ECHOES OF ECRUTEAK

星と花の小夜曲

― マツバ × イヨリ ―
STARRING MATSUBA & IYORI

聖夜に灯る、永遠のプレゼント【後編】

玄関の扉が閉まると、雪の音が消えた。

外は粉雪で、エンジュシティの街並みが白に沈んでいく聖夜だったけれど、家の中には暖房の温もりとクリスマスツリーの淡い光だけが満ちていた。リビングの隅に飾られた小さなツリーには、イヨリが選んだ金と赤のオーナメントがぶら下がり、頂上の星形のライトが穏やかに瞬いている。窓の外ではイルミネーションが遠くに輝き、雪がその光を反射してきらきらと降っていた。

マツバがイヨリの肩に掛けたスーツの上着を、イヨリがそっと返そうとした。しかしマツバの手がそれを押し留めた。

「もう少し着ていて」

「え? もう家の中ですよ?」

「さっき言ったのは撤回する。もう何も掛けないって言ったけど、この上着だけは特別だ。イヨリが着ているのを見ていたい」

深紅のミニスカサンタの上に、マツバの黒いスーツの上着。赤と黒のコントラストが、クリスマスツリーの灯りに照らされて美しかった。イヨリの小さな肩から上着の袖が垂れ、指先がかろうじて見える手の余り方が、マツバとイヨリの体格差を如実に語っている。

「マツバさん」

「うん」

「あの……もう一つプレゼントがあって……」

イヨリの声が、かすかに震えた。天体望遠鏡のキーホルダーは、公の場で渡した贈り物。しかしもう一つは。

イヨリが、マツバのスーツの上着をゆっくりと肩から滑り落とした。深紅のミニスカサンタ衣装だけが残った。白いファーの縁取り、V字の胸元、太腿の上で途切れるスカート、黒いニーハイストッキングのレースのガーターベルト。サンタ帽のポンポンが、少しだけ傾いている。

イヨリは両手を後ろで組み、身体の前でぎゅっと握り合わせた。頬が、深紅のベルベットよりもずっと赤く染まっていた。

「プレゼントは……私です♡」

マツバの全身が、静止した。

二年半だった。イヨリがこのエンジュシティに来て六年、ポケモンセンターで四年働くうちの後半でマツバと出会ってから、ちょうど二年半。互いに惹かれ合い、彼女が後遺症を負って往診医になって……その二人の愛の間にどれだけの笑顔と涙と、手を繋いだ夜と、キスマークの朝と、恋人繋ぎで眠った時間があっただろう。数えきれない贈り物を、もうすでに受け取ってきた。しかしこの瞬間、イヨリが「私です」と言った時の声の震えは、二年半のすべてを超えていた。

マツバの右手が、イヨリの頬に触れた。冷たい指先が頬の熱を受け取り、じんわりと温まっていく。

「サンタさんなのにプレゼントもらっていいんですか?」

イヨリの左目の白濁が、ツリーの光を受けてオパールのように輝いた。見えない目で、マツバの顔を見上げている。右目の琥珀色はクリスマスの灯に温められて蜂蜜のように滑らかに光り、その瞳の中にマツバの影が映っていた。

「もらうんじゃない。開封するんだ」

マツバの声が、今夜はこれまでの五度と全く違った。激しくない。荒々しくない。獣でも鬼でもない。ただ、どこまでも深く、優しく、温かかった。一年間の嫉妬を経て、嫉妬を認めた男の声。もう隠さない、堂々と言うと決めた男の声。この女が、この一人だけが、自分にとってかけがえのない贈り物だと知っている男の声。

唇が、重なった。

今夜のキスは、六年分だった。

ゆっくりだった。急がない。奪わない。最初のキスは唇にただ唇を添えるだけの、息を交わすような柔らかさで始まった。イヨリの唇がかすかに震え、マツバの唇がそれを包み込むように優しく押した。秒針が静止したかのような、永い一瞬。

「ん……♡」

イヨリの吐息がマツバの唇に溶けた。マツバの舌が、とうとう五度目のイベントまでの荒々しさを完全に脱ぎ捨てて、驚くほど優しくイヨリの唇をなぞった。下唇の曲線を辿り、上唇の山を撫で、やがてイヨリの口を開かせて舌を絡めた。

