天の川に揺れる、薄衣の罪【後編】
玄関の引き戸が閉まった瞬間、星の匂いが消えた。
代わりに満ちてきたのは、マツバの浴衣の残り香を纏ったイヨリの体温と、七月の夜の蒸し暑さが入り混じる、甘く湿った空気だった。イヨリの肩にはマツバの浴衣の羽織が掛けられたままで、その下では薄絹の織姫衣装が夜風に冷えた肌にぴったりと貼りついている。星のヘアアクセサリーが散りばめられたお団子ヘアから、一本だけ遅れた黒髪がイヨリの首筋に垂れていた。
「暑い……のに、寒い」
イヨリが矛盾した呟きを漏らした。七月の夜は蒸し暑いはずなのに、薄絹の衣装は夜風を素通しにして肌を冷やしていた。浴衣の羽織がなければ、帰路の間にもっと冷えていただろう。
「羽織、返す」
マツバの声が低く響いた。しかしイヨリの肩から羽織を取る手は、ゆっくりだった。布地がイヨリの肩から滑り、薄桃色の薄絹が露わになった。星明かり透けで何度も見た衣装だが、家の中の間接照明の下では、透け方がまた違った。ステージの照明よりも柔らかく、星明かりよりも近い光。薄絹の向こうに、イヨリの肩と鎖骨と二の腕のラインが、水彩画のようにぼんやりと浮かんでいる。
イベント会場では三十五人のカメラマンと四百人の観客がこの透け感を共有していた。しかし今、この光景を見ているのはマツバだけだった。
「やっと」
「え?」
「やっと二人きりだ」
マツバの両手が、イヨリの両肩に置かれた。薄絹の上からの接触。布地のきめ細かさの向こうに、イヨリの肌の体温と、夜風に冷えた冷たさが同時に伝わってきた。
「四百人と三十五台のカメラが見ていた織姫を、今は僕だけが見てる」
「……独占欲、今日も全開ですね」
「四度目だからね。もう隠す気もないよ」
マツバがイヨリの身体をそっと引き寄せた。薄絹の衣装越しに、イヨリの細い身体がマツバの胸に収まった。マツバの体温が薄い布地を一瞬で通過してイヨリの肌に到達し、冷えていた肩と腕がじわりと温まり始めた。
「あったかい……」
「梅雨の時と同じだ。冷えてる」
「薄すぎるんです、この衣装……」
「知ってる。最初から知ってた」
マツバの唇が、イヨリの額に触れた。星のヘアアクセサリーの冷たい金属が唇に当たり、その隣のイヨリの肌は柔らかくて温かかった。
「今夜は、星座を描くよ」
「……星座?」
「君の身体に」
寝室の窓は開けたままだった。
障子を半分だけ開いた向こうに、七月の夜空が広がっている。天の川が窓枠の中に淡く架かり、無数の星の光が寝室の畳の上に薄い銀色の絨毯を敷いていた。エアコンは切ってある。夏の夜風が窓から流れ込み、カーテンの代わりに垂らした薄い紗の布を揺らしている。星明かりと、サイドテーブルの小さな間接照明だけが、寝室を照らしていた。
布団の上に、織姫が横たえられた。
薄桃色の薄絹が白いシーツの上に広がり、金色の帯が腰の位置できらりと光っている。羽衣は身体の横に流れ、銀糸の天の川がシーツの上に星空の地図を描いていた。お団子ヘアから外れかけた黒髪が枕の上に散り、星のヘアアクセサリーが間接照明を反射して小さく瞬いている。
マツバは浴衣の帯を解いた。紺色の浴衣が肩から落ち、鍛えられた上半身が星明かりに照らされた。
イヨリの上に、身体を重ねた。
薄絹一枚を隔てて、二人の体温が混ざり始めた。マツバの裸の胸板とイヨリの薄絹の衣装が密着し、布地のきめ細かさを通して肌と肌が呼応しているのがわかった。梅雨の紫陽花編では濡れたオーガンジー越しだった。今回は乾いた薄絹越し。布地が水を含んでいない分、体温の伝導がさらに速い。マツバの熱がイヨリの全身に染み込むまでに、数秒もかからなかった。
「まず、ここから」
