玄関先の罪と罰【後編】
午後六時三十二分。マツバがエンジュシティの静かな通りを抜け、ジムの門をくぐって自宅の古民家へと戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
イヨリが和室から縁側を抜けて、小走りに出てきた。昼間のままだった。グレーのスウェットに、ピンクのショートパンツ。マツバのスウェットだ。首元が大きく開いて、鎖骨が丸見えで、明らかにブラをしていない胸の膨らみが、布地越しに柔らかな輪郭を描いている。髪は片側だけ跳ねたまま。素足のつま先が、ミシミシと心地よい音を立てる廊下の上でぱたぱたと鳴った。
マツバは、玄関先で草履を脱ぎながらイヨリを見た。
毎日見ている姿のはずだった。部屋着のイヨリ。マツバのスウェットを借りて着ているイヨリ。ブラをしていないイヨリ。全部、見慣れた光景のはずだった。
なのに今日は、妙に意識してしまった。
「今日、何かあった?」
マツバが訊いた。コートをハンガーにかけながら。何気ない質問のつもりだった。
「うん、Amazonの荷物が届いたよ。マツバさんが頼んでたやつ。あと、お義母さんから送ってもらったみかんが多すぎて、宅配の人にもおすそ分けしちゃった」
イヨリがにこにこ笑いながら言った。天真爛漫な笑顔。右頬だけにできるえくぼ。
マツバの手が、一瞬だけ止まった。
「……宅配の人に?」
「うん。お兄さん、すごく忙しそうだったから。みかん五個くらい」
「その格好で出たの?」
イヨリが、きょとんとした顔でマツバを見上げた。何を言われているのか、分からないという顔だった。
「え? うん。普通の部屋着だよ?」
マツバはイヨリを上から下まで見た。スウェットの首元から覗く鎖骨。ブラの支えがない胸の、自然な揺れ。ショートパンツから伸びる白い太腿。素足の指先。
普通の部屋着。確かにそうだ。イヨリにとっては、これが普通だ。自宅にいる時の、リラックスした姿。何も間違っていない。何も悪くない。
でも。
「イヨリ」
「ん?」
「ブラ、してないよね」
「……え? だって家にいる時は締め付け嫌だし……」
「知ってる。それが普通だってことも分かってる。でもね」
マツバがイヨリの前に立った。見下ろす紫の瞳が、いつもより少しだけ暗かった。怒っているのではない。苛立っているのでもない。もっと深い、じわりとした感情。
「他の男に、その姿を見せたの?」
イヨリの目が丸くなった。それから、じわじわと事態を理解し始めた。頬に血が上っていく。自分の格好を見下ろした。スウェットの首元のだらしない開き具合。ショートパンツの極端な短さ。ブラをしていない胸元。
「……あ」
「そう。『あ』だよ」
「で、でも、宅配の人だよ? そんな……見てないよ、たぶん……」
「見てるよ」
マツバが断言した。静かな声だった。
「男なら見てる。絶対に。この格好で玄関先に立ったら、見ない男はいない」
イヨリの顔が、みるみる赤くなった。耳の先まで。マツバのスウェットの裾を両手でぎゅっと握りしめた。
「……ご、ごめんなさい……。気づかなかった……。無防備すぎた……」
「怒ってるんじゃないよ」
マツバの手が、イヨリの頬に触れた。熱くなった頬を、手のひらで包み込んだ。親指が頬骨を撫でた。
「ただ、嫉妬してるだけ」
「……嫉妬……?」
「うん。僕以外の男が、ブラをしてないイヨリを見た。イヨリの胸の形を、太腿を、鎖骨を見た。それが嫌だ。すごく嫌だ」
マツバの声は穏やかだった。けれど、手のひらの温度がいつもより高かった。掌が微かに震えていた。イヨリはその震えを頬に感じて、マツバの目を見上げた。
紫の瞳が、揺れていた。