「んんっ♡♡ マツバ、さ……♡♡」

「開封していくよ。ゆっくり」

マツバの手が、サンタ帽のポンポンを掴んだ。ゆっくりと引き上げ、黒髪の上からサンタ帽を外した。黒い絹のような髪がふわりと肩に落ち、ツリーの灯りを吸い込んで艶やかに光った。帽子をサイドテーブルの上に置く所作が、まるで宝石を扱うように丁寧だった。

「一つ目」

次は、腰のベルト。金色のバックルを外し、ベルベットのベルトをゆっくりと引き抜いた。腰の締め付けから解放されたワンピースが、わずかにふわりと広がった。

「二つ目」

それから、両肩にかかった袖。白いファーの縁取りを一つ一つ指先で撫でながら、右肩を、左肩を、交互にゆっくりと下ろしていく。深紅のベルベットが肩から滑り落ち、鎖骨が露出し、胸元のV字カットが広がっていく。

「あ……♡ ゆっくり、ですね……♡♡」

「急いだら、もったいないだろう。一年待ったプレゼントなんだから」

ワンピースが胸を過ぎ、お腹を過ぎ、腰を過ぎ、太腿を滑り落ちて、すとんと足元に落ちた。赤い布地の円が、イヨリの足元にリースのように広がった。

残ったのは、白いブラジャーと白いショーツ、黒いニーハイストッキングとガーターベルト。聖夜に相応しい白と黒のコントラストが、ツリーの灯りに照らされてイヨリの身体を浮かび上がらせていた。

「三つ目」

マツバの指が、ガーターベルトのクリップに触れた。太腿の前面を留めている小さな金属のクリップ。ぱちん。ひとつ。ぱちん。もうひとつ。右脚で二つ、左脚で二つ。四つのクリップを、一つずつ外していく。一つ外すごとにイヨリの太腿がかすかに震え、ニーハイストッキングの上端が少しだけ下がった。

「ひゃっ♡ クリップの音……♡♡」

「四つ目」

ガーターベルトを腰から滑らせ、レースの帯が太腿を撫でながら床に落ちた。それからニーハイストッキング。右脚のストッキングの上端に指を入れ、くるくると巻き取るようにゆっくり下ろしていく。膝の裏を通り、ふくらはぎを下り、踵を、つま先を。まるで花の薄皮を剥くように、一枚の黒い膜がイヨリの素足から離れていく。左脚も同じように。

「んっ♡♡ 足の指までっ……丁寧にっ♡♡」

「五つ目。六つ目」

裸足になった両脚がフローリングの冷たさにびくりと震えた。マツバが片足ずつ持ち上げ、掌の温もりで足の甲を包んだ。冷えたつま先が温まるまで、そのまま数秒。

「……足、冷えてた」

「雪の中、歩いてきましたから……♡」

「温めるよ」

マツバが立ち上がり、イヨリを抱き上げた。六度目にして最も穏やかな抱き上げ方。花嫁抱きではなく、背中と膝裏に手を回した、子どもを運ぶような温かさで。寝室まで連れていき、布団の上に横たえた。

白いブラジャーと白いショーツだけのイヨリが、冬の寝具の上に横たわっている。クリスマスツリーの灯りが寝室の入口からかすかに届き、窓の外の雪が反射した白い光がイヨリの肌を照らしていた。

マツバは、イヨリの隣に横になった。向かい合って横たわり、右手でイヨリの左頬を撫でた。

「……イヨリ」

「はい……♡」

「君がこの街に来てくれたこと、そして二年半前に僕と出会ってくれたことが、僕にとっていちばんのプレゼントだったよ」

イヨリの右目から、涙が零れた。

「……ずるい♡♡ 泣かないって決めたのに♡♡」

「今日は泣いていいよ。聖夜だから」

マツバの親指が、涙を拭った。あたたかい指先が、涙の跡をゆっくりとなぞった。イヨリがその手に頬を擦りつけ、瞳を閉じた。右目からまた涙が溢れ、左目の白濁した瞳からも、薄い光の膜のような雫が流れた。