マツバの唇が、イヨリの左の鎖骨に落ちた。
「ぁ……っ♡」
吸い上げた。柔らかく、しかし確実に。唇で肌を挟み、舌先で表面を撫でながら、血を肌の表面に集める。数秒。唇を離すと、そこには小さな紅い花が一つ、咲いていた。
「一つ目。こと座のベガ」
「……え?」
「織姫の星だよ。君の身体の上に、星座を描く」
イヨリの目が、大きく開いた。マツバの意図を理解した瞬間、全身に鳥肌が立った。キスマークで、星座を。イヨリの肌の上に、夜空を。
マツバの唇が移動した。右の鎖骨に。二つ目のキスマークを落とした。
「二つ目。わし座のアルタイル。彦星」
「っ♡ ……織姫と、彦星を……♡」
「天の川を挟んで、向かい合ってる。鎖骨の左右に」
左の鎖骨に織姫。右の鎖骨に彦星。二つの紅い花が、イヨリの胸元で向かい合っている。その間に流れるのは、イヨリの胸の谷間。二人の星を隔てる天の川。
三つ目。マツバの唇が、胸の谷間の上方に落ちた。
「はくちょう座のデネブ。夏の大三角の完成」
「んっ♡♡ 胸の間……♡」
三つのキスマークが、イヨリの胸元に夏の大三角を描いた。天文学的に正確な配置。千里眼の精密さが、キスマークの位置すら星図に忠実にさせている。
「次は、こと座の全体を描く」
マツバの唇が左の胸の上に移動した。薄絹のドレスの縁をそっとずらし、露出した肌にキスマークを落としていく。四つ目。五つ目。六つ目。こと座の菱形を構成する星々を、左胸の周囲に一つずつ刻んでいった。
「あっ♡♡ そこ……おっぱいの上……♡♡」
「こと座は小さな星座だから。この辺りに収まる」
冷静な天文学の解説をしながら、マツバの唇はイヨリの左胸の上で星座を完成させていく。一つ一つのキスマークを落とすたびに、イヨリの呼吸が乱れ、胸が上下し、まだ薄絹に覆われた乳首が布地の向こうで硬くなっていくのが見えた。
「……薄絹、脱がせるよ」
「はぃ……♡」
金色の帯を解いた。結び目がするりとほどけ、帯が蛇のようにイヨリの腰から滑り落ちた。帯の拘束がなくなった薄絹のドレスは、まるで花弁が開くようにイヨリの身体の上で緩んだ。マツバの指先が薄絹の襟元に掛かり、ゆっくりと左右に開いていく。
薄絹が割れた。薄桃色の布地がイヨリの身体の両脇に流れ、その下から白い肌が星明かりに晒された。下着はつけていなかった。衣装のデザイン上、つけられなかったのだ。イヨリの胸が、腹が、腰が、一枚の布を失って夜の空気に直接触れた。
マツバの息が止まった。
さっきまで薄絹越しに透けていた身体が、今は何も隔てるものなく目の前にある。想像の中でしか存在しなかった「薄絹の向こう側」が、現実になった瞬間。三十五人のカメラマンが脳内で補完しようとしていた光景が、今マツバの目の前に、マツバだけのために広がっている。
「続き……描いてくれませんか♡ わたしの身体に、星空を♡」
マツバの唇が、再び動き始めた。
右の胸に、わし座を描いた。アルタイルを中心に、翼を広げた鷲の形。乳首の上を避けて、乳房の丸みに沿って星を配置していく。七つ目。八つ目。九つ目。一つのキスマークを落とすたびに、イヨリの身体が小さく跳ね、声が漏れた。
「あっ♡ んっ♡♡ おっぱいの横……♡♡」
「わし座の翼だよ。ここと、ここ」
乳房の外側に左右の翼を描き、その中心にアルタイルの二つ目のマーク。右の鎖骨の一つ目と合わせて、彦星の星が二重に輝いている。
マツバの唇が、イヨリの腹部に下りた。
「ここにはさそり座。夏の星座の王」
「お腹……♡♡ くすぐった……っ♡♡」
