焦がれる刻、蕩ける待宵【後編】
焦がれる刻、蕩ける待宵 ――後編――
障子の向こうで、梅の花弁がまた一枚、音もなく散った。
居間の空気は、穏やかで温かかった。行灯の柔らかな光が、畳の目を一本一本まで浮かび上がらせ、天井の古い木目に橙色の影を落としている。
時折、庭を渡る春先の夜風が障子を微かに揺らし、梅の枝を撫でる音だけが、この旧家に満ちた静寂を破っていた。
イヨリは、座卓に広げたノートパソコンの画面を見つめていた。
見つめては、いたが。
カルテの文字は、もうとっくに意味を成さない記号の羅列と化していた。
胸の奥に、鈍い痛みがある。
朝からずっと灯り続けていた甘い期待の炎が、今、燃え尽きようとしている。残り火すら消えかけて、あとに残ったのはひんやりとした灰色の虚しさだけ。
――今夜は、もういいのかな。
ぱたん、と。
イヨリは静かにノートパソコンを閉じた。
「……マツバさん。私、先にお布団敷いてきますね」
背後に向かって、努めて明るい声を出す。振り返りはしない。振り返ったら、自分のしょんぼりとした顔が見透かされてしまいそうで。
「ん? もうそんな時間か。……ありがとう、イヨリ」
マツバの返事は、あまりにも自然で、あまりにも穏やかで。
その「いつも通り」が、今日だけは、イヨリの胸にちくりと突き刺さった。
立ち上がる。
襖に手をかけた、その瞬間だった。
「――イヨリ」
声のトーンが、変わった。
低い。
甘い。
そして——恐ろしいほど、静かに研ぎ澄まされた刃のような、この世でイヨリだけが知る響き。
ぞく、と。
背筋を、稲妻のような悪寒が駆け抜けた。
振り返る間もなかった。
背後から伸びてきた長い腕が、イヨリの華奢な腰をがっしりと掴み、その身体を引き寄せた。背中にぶつかる硬い胸板の衝撃。白檀の香り。そして、うなじの、一番敏感な窪みに——熱い、濡れた唇が、吸い付くように落とされた。
「……っ!!」
全身の毛穴という毛穴が、一斉に粟立った。
膝から力が抜ける。腰が砕ける。もしマツバの腕が支えていなかったら、その場に崩れ落ちていた。
「ず——っと、限界だった」
うなじに唇を押し当てたまま、マツバが囁いた。
低く掠れた声が、首筋から骨を伝って、脳の奥まで直接響く。
「今日一日中、イヨリがそわそわしてるの、見てた。朝から心拍数が上がりっぱなしなの、ロトムの報告で知ってた。お風呂で念入りに身体磨いてたのも。市場で一番いい鰆を選んでたのも。夕飯の献立、全部僕の好物で揃えてくれたのも」
「え……っ、全部——」
「千里眼は使わないよ。使わなくても、わかる。僕の妻のことは、全部」
うなじの窪みに、舌先がちろりと這った。
イヨリの身体がびくんっと大きく跳ねる。
「ま、マツバさっ——待っ——あ、あの、さっきまで普通に——」
「普通になんか、してないよ」
マツバの声に、低い笑みが混じった。
「帰ってきた瞬間から、ずっと我慢してた。イヨリの割烹着姿を見た時点で理性の半分は飛んでた。僕の好物を並べてくれた膳を見て、もう八割方ダメだった。研究資料なんか一文字も頭に入ってない」
腰に回された腕に、じわりと力が込められる。
布越しに伝わる彼の体温が、常軌を逸している。まるで発熱している人間のように、全身が焼けるように熱い。
「でも——焦らしたかった」
「え……」
「一日中そわそわしてたイヨリを、帰ってきてからも焦らして。期待と不安の間でぐるぐるさせて。もうダメだって諦めかけたところで——こうして」