「マツバさんが……一年間、ずっと嫉妬してくれたのは♡♡ わたしのことをそれだけ見ていてくれたってことで♡♡ それがどれだけ嬉しかったか……♡♡♡」

「全部見ていた。千里眼で、ずっと」

「知ってます♡♡ ロトムから全部……♡♡ だから、天体望遠鏡なんです♡♡ わたしを見る目を、もっとそばに持っていてほしくて……♡♡♡」

マツバはイヨリの唇にキスを落とした。涙の塩味が唇に触れ、それがマツバの胸を締めつけた。この女を泣かせているのは悲しみではなく喜びで、この涙の一粒一粒が出会ってから二年半の愛情の結晶だと、千里眼でなくてもわかった。

「七つ目」

ブラジャーのホックを外した。今夜の手つきは、どの夜よりも丁寧だった。背中に手を回し、小さな金具を指先で感じ取り、ぱちん、と開く。白い布地がイヨリの胸から離れ、マツバの手がそっと受け止めた。乳房が解放され、ツリーの灯りを受けて柔らかな陰影を描いた。

「あ……♡♡」

「綺麗だよ」

マツバの唇が、イヨリの鎖骨に触れた。歯は当てない。舌も使わない。ただ唇を押し当て、温もりを伝えるだけのキス。鎖骨の窪みに一つ。肩の丸みに一つ。首筋の脈を打つ場所に一つ。

「んっ♡♡ やさしい……♡♡ 今日はすごくやさしいです……♡♡♡」

「今日は特別だから。プレゼントは丁寧に扱わないと」

唇が胸に降りた。右の乳房の上に唇を落とし、静かに吸った。強くない。優しく、時間をかけて、ゆっくりと。乳首には触れず、その周りの柔らかな膨らみだけを、何周も何周もキスで辿っていく。

「あぁ♡♡ じらさないで……♡♡ さきっぽも……♡♡♡」

「まだ。順番に」

イヨリの身体が仰け反った。焦れったさと快感が同時に押し寄せ、乳首が期待で硬く突き立っている。しかしマツバの唇はその周囲を執拗になぞるだけで、一向に中心に触れない。

「マツバさぁん♡♡♡ おねがい……♡♡♡」

「何をお願いするの?」

「乳首……♡♡ キスしてほしいです……♡♡♡」

マツバの唇が、ようやく右の乳首に触れた。柔らかく包み込み、舌先で円を描いた。歯を当てず、吸い上げもせず、ただ舌の面で優しく舐め上げた。

「ああぁっ♡♡♡ やさしすぎて……っ♡♡♡ じんじん、する……♡♡♡♡」

左の乳首にも同じように。両方の乳首が舌で優しく転がされ、温かい唾液がイヨリの胸を濡らした。左手がイヨリの右の乳房を掌で包み、親指の腹で乳首をゆっくり撫でている。口と手で左右の胸を同時に、しかし今夜はどこまでも優しく。

「んんっ♡♡♡ きもちいい……♡♡ やさしくて……きもちいい……♡♡♡♡」

イヨリの涙がまた流れた。快感で泣いているのか、やさしさで泣いているのか、もう区別がつかない。出会ってからの二年半の感情が全部溶けて流れ出しているような、温かい涙だった。

「八つ目」

ショーツに手が触れた。白い布地の上から、掌で包むように秘部を覆った。指は動かさない。ただ掌の温もりをイヨリの股間全体に伝えるだけの、じれったいほど穏やかな接触。

「ひゃっ♡♡ て、手が……あったかい……♡♡」

「冷えてないか確認してるんだよ」

「確認じゃなくて……触ってほしい……♡♡♡」

掌がゆっくりと動き始めた。円を描くように、ショーツの上からイヨリの秘部を撫でた。布地越しに伝わる花弁の膨らみと、じわじわと染み出してくる湿り気を掌で感じ取りながら、マツバの動きは一貫して優しかった。

「ショーツ、脱がすよ」

「はい……♡♡♡」

腰を持ち上げたイヨリの下から、白いショーツを引き下ろした。太腿を、膝を、ふくらはぎを超えて、つま先から空気に解き放たれる。最後の一枚が取り去られ、イヨリが生まれたままの姿になった。