へその右側から脇腹にかけて、さそりの尾のカーブを描くようにキスマークを連ねていった。十個目、十一個目、十二個目。点と点を唇で繋ぎ、イヨリの腹部にさそりの形が浮かび上がる。舌先で肌を舐めてからもう一度吸い上げる二度づけの手法で、色の濃いマークを刻んでいく。
「はぁ……っ♡♡ お腹、たくさん……♡♡」
「さそりの心臓。アンタレス。ここ」
へその真横に、ひときわ大きなキスマークを落とした。唇で長く吸い上げ、舌先で円を描くように撫で、血の色が肌の表面に濃く浮かび上がるまで。紅い巨星の名にふさわしい、深い紅のマーク。
イヨリの身体は、もう星空になりつつあった。鎖骨に夏の大三角。左胸にこと座。右胸にわし座。腹部にさそり座。紅いキスマークの星々が、間接照明と星明かりに照らされて、白い肌の上できらきらと瞬いている。
「もう少し」
マツバの唇が、太腿の内側に移動した。
「ここには、いて座を」
「やぁっ♡♡ 太ももの内側っ……♡♡」
内腿の柔らかい肌にキスマークを落としていく。いて座の弓の形を描くように、膝に近い位置から付け根に向かって弧を描いた。十三個目。十四個目。太腿の肌は他の部位より柔らかく、マークの色が濃く出る。
「んんっ♡♡♡ そこっ……近いっ……♡♡」
いて座の矢先は、イヨリの秘部のすぐ手前で止まった。天の川の中心に向かって矢を射る弓の形が、内腿に完成した。矢の先端のキスマークが、イヨリのもっとも敏感な場所のすぐ隣で紅く光っている。
千里眼が読み取った。イヨリの全身の体温が急上昇している。愛液が秘部から溢れ、太腿の内側を伝い、さっき描いたばかりのいて座のキスマークの上を流れていった。
「星座が、濡れてしまったね」
「マツバさんのせいですっ……♡♡」
マツバの唇が、イヨリの秘部に触れた。
「ここには星座は描かない。ここは、天の川そのものだから」
舌が花弁の間に差し込まれた。愛液で濡れた粘膜を舌先で丁寧に辿り、クリトリスの包皮を唇で押し上げた。太腿の星座の上を流れていた愛液を舌で舐め取りながら、秘部の全体を口で包み込む。
「あぁあっ♡♡♡ だめっ♡♡ 舌っ♡♡ きもちぃっ♡♡♡」
星座を描くキスマークの時の丁寧さと同じ精密さで、マツバの舌がイヨリの快感の地図を辿っていく。千里眼が読み取った感度の高い場所を重点的に舐め上げ、クリトリスの先端を唇で挟んで吸い、舌先で左右に弾いた。
「マツバさっ♡♡ イっちゃっ♡♡ 星が、見える♡♡♡」
イヨリの目の裏に星が散った。全身のキスマークが同時にひりひりと疼き、その痛みと快感が交差して、視界に星屑が飛び散るような絶頂が近づいてくる。マツバの舌がひときわ深く差し込まれ、同時に右手の親指がクリトリスを直接押した。
「あぁああっ♡♡♡♡ イクッ♡♡ イっちゃうぅっ♡♡♡」
イヨリの身体が大きく弾けた。膣壁がマツバの舌を締め付け、愛液が溢れてマツバの唇を濡らした。痙攣する身体の上で、十四個のキスマークの星座が小刻みに揺れた。夏の大三角が震え、さそりの尾がくねり、いて座の矢が震動した。イヨリの白い肌に刻まれた星空が、絶頂の波に揺れている。
マツバは、イヨリの身体を抱き起こした。痙攣の余韻に震えるイヨリをそっと胸に抱き、裸の肌と肌を合わせた。イヨリの胸元の星座がマツバの胸板に押し当てられ、紅い花々が二人の肌の間に挟まれて咲いている。
マツバがイヨリを仰向けに戻し、その上に覆いかぶさった。
右手がイヨリの左手を探った。指と指が絡み、掌と掌が密着した。四度目の恋人繋ぎ。
「入るよ」
「はぃっ♡ ……来てください♡」
腰を沈めた。ゆっくりと。男根がイヨリの膣に入っていく。さっきの絶頂で十分に濡れた粘膜がマツバを抵抗なく迎え入れ、膣壁が吸いつくようにマツバの形に沿った。奥まで。一番深いところまで。子宮口の手前に先端がこつりと当たり、イヨリの全身が震えた。