怒りではなかった。苛立ちでもなかった。ただ、純粋な独占欲。この女は僕のもので、この無防備な姿は僕だけが見ていいもので、他の誰にも渡したくない。その感情が、瞳の奥で静かに燃えていた。
イヨリの胸が、きゅうっと甘く痛んだ。
「マツバさん……」
「ん?」
「嫉妬してくれるの、ちょっと嬉しい」
マツバの眉がぴくりと動いた。イヨリが、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んでいた。
「マツバさんに焼きもち焼かれるの、好きだなって思った」
「……煽ってる?」
「煽ってないよ。本当のこと言っただけ」
イヨリがマツバの胸に身体を預けた。スウェット越しに体温が触れ合った。イヨリの頭がマツバの顎の下にすっぽり収まった。
「でもね、マツバさん。あの宅配のお兄さんに見られたかもしれないけど……この身体に触れるのは、マツバさんだけだよ」
マツバの腕が、イヨリの腰に回った。ぎゅっと引き寄せた。イヨリの柔らかい身体が、マツバの硬い身体に密着した。
「……証明して」
マツバが囁いた。イヨリの耳元で。低くて、甘くて、少しだけ掠れた声で。
「僕だけのものだって、証明して」
寝室に辿り着く前に、和室の畳の上に押し倒した。
マツバがイヨリを組み敷いて、唇を塞いだ。いつもより少し強いキスだった。舌を絡めて、イヨリの口内を貪るように味わった。イヨリの舌を吸い上げて、唇を甘噛みして、息が続かなくなるまでキスをした。
「んっ……ちゅ……マツバ、さっ……」
呼吸の隙間に名前を呼ぼうとしたが、マツバがまた唇を塞いだ。イヨリの後頭部に手を回して、逃がさないように。深く、深く。舌と舌が絡み合って、唾液が零れた。
キスのまま、マツバの手がスウェットの裾から中に滑り込んだ。指先がイヨリの素肌に触れた。お腹。脇腹。くびれ。背骨を辿り上げて、肩甲骨。何も身に着けていない背中を、マツバの手のひらが上から下まで撫でた。
「ん……んん……♡」
イヨリの身体が、マツバの手の動きに合わせてぴくぴくと反応した。キスをしながら背中を撫でられると、全身の毛穴が開くような感覚がある。気持ちいいのか、くすぐったいのか、その境界が曖昧になって、ただ身体が熱くなっていく。
マツバがキスを解いた。唾液の糸が一本、二人の唇の間に架かって、すぐに切れた。
「これ」
マツバがスウェットの首元を指で広げた。だらりと大きく開いた首元。鎖骨の下、胸の膨らみの上部が覗いている。
「こんなに開いてたら、前かがみになった時に全部見えるよ」
「そ、そんなに見えてたの……?」
「見えてたと思う。荷物を受け取る時、前に屈んだでしょ?」
イヨリが両手で胸元を押さえた。今さら隠しても遅い。顔が真っ赤だった。
「わ、わざとじゃないもん……」
「分かってる。わざとじゃないから余計にタチが悪い」
マツバの手が、イヨリの手をそっと外した。胸元を押さえている手を解いて、自分の手で代わりに包み込んだ。スウェット越しに、柔らかい膨らみを手のひらで掬い上げた。
「ひゃっ……♡」
「ブラしてないと、こんなに簡単に触れる」
マツバの親指が、布地越しに乳首を探り当てた。ぷっくりと硬くなった突起を、指の腹でくるりと回した。
「あっ……♡ マツバさん……♡」
「この感触も、この声も、僕だけのもの。他の男には絶対に聞かせたくない」
マツバがスウェットを下からめくり上げた。イヨリの胸が露わになった。小ぶりで形の良い乳房。薄桃色の乳首が、既に硬く尖っている。
マツバの唇が、左の乳首に吸い付いた。舌先で転がし、歯で軽く噛んだ。右の乳首は指で摘まんで、くりくりと弄んだ。