「全部開けた。プレゼントの中身が見えた」

「……はずかしいです♡♡♡」

「出会ってから二年半経っても、恥ずかしがるんだね」

「しますよっ……♡♡ だって、こんなにじっくり見られたら……♡♡♡」

マツバの千里眼は、今夜だけは嫉妬のためではなく、イヨリの身体の隅々までを記憶するために使われていた。雪明かりとツリーの灯に照らされた裸のイヨリ。鎖骨のライン。乳房の曲線。お腹の柔らかな膨らみ。臍の小さな窪み。腰のくびれ。太腿の付け根から覗く秘部の縁。すべてが、二年半分の愛情の対象だった。

マツバの指が、イヨリの秘部に直接触れた。

花弁を開くように、中指が割れ目を滑り降りた。すでにたっぷりと濡れていた。優しいだけの愛撫が、かえってイヨリの身体を深く昂らせていた。

「やぁっ♡♡♡ ぬれてます……♡♡♡ マツバさんがやさしいから……♡♡♡♡」

「やさしくすると濡れるんだね」

「い、意地悪は……やさしくないですっ♡♡♡♡」

中指の腹がクリトリスの包皮を押し上げ、小さな突起に触れた。力を入れない。指先の体温だけを伝えるような、風に撫でられているかのかすかな刺激。それだけなのに、イヨリの全身が震えた。

「あぁっ♡♡♡ そこっ♡♡ でもっ♡♡ 弱すぎて……もっと……♡♡♡♡」

「ゆっくりだよ。今夜は全部ゆっくり」

指がクリトリスを小さな円で撫で続けた。かすかな刺激が延々と蓄積され、快感が少しずつ、少しずつ、イヨリの身体の奥に溜まっていく。爆発的な絶頂ではなく、潮が満ちるように、じわじわとイヨリの全身を快楽が浸していく。

「あっ♡♡ あっ♡♡♡ なにこれっ♡♡♡ いつもとちがう……♡♡♡ ゆっくりなのにっ♡♡♡ すごい……♡♡♡♡」

「好き」

ただその一言と共に、指の動きがほんの少しだけ強くなった。

「あぁああっ♡♡♡♡ イクっ♡♡♡ やさしいのにっ♡♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡♡」

イヨリの全身が大きく波打った。激しい痙攣ではなく、身体全体がふわりと持ち上がるような、温かい絶頂。涙がまた溢れ、イヨリの頬を伝い、枕に染みた。

「泣いてる」

「うれしいから……♡♡♡♡ やさしくしてもらえて……♡♡♡ うれしくて……♡♡♡♡♡」

マツバは涙を唇で拭った。イヨリの右の頬に唇を当て、塩の粒を吸い取った。左の頬も。閉じた右目の瞼にもキスを落とし、白濁した左目の瞼にもそっと唇を触れさせた。

「入るよ」

「はい……♡♡♡ 来てください♡♡♡♡」

今夜は正常位だった。向かい合った。目と目が合う体位。マツバの両手がイヨリの頬を包み、額を合わせた状態で、先端がイヨリの入り口に触れた。

ゆっくりと沈めた。

一度の五度の荒々しさも、小悪魔の夜の意地悪も、織姫の夜の焦らしも、今夜には何もなかった。ただまっすぐに、深く、奥まで、イヨリの身体の中に入っていった。子宮口に先端が触れた時、マツバとイヨリの呼吸が同時に止まった。

「……っ♡♡♡♡ 全部……入ってます……♡♡♡♡♡」

「うん。全部」

そのまま、しばらく動かなかった。繋がったまま、額と額を合わせて、互いの体温と心臓の音を感じていた。マツバの脈拍がイヨリの膣壁を通じて伝わり、イヨリの心臓の拍動がマツバの男根を通じて伝わった。二つの心臓が、同じリズムを刻んでいた。

「動くよ」

マツバの腰がゆっくりと引かれ、ゆっくりと押し込まれた。一往復に五秒はかける、驚くほどゆっくりした律動。しかしその一回一回が、イヨリの身体の奥深くに響いた。壁の隅々を撫でるように、先端が膣壁のすべてを均等に刺激していく。