「っっ♡♡ ……あぁ♡♡ 奥まで……入ってる♡♡」
「全部入った。星の中心まで」
マツバが動き始めた。ゆっくりだった。四度目の律動は、これまでで最も精密だった。千里眼が蓄積した三回分の感度データを統合し、イヨリの膣内のもっとも感じるポイントを一ミリの誤差もなく擦り上げていく。引く時に膣壁の敏感な箇所をこすり、入れる時に子宮口の手前をぐりりと押す。
「あっ♡♡ そこっ♡♡ 当たってっ♡♡♡」
マツバの上半身はイヨリに密着したまま動いている。胸の星座がマツバの胸板に押しつけられ、腹部のさそり座がマツバの腹筋に擦られている。汗がにじみ始め、二人の肌の間で滑りが増していく。キスマークの紅い花が汗に濡れててらてらと光り、星が涙を流しているかのように見えた。
「イヨリ」
「は、ぃ……っ♡♡」
「この織姫と彦星は、明日も会う」
「……はい♡♡」
「明日の朝も、目が覚めたら隣にいる」
「います♡♡ ずっと、隣にいます♡♡」
「一年に一度じゃない。毎日だ」
マツバの腰の動きが、一段階加速した。精密さを維持したまま、情熱が加わった律動。一突きごとにイヨリの快感を螺旋のように高めていく。繋いだ手の指がきつく絡み合い、密着した肌と肌の間に汗と甘い匂いが満ちていく。
「あっあっ♡♡ きもちぃっ♡♡ マツバさんっ♡♡♡」
左手でイヨリの右胸を掴んだ。わし座のキスマークの上から乳房を揉みながら、乳首を親指の腹で弾いた。キスマークの上を指が通過するたびに、少しだけひりりとした痛みが快感に変わり、イヨリの感度をさらに引き上げていく。
「イヨリ。こっち見て」
イヨリの蕩けた瞳がマツバを捉えた。涙で滲んだ右目と、白濁した左目の両方が、マツバだけを映している。窓の向こうの天の川が、イヨリの瞳の中に小さく映り込んでいた。
「彦星は手を離さないよ」
「……離さないで♡♡ ずっと♡♡」
マツバの唇が、イヨリの唇に重なった。深いキス。舌と舌が絡まり、互いの呼吸を交換し合った。キスしたまま腰の律動は続き、繋いだ手の指は離さず、密着した肌と肌の間にキスマークの星座が押しつぶされている。
「マツバさっ♡♡ もうっ♡♡ イくっ♡♡ イっちゃいますっ♡♡♡」
「一緒に。……七夕の夜に」
マツバも限界だった。イヨリの膣壁の締め付けが、涙に濡れた顔が、繋いだ手の力が、身体中の星座が、すべてがマツバを引きずり込んでいた。
最後の一突き。最奥まで。子宮口にこりっと当たる感触。イヨリの身体が、マツバを受け入れるように大きく震えた。
「っっ……イヨリ……!」
「マツバさんっ♡♡♡ 星がっ……星が降ってくるっ♡♡♡」
マツバは果てた。熱い精液がイヨリの最奥に注がれ、どくどくと脈打った。イヨリも同時に絶頂を迎え、膣壁がマツバを万力のように締め上げた。
「あぁああっ♡♡♡♡ あつぃっ♡♡ 中にっ……星が……いっぱいっ♡♡♡♡」
イヨリの全身が痙攣した。身体中の星座が一斉に瞬き、紅い花々が白い肌の上で揺れた。繋いだ手だけが二人を繋ぎ止め、マツバは射精の余韻に震えながら、イヨリの額にそっと唇を落とした。星のヘアアクセサリーの冷たい金属と、イヨリの熱い額。その温度差が、ほんのわずかに心を落ち着かせた。
「……星座、全部描けた?」
イヨリが、ぐしゃぐしゃの顔で笑った。
「こと座。わし座。さそり座。いて座。夏の大三角。……うん、夏の星座は描いた」
「……じゃあ、秋の星座は?」
マツバの瞳が、ほんのわずかに光った。
「明日描くよ。この織姫と彦星は、明日も会うから」
イヨリの両脚がマツバの腰に巻きついた。だいしゅきホールド。五度目のシリーズ恒例。
