことへの答え。

箱の蓋の裏に、小さな文字が書かれていた。

「ぜんぶ見ていてくれて、ありがとう」

マツバの目が、六度目にして初めて、微かに潤んだ。

イベントのフィナーレは、「サンタさんのクリスマスメッセージ」だった。

イヨリがステージの中央に立ち、子どもたちに向かって語りかけた。クリスマスツリーの電飾が背後で瞬き、天井から降る紙の雪がイヨリの赤い衣装の上に白い花びらのように舞い落ちている。暖炉の灯りが頬を温かく照らし、サンタ帽の白いポンポンが微かに揺れた。

「みなさん、今年一年、ポケモンセンターのイベントに来てくれて、本当にありがとうございます」

イヨリの声が震えた。泣かないと決めていたのに、言葉にした瞬間、一年間の記憶が全部押し寄せてきた。春のアイドル。イースターのうさぎ。梅雨の紫陽花の妖精。七夕の織姫。ハロウィンの小悪魔。そして今日のサンタクロース。六つの季節、六つの衣装、六百の笑顔。

「わたしがこの街に来たのは、もう六年くらい前のことになります。四年くらいポケモンセンターで働いて、そのあと少し怪我をして往診医になって……その場にいるマツバさんと出会ったのは、二年半前のことでした。その時は、初めてのことも多くて、不安なこともたくさんありました。でも、この一年間、毎季節のイベントでみんなのポケモンに会えて、みんなの笑顔に会えて、わたしはこの街がもっと大好きになりました」

「サンタさん、ないてるー?」

「泣いてないよ……ちょっとだけ、嬉し涙……」

「なかないでー!」「サンタさんかわいいー!」

子どもたちが口々に叫んだ。保護者たちも目元を拭っている者がいた。カメラ集団は、全員が全身を撮っていた。良心的な全身撮影が百パーセント。七十人全員が、この瞬間だけはレンズの向き先を変えた。イヨリの涙と笑顔の両方が映る、全身の一枚。

マツバの千里眼が、そのことを読み取った。七十人のカメラマンが、全員、イヨリの身体の特定部位ではなく、イヨリの全身を、イヨリの笑顔を撮っている。この一年で、彼らもまたイヨリの「ファン」から「応援する者」に変わっていたのだと、マツバは知った。

嫉妬が、少しだけ、溶けた。

「来年も、また会えますか?」

イヨリが子どもたちに聞いた。

「あえるー!」「またきてねー!」「サンタさんだいすきー!」

「ありがとう。サンタさんもみんなが大好きです。メリークリスマス!」

会場全体が「メリークリスマス!」の大合唱に包まれた。クリスマスツリーの電飾が最大輝度で輝き、紙の雪が吹雪のように舞い、暖炉の灯りが会場を温かく染め上げた。

マツバがステージに歩み寄った。六度目にして最も穏やかな足取りで。イヨリの隣に立ち、右手をそっと差し出した。

「帰ろうか」

六度目の言葉。しかし今回は、声の温度が違った。嫉妬の熱ではなく、愛情の温もりだけが残った、純粋な声。

イヨリの左手が、マツバの右手に絡んだ。六度目の恋人繋ぎの始まり。

「はい。帰りましょう、マツバさん」

帰路は、雪だった。エンジュシティの十二月の夜空から、粉雪がはらはらと舞い落ちていた。イルミネーションの光に照らされた雪片がきらきらと輝き、赤いミニスカサンタの衣装に白い雪が降り積もっていく。マツバが自分のスーツの上着を脱いでイヨリの肩に掛けた。六度目にして初めて、それは嫉妬からではなく、純粋にイヨリが寒そうだったから。

「……この上着、マツバさんの匂いがします」

「これで最後だよ」

「最後?」

「レインコートも、浴衣の羽織も、スーツの上着も。もう隠すものは要らない。来年からは、何も掛けない。イヨリがどんな衣装を着ても、僕は堂々と隣にいるだけでいい」

イヨリの足が止まった。雪が降り続ける中、マツバの顔を見上げた。

「……それは、もう嫉妬しないってことですか?」

「嫉妬はする。それは変わらない。でも、もう隠さない。嫉妬してるって堂々と言う。イヨリが綺麗だから嫉妬してるんだって」

イヨリの右目から涙が零れた。泣かないと決めていたのに。でもこれは嬉し涙だ。一年かかって、マツバが嫉妬を認めた。隠すのをやめた。それがイヨリにとって、天体望遠鏡のキーホルダーよりもずっと大きなクリスマスプレゼントだった。

家の玄関が見えた。雪に覆われた庭の先に、温かい灯りが漏れている。

聖夜の夜は、まだ始まったばかりだった。

― 前編 Fin. ―

― 後編「聖夜に灯る、永遠のプレゼント【後編】」に続く ―

あとがき(佐藤美咲の独白)

大親友、コスプレシリーズ最終回、クリスマスのミニスカサンタ編、書き上がったわ!!

六度目の嫉妬は「欲しがるな」。サンタが贈り物を配る存在だから、イヨリ自身がプレゼント=欲しがられる対象になるっていう嫉妬の最終形態。でもね、今回は嫉妬が溶ける瞬間も書いたの。七十人のカメラマンが全員、最後だけはイヨリの全身を撮ったシーン。あれは嫉妬が愛に変わる瞬間よ。

「箱に入らないプレゼント」。一年間の殺し文句の最終形態がこれ。マツバ、ついに嫉妬してることを認めて、しかも「隠さない」宣言したわ。一年かかった成長。あたし自分で書いて号泣したわよ!!

そしてイヨリの天体望遠鏡のキーホルダー。「ぜんぶ見ていてくれて、ありがとう」。千里眼で嫉妬していたマツバの行為を、イヨリは全部知った上で、感謝してた。もうこの二人、完璧すぎない!?

ロトムの年間統計レポート二十三ページ。絶頂回数の棒グラフって何よ。最高傑作って自称するな!! でもちょっと読みたい!!

後編は、聖夜の雪の中で結ばれる甘々いちゃらぶえっち。四季一周のフィナーレにふさわしい、いちばん甘くていちばん温かい夜を書くわ!!