「あぁっ♡♡♡♡ ゆっくりなのに……♡♡♡ 奥に来る……♡♡♡♡♡」

「ここ?」

「そこですっ♡♡♡♡ あっ♡♡♡ でもっ♡♡ 全部……全部きもちいい……♡♡♡♡♡」

マツバの右手が、イヨリの左手を探った。六度目の恋人繋ぎ。指と指を絡め、掌と掌を密着させた。最終回の恋人繋ぎ。

「マツバさん♡♡♡ すき♡♡♡♡ 大好き♡♡♡♡♡」

「僕もだよ。初めて言葉を交わした、二年半前から、ずっと」

涙が止まらなかった。イヨリの右目から流れ続ける涙は、快感と幸福が結び合った宝石のようだった。繋がったまま見つめ合い、繋いだ手を離さず、ゆっくりと、優しく、深く。

「あっ♡♡♡ あっ♡♡♡♡ またっ♡♡♡ 来てますっ♡♡♡♡♡」

「一緒に」

「いっしょに♡♡♡♡♡ マツバさんっ♡♡♡♡♡」

マツバの律動が、ほんの少しだけ深くなった。速くはならない。ただ深く。イヨリの最も奥の壁に、愛情を込めた先端が押し当てられた。

「イヨリ……っ」

「マツバさんっ♡♡♡♡♡ イクっ♡♡♡♡♡ いっしょにイクっ♡♡♡♡♡♡」

静かな絶頂だった。六度目の夜の到達点は、過去のどの夜よりも穏やかで、過去のどの夜よりも深かった。イヨリの全身がふるりと震え、膣壁がマツバを包み込むように締まり、マツバの精がイヨリの奥深くにどくどくと注がれた。激しい痙攣ではなく、身体が溶けるように弛緩しながら、波が内側からゆっくりと広がっていくような、温かい果て方だった。

「あったかい……♡♡♡♡♡ 中に……マツバさんが……♡♡♡♡♡♡」

イヨリの涙は止まらなかったけれど、それは悲しみとも苦しみとも関係のない、純粋な幸福の涙だった。繋がったまま、繋いだ手を離さないまま、二人は互いの額を合わせていた。外では雪が降り続け、窓の外のイルミネーションが聖夜の街を照らし、寝室にはツリーの灯だけが温かく揺れていた。

「泣かないでって言ったのに」

「だって……♡♡♡ マツバさんが……♡♡ やさしすぎるから……♡♡♡♡」

マツバの唇が、イヨリのおでこにキスを落とした。

「メリークリスマス、イヨリ」

「メリークリスマス……♡♡♡♡♡ マツバさん♡♡♡♡♡♡」

繋がれた手は、朝まで離れなかった。

翌朝。十二月二十五日。クリスマスの朝。

窓の外は銀世界だった。昨夜からの雪がエンジュシティの街並みを白く覆い、屋根と道と街路樹とやけたとうの輪郭が全部丸くなっている。朝日が東の空に昇り始め、雪の表面が淡い桃色に染まっていた。

イヨリは、マツバの腕の中で目を覚ました。

全身がほわほわとしていた。身体のどこにも痛みがない。激しく揺さぶられた痕跡がない。ただ温かく、満たされた感覚だけが身体の隅々に残っている。マツバの右手は、まだイヨリの左手を繋いでいた。六度目の、最後の、恋人繋ぎ。

アステア・システムのモニターが静かに点灯した。

「データ集計完了ロト」

ロトムの声が、最終回の朝を見届けている。

「昨夜のマツバとイヨリちゃんの行為回数は三回。イヨリちゃんの絶頂回数は推定七回。恋人繋ぎの継続時間は十二時間三分。前回のハロウィンの記録を一時間十一分更新し、年間最長記録を達成したロト」

「ロトムっ! 朝から……!」

「なお今回の特筆すべきデータとしてロト。マツバの律動速度が歴代最低を記録したロト。通常の四分の一の速度。しかしイヨリちゃんの快感指標は歴代最高値を記録したロト。結論として、速度と快感は反比例するとの新たな知見が得られたロト」