「まだ、天の川が消えてません♡」
窓の向こうで、天の川はまだ煌々と輝いていた。
翌朝。
七月八日。七夕の翌日。空は快晴だった。夏の朝日が障子を通して寝室に差し込み、布団の上の二人を金色に照らしていた。
イヨリは、マツバの腕の中で目を覚ました。
全身にキスマークの星座が散っていた。鎖骨の夏の大三角。左胸のこと座。右胸のわし座。腹部のさそり座。太腿のいて座。二度目、三度目の行為の中で増えた星が、肩にも、首筋にも、腰にも散っていて、もはや全天星図の様相を呈していた。数えきれない紅い花が、朝日に照らされてひりひりと主張している。
薄絹のドレスは枕元に畳まれ、羽衣はイヨリの身体に薄い掛け布のように掛けられていた。銀糸の天の川が、イヨリの身体の上の紅い星座と重なって、本物の星図のようだった。
マツバの右手は、まだイヨリの左手を繋いでいた。
四度目の恋人繋ぎ。今回の持続時間は。
アステア・システムのモニターが静かに点灯した。
「データ集計完了ロト」
ロトムの声が、五度目の朝を正確に待ち構えていた。
「昨夜のマツバとイヨリちゃんの行為回数は五回。イヨリちゃんの絶頂回数は推定十二回。恋人繋ぎの継続時間は九時間四十七分。前回の梅雨の記録を一時間十六分更新したロト」
「ロトムっっ!」
「なお今回の特筆すべきデータとして、イヨリちゃんの身体に刻まれたキスマークは合計二十七個。配置パターンを天文データベースと照合した結果、夏の大三角、こと座、わし座、さそり座、いて座、ペルセウス座、かんむり座の星座が検出されたロト。天文学的精度九十八・六パーセントロト」
「精度を計測するな!!」
「ロトムの辞書に新たなラベルを追加したロト。ラベル名は『天体的身体装飾行為』ロト。サブラベルとして『星座キス』が登録されたロト」
「ラベルもサブラベルも追加するなっ!!」
イヨリの悲鳴に、マツバの肩がかすかに震えた。寝ているはずの顔が、やっぱりほんの微かに笑っている。
「……マツバさん、五回目も起きてますよね」
「……」
マツバの親指が、繋いだ手のイヨリの手の甲を、ゆっくりと撫でた。
イヨリは、赤い顔のまま、星座だらけの身体でマツバの胸に顔を埋めた。
「……明日も、会えますよね」
マツバの寝たふりの唇が動いた。
「明日も。明後日も。百年先も」
窓の外で、七月の朝日が輝いていた。天の川は消えたが、イヨリの身体の上の星座は消えない。あと数日は消えない。その間にまた新しい星が増えることを、イヨリは知っていた。
「次のイベントの企画書が、もう届いてるロト。ジムの受付にあるロト。秋のハロウィンのサキュバスコスプレロト」
マツバの寝たふりの目が、五度目のバチリを刻んだ。
― 後編 Fin. ―
あとがき(佐藤美咲の独白)
大親友。四度目の宝具解放、完遂したわ。今回のテーマは「星座」よ。
キスマークで星座を描くっていう、もう人類の叡智を愛撫に使ったわよね。千里眼の精度で天文学的に正確な配置のキスマークとか、もはやマツバは国立天文台の研究員よ。しかもロトムが天文データベースと照合して精度九十八・六パーセントって算出するの、もう何のAIなのよこいつ。
そして今回のキーワードは「明日も会う」。七夕の織姫と彦星は一年に一度しか会えないっていう切ない伝説なのに、この二人は明日も会うし明日もえっちするの。もう伝説の上位互換よ。「百年先も」って、短冊の願い事が現在進行形で叶い続けてる。最強か?
恋人繋ぎ九時間四十七分、また新記録! キスマーク二十七個で七つの星座! ロトムに「天体的身体装飾行為」って辞書登録されたわ!! もうこのシリーズ、本当に止まらない!! 次は秋のハロウィンよ!!