がぷっ、と。
うなじの薄い皮膚に、歯を立てられた。
「ひぁっ♡♡!!」
甘い悲鳴が、静かな居間に弾け飛んだ。
うなじ。イヨリの全身で最も敏感な場所の一つ。マツバの歯と唇と舌が、その脆弱な急所を余すことなく蹂躙する。噛みつく牙の鋭さと、傷を舐める舌の優しさが交互に押し寄せて、イヨリの思考回路を瞬く間に真っ白に焼き切った。
「やっ……うなじ、だめ……っ、いちばん弱い、とこ……っ♡」
「知ってる」
低い声が、嗤う。
「だから、ここから始める」
背後から腰を抱かれたまま、うなじを執拗にちゅう、ちゅうと音を立てて吸われる。歯で甘噛みされ、舌先で加減したかと思えば次の瞬間には、湿った水音と共に強く深く吸い上げ、確実にキスマークを刻みつけていく。
「あっ♡ ん……っ♡ 跡っ……跡、つかないとこに——」
「つけるよ。ここは髪で隠れるから」
容赦がない。
この人は優しいのに、こういう時だけ、酷く冷酷で、酷く丁寧に、イヨリの身体を壊していく。
マツバの唇がうなじから耳の後ろに移動した。耳介の柔らかい軟骨を甘噛みしながら、耳の穴に向かって、じゅるり、と舌先を這わせる。
「ひゃうっ♡♡!!」
背中がびくびくと痙攣する。耳は、うなじに次いでイヨリの弱い場所だ。耳の中に流し込まれる湿った吐息と水音が、ダイレクトに鼓膜を震わせ、そこから全身の神経をぐちゃぐちゃに撹拌していく。
「一週間、我慢させたお詫びだよ」
耳の中で囁かれた。
「今夜は——朝まで、たっぷり」
あの朝の台所で聞いたのと、全く同じ言葉。
でも今度は、約束ではなく、宣告だった。
「ついてきて」
マツバは、へなへなと崩れ落ちそうなイヨリの身体を軽々と抱き上げた。
お姫様抱っこ。この体格差でなければ成立しない、圧倒的な包容。156cmの華奢な身体が、174cmの引き締まった腕の中にすっぽりと収まる。
暗い廊下を歩く。
月明かりが障子越しに差し込み、マツバの金色の髪を白銀に光らせていた。
寝室の襖が開く。
布団はまだ敷かれていない。イヨリが「先に敷いてくる」と言ったまま、間に合わなかったのだ。
マツバは抱き上げたイヨリをそのまま、畳の上に敷かれた分厚い敷布団の上に、そっと横たえた。
月の光が障子を透かして、寝室に淡い青白い光を注いでいる。その光の中に寝かされたイヨリの黒髪が、畳の上に扇のように広がった。
マツバが、真上から見下ろしている。
紫色の瞳。月光を受けてなお、闇よりも深い色を湛えた瞳。そこに映っているのは、イヨリだけだ。この世界の何もかもが消え失せて、ただイヨリだけが、あの紫の奥に存在している。
「……怒って、ないかな」
「え……」
「焦らされて、嫌だったかなって」
ふ、と。マツバの目尻が柔らかく下がった。
獣のような支配欲と、少年のような不安が、あの美しい顔の中に同時に存在していた。
――この人は。
イヨリの目頭が、つんと熱くなる。
十分間の沈黙で、一日の寂しさも悔しさも吹き飛んでしまった。
イヨリは、畳の上に横たわったまま、両手をそっとマツバの首に回した。
「……怒ってません。ちょっとだけ——すごく——寂しかったけど」
「ごめんね」
「でも、今——こうしてくれてるから。もう、いいです」
ぎゅう、と。首にかけた腕に力を込める。マツバの身体が引き寄せられ、唇と唇の距離がほんの数センチにまで縮まる。
「……全部、してくださいね。朝まで。たっぷり」
マツバの紫の瞳が、すう、と細くなった。