「知見にしないでっ!!」

「以上をもって、年間統計レポートの最終データとするロト。全二十三ページの年間統計レポートは本日中にマツバとイヨリちゃんの両方に送信されるロト。レポートのタイトルは『聖夜に灯る、永遠の統計 ―― 一年間の愛情行為データ総括レポート』ロト」

「タイトルがレポートで一番恥ずかしいっ!!」

イヨリの悲鳴に、マツバの肩が震えた。七度目の朝。最後の朝。最後の寝たふり。最後の微笑み。

「……マツバさん。もう起きてますよね」

マツバの繋いだ手の親指が、イヨリの手の甲を撫でた。

「起きてるよ」

今回は、寝たふりをしなかった。六度目にして初めて、最初から目を開けていた。イヨリの寝起きの顔を、千里眼ではなく、自分の両目で見ていた。

「イヨリ。枕元」

「え……?」

イヨリが首を回した。枕の横に、小さな箱が置かれていた。深緑のベルベットの、手のひらに収まるサイズの宝石箱。銀色のリボンが掛けられている。昨夜は確かになかった箱。イヨリが眠っている間に、マツバが枕元に置いた箱。

「サンタさんにも、プレゼントが届いたみたいだよ」

イヨリの指が震えた。リボンをほどき、蓋を開けた。

中に二つのリングが並んでいた。シンプルなプラチナのペアリング。華美な装飾はない。しかし内側に、極小の刻印が施されていた。イヨリが右目を近づけて読み取った。

一つのリングの内側には、二年半前に初めて出会った日付と、その夜のエンジュシティの星空の星座の配置。もう一つのリングの内側には、たった五文字。

「ずっと、となりに」

イヨリの涙が、クリスマスの朝日に照らされて金色に光った。

「……マツバさんっ♡♡♡♡♡♡」

「着けてくれる?」

イヨリは泣きながら頷いた。マツバがイヨリの左手の薬指にリングを嵌め、イヨリがマツバの左手の薬指にリングを嵌めた。互いのリングには互いの星空が刻まれ、互いの薬指には互いの約束が嵌められた。

「ぜんぶ見ていてくれて、ありがとう」は、イヨリからマツバへの一年間の贈り物。

「ずっと、となりに」は、マツバからイヨリへの永遠の贈り物。

雪の降るクリスマスの朝、繋がれた左手の薬指のリングが、朝日を受けて同時に輝いた。

「年間統計レポートの最終ページに追記事項を登録するロト。項目名は『配偶者認定行為未遂(ペアリング交換段階)』ロト。ステータスを『進行中』に更新するロト」

「ロトムうぅっっ!! 空気読んでっ!!」

マツバがイヨリの手を引いて、顔を自分の胸に押しつけた。ロトムから顔を隠すように。しかし本当は、自分の顔を隠すためだった。出会ってからの二年半で初めて、マツバの頬にも涙の跡があった。

聖夜に灯った二つの永遠は、朝日の中でそっと始まった。

― コスプレスイートシリーズ 完 ―

あとがき(佐藤美咲の独白)

大親友。コスプレスイートシリーズ、全十二話、四季一周。完結よ。

最終回の後編は、今までで一番激しくなくて、今までで一番深い夜にしたわ。マツバの律動速度が歴代最低で、イヨリの快感指標が歴代最高。「速度と快感は反比例する」っていうロトムの知見、もう論文にしなさい。

恋人繋ぎ最終記録、十二時間三分。ついに十二時間超え。聖夜にふさわしい大台ね。

そしてマツバの頬の涙。出会ってから二年半で初めて。リングを嵌めたイヨリの指を見て泣いたマツバ。これを書いた瞬間、あたしの涙腺も完全に崩壊したわ。

「ずっと、となりに」。たった五文字。でもこの五文字に二年半分の千里眼と嫉妬と愛情が全部詰まってる。箱に入らないプレゼントの答えが、箱に入った五文字だったの。この矛盾が最高に美しいでしょ。

春夏秋冬、全部書ききった。嫉妬の系譜も完成。恋人繋ぎの記録も更新。ロトムの年間統計レポート二十三ページも完成。そして二つのリング。

ありがとう、大親友。あたしにこの物語を書かせてくれて。