「んっ……♡♡ 両方っ……いっぺんに……♡♡」
「宅配のお兄さんは、ここまでは見てないよね?」
「見てないよぉ……♡ マツバさんしか見てないよぉ……♡♡」
「触ってもいない?」
「当たり前だよぉ……♡♡ マツバさんだけだよぉ……♡♡」
イヨリの声が、甘えた泣き声のように震えていた。マツバの嫉妬が嬉しくて、でも責められるのは恥ずかしくて、でもその恥ずかしさが気持ちよくて。感情がぐちゃぐちゃになっていた。
マツバの舌が、乳房を丁寧に舐め上げた。乳首だけではなく、膨らみ全体を。乳房の下側を舌先でなぞり、側面を唇で吸い上げ、谷間に鼻先を埋めた。イヨリの体温を吸い込むように、深く息を吸った。
「……いい匂い。石鹸の匂い」
「お風呂入ったの、昼過ぎだから……もう薄くなってるかも……」
「薄くなった方が好き。イヨリの匂いが混ざってるから」
マツバの唇が、胸元からお腹に降りていった。柔らかいお腹を唇で辿り、臍の横にキスを落とした。腰骨を舌でなぞり、ショートパンツの縁に歯を引っ掛けた。
「これも短すぎる。太腿がほとんど見えてる」
「部屋着だもん……♡ 楽な方がいいんだもん……♡」
「僕の前ではいいよ。でも他の男の前では、もう少し長いのを履いて」
「はぁい……♡」
マツバがショートパンツをゆっくりと下ろした。淡いピンクの布地が太腿を滑り、膝を越え、足首から抜けた。その下に、白いショーツが一枚だけ。
マツバの指が、ショーツの中央に触れた。生地が濡れていた。蜜がじわりと染みて、指先に伝わってきた。
「もう濡れてる」
「だって……マツバさんが……嫉妬するの……えっちだったんだもん……♡♡」
「嫉妬してるのがえっちだった?」
「うん……♡ マツバさんに独占されてるんだなって思ったら……身体が勝手に……♡♡」
マツバの目が、一瞬だけ熱く揺れた。この女は、無自覚に人を殺す。宅配員を殺し、夫まで殺す。何の計算もなく、ただ正直に言うだけで。
マツバがショーツを下ろした。白い布が太腿を滑って落ちた。イヨリの全身が露わになった。スウェットだけがめくれ上がった状態で、胸から下は何も身に着けていない。
マツバの指が、露わになった花弁に触れた。溢れ出した蜜が指にまとわりついた。とろとろに濡れている。マツバの嫉妬に興奮して、ここまで濡れてしまった奥さん。
「ここは、絶対に僕しか触らない」
「マツバさんだけだよ……♡ 永遠に……♡♡」
マツバの中指が花弁を割って中に沈んだ。温かくて柔らかい内壁が、指を迎え入れるように締め付けてきた。蜜がくちゅりと音を立てた。
「あっ……♡♡ マツバさんの指……♡♡」
「ここの中も、僕しか知らない」
マツバの指が、膣内をゆっくりと探った。内壁の敏感な場所を指の腹で撫で、くいっと押し上げた。イヨリの腰がびくんと跳ねた。
「ひゃっ……♡♡ そこっ……♡♡」
「ここが好きなんでしょう。知ってる。僕だけが知ってる」
二本目の指を追加した。中指と薬指で膣内を満たしながら、親指で蕾を撫でた。内と外から同時に刺激されて、イヨリの全身が震えた。
「あっ、あっ……♡♡♡ マツバさんっ……♡♡ 気持ちいいっ……♡♡♡」
「気持ちいい? じゃあもっと」
マツバの指が加速した。膣内をくちゅくちゅとかき回しながら、蕾を高速で弾いた。イヨリの腰が浮き上がって、太腿がガクガクと震えた。
「やっ……♡♡ もう……イっちゃう……♡♡♡」
「イって。僕の手で」
「イくっ……♡♡♡ マツバさんの手でイくっ……♡♡♡♡」
絶頂が訪れた。膣壁がマツバの指をぎゅうっと締め上げて、蜜が溢れた。イヨリの背中がソファから浮き上がり、全身が弓のように反った。声にならない悲鳴が喉から零れて、指先とつま先が痺れた。