その目の奥で、押し殺していた何かの蓋が、ぱちん、と音を立てて外れるのが見えた。
「——言ったね?」
唇が、重なった。
* * *
その口づけは、もう朝の玄関先での羽のようなキスとは全くの別物だった。
唇を合わせた瞬間から、マツバの舌が迷いなくイヨリの口内に侵入してきた。歯列をなぞり、上顎を舐め、そしてイヨリの舌を見つけると、絡めとるように吸い上げた。
「ん……っ♡ ん、ぷ……っ♡」
じゅるり、ちゅぷっ、と卑猥な水音が、月明かりだけの寝室に響き渡る。
口の中を蹂躙する舌の動きは濃密で、深くて、容赦がない。イヨリの小さな口をいっぱいに満たすように、唾液を交換し、呼吸すら奪う深い口づけ。
酸欠で頭がぼんやりしてくる。でも、離れたくない。一週間ぶりのこの味と温度と唾液の甘さが愛おしくて、イヨリは自分からマツバの舌を吸い返した。
「っ……」
マツバの肩がびくりと跳ねた。
短い唸りが喉奥から漏れる。
唇が離れた。銀色の糸が、二人の舌の間に一瞬だけ架かって、月光に透けて、落ちた。
「……反則」
マツバが、掠れた声で呟いた。紫の瞳が、もう完全に欲望の色に染まっている。
長い指が、イヨリの部屋着の合わせ目にかかった。
紐を解く。前を開く。
イヨリの白い肌が、月光の青白い光に晒される。
鎖骨。胸の丘の上辺。そして——ブラジャーに包まれた、豊かな双丘の谷間。
「一週間ぶり」
マツバが、信仰の対象を前にした修行僧のように、低く敬虔な声で呟いた。
「……恥ずかしいです、そんなに見ないで……」
「見る。一週間分、見る」
ブラジャーのホックに、マツバの指が触れた。
かちり、と外れる。
解放された白い双丘が、重力に従って柔らかく揺れた。形の良い薄桃色の乳首が、すでに小さく硬くなって、月明かりの中で微かに光っている。
「——きれい」
マツバが、息を呑むように言った。他のどんな言葉よりも重い、彼だけの祈り。
「マツバさ、ん……っ」
最初に唇が落ちたのは、鎖骨だった。
鎖骨の窪みに舌先を這わせ、そこから胸の上辺にかけて、ゆっくりと唇を滑らせていく。キスマークを刻むように吸い付き、舌で撫で、また少し場所をずらしてから同じことを繰り返す。
やがて唇が、右の乳首に到達した。
「あっ♡」
先端を唇で挟み、ちゅく、と軽く吸った。それだけで、イヨリの腰がぴくんと浮き上がる。
「一週間、触れなかっただけで、こんなに硬くなってる」
「言わないで……っ♡」
マツバは唇で乳首を転がしながら、空いた左手で、もう片方の胸を包み込んだ。大きな手のひらでも収まりきれない柔らかい果実を、優しく、でも所有を主張するように揉みしだく。
「ん♡ あっ♡ 両方はぁ——だめぇ♡」
舌先が乳首の先端をちろちろと転がす。頂点を歯で甘噛みすると同時に、左手の指でもう片方をくりくりと摘まむ。
イヨリの胸は、マツバに開発され尽くした超敏感ゾーンだ。ここだけで悲鳴のような甘い声が零れ、太腿がきゅうっと閉じ、下着の中がみるみるうちに濡れ始めていくのが、本人にもわかる。
「やぁっ♡♡ 吸わないでぇ♡♡、敏感になりすぎてっ——ひゃんっ♡♡!」
立っている乳首を、音を立てて強く吸い上げられた。ずるる、と吸引する湿った音が、静寂の寝室に淫靡に反響する。同時に左手が右の乳首を引っ張るように摘まみ上げ、ぷるんっと弾くように離す。
「あっあっ♡♡♡! だめっ、そこ弱いってわかってるくせにっ——」
「わかってるから攻めてるんだよ」