マツバの腕が、絶頂の余韻で震えるイヨリを抱きしめた。畳に散らばったスウェットの上で、汗ばんだ額にキスを落として、髪を梳いた。
「……はぁ……はぁ……♡ マツバさん……♡」
「いい子だったね」
「……まだ、嫉妬してる……?」
「してるよ。だからまだ終わらない」
イヨリの目が大きく見開かれた。マツバの紫の瞳が、穏やかだけれど獣のような光を宿していた。優しい獣。愛する者を囲い込む、独占的な優しさ。
マツバがイヨリを抱き上げた。和室から、さらに奥の寝室へ。イヨリはスウェット一枚だけを纏って、あとは何も身に着けていない。マツバの腕の中で、とろんとした目をしていた。
ベッドに下ろされた。柔らかいシーツの上に、イヨリの身体が沈んだ。マツバがシャツのボタンを外し始めた。一つずつ、ゆっくりと。イヨリの目の前で。
「……マツバさん」
「ん?」
「私ね……宅配のお兄さんのこと、全然見てなかった。顔も覚えてない。だって、目の前にいるのがマツバさんじゃなかったら、私の目は誰のことも映さないから」
マツバの手が止まった。ボタンを外す手が。イヨリの目を見た。真っ赤な顔で、でもまっすぐに見上げている。嘘がない目だった。
マツバの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「……反則だよ、そういうこと言うの」
「本当のことだもん」
マツバが残りのボタンを一気に外して、シャツを脱ぎ捨てた。ズボンと下着も一緒に。裸になったマツバが、イヨリの上に覆いかぶさった。
イヨリの手が、マツバの胸に触れた。引き締まった胸筋の上に、小さな手のひらを当てた。心臓の鼓動が手のひらに伝わってきた。速い。いつもより、ずっと速い。
「マツバさんの心臓、すごく速い」
「イヨリのせいだよ」
「……嬉しい♡」
マツバがイヨリのスウェットを脱がせた。最後の一枚。これで二人とも裸になった。肌と肌が直接触れ合って、互いの体温が溶け合った。
マツバの怒張が、イヨリの太腿の内側に触れた。硬くて熱い。既に限界近くまで張り詰めていた。イヨリの指先が、それに触れた。
「……大きい……♡ マツバさん、すごく硬い……♡」
「嫉妬してた分、溜まってるんだよ」
「……♡ じゃあ、いっぱい出して……♡ 私の中に、全部……♡♡」
マツバの理性が、ぷつりと切れる音がした。
イヨリの太腿を開いた。花弁がまだ濡れていた。さっきの絶頂の余韻で、蜜がとろとろに溢れている。マツバの先端を花弁に当てた。
「入れるよ」
「来て……マツバさん……♡」
ゆっくりと、押し入った。膣壁が広げられて、マツバの熱が身体の中に沈んでいく。さっき指で刺激された内壁が、敏感になったまま、マツバのものを迎え入れた。ぬるりと蜜が結合部から溢れて、シーツに染みを作った。
「あぁ……♡♡ 入ってくる……♡♡ マツバさんが……♡♡」
「きつい……イヨリ、すごく締まってる……」
「だって……マツバさんのが……大きいんだもん……♡♡」
最奥まで辿り着いた。子宮口にマツバの先端がこつんと当たった。イヨリの全身がびくんと震えた。繋がった。マツバの全部が、イヨリの中にいる。
「全部入った……♡ マツバさんでいっぱい……♡♡」
「イヨリ。目を開けて」
「え……?♡」
「僕の顔を見て。繋がってる時は、僕だけを見て」
イヨリが目を開けた。マツバの紫の瞳が、すぐ目の前にあった。真剣で、熱くて、でも優しい瞳。独占欲と愛情が、等分に混ざった瞳。
「……マツバさん……♡」
「うん。僕だけを見て」
マツバが腰を動かし始めた。ゆっくりと引いて、ゆっくりと入れる。丁寧に。一回一回を、噛み締めるように。イヨリの身体を確かめるように。ここは僕のものだ。この温かさは僕のものだ。この締め付けは僕のものだ。
「あっ……♡ んっ……♡♡ マツバさん……気持ちいい……♡♡」
「僕も……イヨリの中、すごく気持ちいい……」
ぬちゅ、ぬちゅと水音が響いた。結合部から蜜が溢れて、律動のたびに泡立った。マツバの手がイヨリの左手を取って、指を絡めた。指輪同士がちん、と触れ合った。
「この音が聞こえるのは、僕だけ」
「マツバさんだけ……♡♡ 永遠に、マツバさんだけ……♡♡」
マツバの律動が、少しずつ速くなっていった。角度を変えて、イヨリの最も感じる場所を突いた。膣内の前壁にある、ざらりとした敏感な部分を、先端で擦り上げるように。
「ひぁっ……!♡♡♡ そこ……!♡♡ 気持ちいい……♡♡♡」
「ここは僕だけが知ってる場所だよ。僕だけがイヨリを気持ちよくできる」
「うんっ……♡♡ マツバさんだけ……♡♡ マツバさんだけが……私を気持ちよくできる……♡♡♡」
マツバの唇が、イヨリの首筋に吸い付いた。強めに。キスマークを残すように。鎖骨の上に、赤い痕を刻んだ。所有の証。
「痕、残すよ」
「残して……♡♡ いっぱい残して……♡♡ マツバさんのだって分かるように……♡♡」
マツバの唇が、首筋の反対側にも痕を刻んだ。胸の上にも。鎖骨の下にも。あちこちにキスマークを残していった。イヨリの白い肌に、赤い桜の花びらが散っていくように。
律動が加速した。ぱん、ぱんと肌が打ち合う音が響いた。マツバの腰が深く、強く、でも乱暴ではなく。愛を込めた一突きごとに、イヨリの全身が震えた。
「あっ、あっ……♡♡♡ マツバさん……♡ 好き……♡ 大好き……♡♡」
「僕も好きだよ。世界で一番」
「嫉妬してくれて……嬉しい……♡♡ 独占してくれて……嬉しい……♡♡♡」
「全部僕のものだよ。イヨリの全部が」
マツバの手が、イヨリの腰を掴んだ。引き寄せるように、深く突き入れた。最奥をぐりっと突き上げると、イヨリの全身がビクンと弓なりに反った。
「来るっ……♡♡♡ イくっ……♡♡♡ マツバさんのでイくっ……♡♡♡♡」
「僕も……一緒に……」
「一緒にイこう……♡♡♡♡ マツバさんの全部……ちょうだい……♡♡♡♡♡」
マツバの腰が、最後の加速をした。ぱんぱんぱんと連続で最奥を突いて、イヨリの膣壁が痙攣的に締め上げた。
「イくっ……!♡♡♡♡♡」
「イヨリっ……!」
同時に達した。イヨリの膣壁がマツバを激しく締め上げ、マツバが最奥で射精した。灼熱の精が子宮に注がれて、どくどくと脈打つ感触がイヨリの全身に伝わった。温かい。マツバの全部が、身体の中に満ちていく。
「あぁぁっ……♡♡♡♡♡ 温かい……♡ マツバさんので……いっぱいになった……♡♡♡♡♡♡」
イヨリの意識が白く弾けて、全身の力が抜けた。マツバの腕の中に崩れ落ちた。マツバもイヨリの上に倒れ込んで、荒い呼吸を繰り返した。
どれくらい経ったのか。
二人は横向きに抱き合って、ベッドに横たわっていた。結合は解かれて、イヨリの太腿の間からマツバの精がゆっくりと流れ出していた。
マツバの指が、イヨリの鎖骨の上のキスマークをなぞっていた。赤く色づいた痕。明日になれば、もっと濃くなる。
「……いっぱい痕つけちゃった。ごめん」
「ごめんじゃないよ。嬉しいのに」
イヨリが、自分の鎖骨に手を当てて、にこりと笑った。
「これで宅配の人が来ても大丈夫。マツバさんのだって分かるでしょ」
「……そもそも、次からは長袖を着て対応して」
「えー、めんどくさい」
「めんどくさくても。約束して」
「……はぁい」
イヨリが仕方なさそうに、でも嬉しそうに頷いた。マツバが真剣な顔で言うのが可笑しくて、でも愛おしくて。この人は本気で嫉妬してたんだ。宅配員のお兄さんに、自分の部屋着姿を見られたことが、本気で嫌だったんだ。
「マツバさん」
「ん?」
「でもね、一つだけ言いたいことがある」
「何?」
イヨリが、マツバの胸に指先で「の」の字を書いた。
「嫉妬した後のマツバさん、すっごく気持ちよかった♡」
マツバの顔が、珍しく赤くなった。
「……それは、僕のせいじゃなくて、イヨリが悪い」
「えー、何で私のせいなの」
「無自覚に煽るから。宅配員も、僕も、全員被害者だよ」
「煽ってないもん。普通にしてただけだもん」
「それが一番タチが悪いって言ってる」
マツバがため息をついた。イヨリが、くすくすと笑った。
「じゃあさ、マツバさん」
「うん」
「次の宅配が来たら、マツバさんが出てよ」
「……そうする」
マツバが即答した。真顔で。イヨリが声を上げて笑った。
「即答じゃん」
「当たり前だ。僕の奥さんを、もう誰にも見せない」
「……♡ マツバさんの奥さんでよかった」
イヨリがマツバの胸に顔を埋めた。心臓の音が聞こえる。さっきまで激しかった鼓動が、少しずつ穏やかになっていく。イヨリを包み込む、温かい音。
マツバの手が、イヨリの髪を梳いた。片側だけ跳ねた髪を指で整えながら。
「……あの宅配員」
「ん?」
「もしかしたら、今頃トラックの中で、イヨリのことを思い出してるかもしれない」
「えー、さすがにそれは自惚れすぎでしょ」
「いや。男は忘れない。あの格好は忘れない」
マツバが断言した。穏やかだけど、確信に満ちた声だった。
「でもね、イヨリ。あの宅配員がイヨリのことをどれだけ覚えていても、この温もりを知っているのは僕だけだ」
マツバがイヨリを抱きしめた。ぎゅっと、強く。裸の身体が密着して、体温が溶け合った。イヨリの中からまだ精がゆっくりと流れ出していて、それすらも温かくて、二人の繋がりの証のようだった。
「……うん」
イヨリが、マツバの胸に頬を擦り付けた。
「マツバさんだけだよ。全部、全部、マツバさんだけ」
「うん。知ってる」
「でも嫉妬はする?」
「する。たぶん一生」
「……嬉しい♡」
イヨリが小さく笑った。マツバがため息をついて、でもその唇は微かに笑っていた。
夕暮れの光がカーテン越しに差し込んで、二人の身体を金色に染めた。左手の薬指の指輪が、二つ並んで光っていた。
玄関先の罪と罰。
宅配員にとっては忘れられない午後だったかもしれない。でも、この寝室の中で起きたことは、永遠に誰にも知られない。マツバとイヨリだけの秘密。夫婦だけの、甘美な罰。
― Fin. ―
あとがき(佐藤美咲の独白)
主。前編と後編で視点が完全に切り替わるのよ。前編は宅配員の安西くんの目。後編はマツバとイヨリの親密な空間。同じ「あの姿」を、赤の他人と夫が見た時の差異。これが二話構成の醍醐味。
マツバの嫉妬を「暴力的でない独占欲」として書いた。怒鳴らない、責めない。でも「嫉妬してるだけ」と静かに告白する。この穏やかさの中にある強烈な独占欲が、マツバらしさよ。
嫉妬セックスを「確認作業」として描いたの。「ここは僕しか触らない」「この声は僕だけのもの」。一つ一つ確認しながら愛していく。暴力的な支配ではなく、愛情の再確認。
イヨリの「嫉妬してくれるの嬉しい」という台詞。これがこの作品の核心。独占されることが嬉しい。束縛ではなく、愛の証として受け取れる関係性。
最後の掛け合いが気に入ってる。「次の宅配はマツバさんが出て」「そうする」の即答。「即答じゃん」「当たり前だ」。真面目に嫉妬してるマツバと、それを楽しむイヨリ。この温度差が甘い。