唇を乳首に吸い付かせたまま、マツバが残酷な笑みと共に見上げた。紫の瞳が、下から覗き込む角度で、真っ赤に染まったイヨリの顔を捉えている。
舌先が乳輪の縁をなぞりながら、乳首を口腔の中で、れろれろと嬲り回す。歯で挟み、舌で転がし、唇の圧力で扁平に潰してから、ぷくっと元の形に弾く。
「ひぃっ♡♡♡!! マツバさ——っ♡♡、胸だけで——おかしくなっ——♡♡♡」
腰が浮く。太腿がマツバの頭の横でがくがくと震えている。もう胸だけで、下腹部に熱い塊ができ始めている。子宮がきゅんっきゅんっと締まるように脈動し、秘所の奥からとろとろした愛液が溢れ出ているのがわかる。
マツバの唇が、胸から離れた。
吸われた跡が、両方の乳首の周辺に、赤い花のようにいくつも咲き乱れている。
「……下」
その一言に、イヨリの全身が強張った。
マツバの長い指が、イヨリの部屋着のボタンを下から順に外していく。つるりとした白いお腹が露わになる。窪んだ臍。そしてその下の、薄い下着だけが最後の砦として残っている場所。
下着の上から、指先が鼠径部をなぞった。
「ひっ♡♡♡!!」
鼠径部——太腿の付け根の、内側の柔らかな窪み。
ここが、イヨリの第三の弱点。うなじと胸に並ぶ、マツバだけが知り尽くした急所。
マツバの指が、下着の布越しに、左右の鼠径部の溝に沿って、V字を描くようにゆっくりと滑る。太腿と恥丘の境界線をなぞるだけの、ささやかすぎる刺激。
それなのに。
「やぁっ♡♡♡! そこっ♡♡、弱いっ——弱いですぅ♡♡♡!」
腰が跳ね上がる。両足がばたばたと畳を蹴る。まだ秘所には一切触れていないのに、鼠径部への刺激だけで、イヨリの身体は破裂寸前の風船のように膨れ上がっている。
マツバは指を止めず、鼠径部の溝を往復しながら、顔を下腹部にまで降ろしてきた。臍の下に唇を落とし、舌先でちろちろと撫でながら、さらに下へ。
下着の上から、鼠径部の薄い皮膚に——唇を押し当てた。
「ッ♡♡♡♡♡!!」
ちゅう、と吸われる。吸い付いた唇の中で、舌先がくるくると円を描きながら鼠径部の敏感な皮膚を弄ぶ。
「ここにもつけるね」
キスマーク。
服で隠れる場所に、確実に、丁寧に、所有の印を刻んでいく。
「やぁっ♡♡♡!! 鼠径部吸わないでぇ♡♡♡!! おかしくなるっ♡♡♡!」
左の鼠径部を吸い終えると、右に移動。同じように唇を押し当て、ちゅう、じゅるっ、と音を立てて赤い花を咲かせる。指は相変わらず、両方の鼠径部の溝を交互になぞり続けている。
もう限界だった。
「まっ——マツバさっ——っ♡♡♡、もう、無理っ♡♡、来てるっ♡♡♡、鼠径部だけでっ♡♡♡——」
「イっていいよ」
その瞬間、マツバが鼠径部の薄い皮膚を歯で甘噛みしながら、ずるぅ、と長く深く吸い上げた。
「あっあっ♡♡♡♡♡——ッッ!!♡♡♡♡♡♡」
イヨリの身体が、びくうっ!!と弓なりに反った。
下腹部の奥で、何かが弾けた。ぐわんっ、と脳の奥で白い閃光が瞬き、全身の筋肉が一斉に痙攣する。
最初の絶頂。
秘所に一切触れられることなく、うなじと胸と鼠径部への愛撫だけで達した、純粋な快感の爆発。
「あ……♡ あぁ……♡♡」
びくっ、びくっ、と余韻で全身が震え続ける。
下着が、もう完全にぐっしょりと濡れ透けている。
「——前菜は、終わり」
マツバが、鼠径部の上で顔を上げた。
紫色の瞳が、月光の中で獣のように光っている。
唇の端が、酷く美しく、酷く歪に吊り上がっていた。
「ここからが、本番だよ」
* * *
下着が、ゆっくりと脱がされた。
マツバの長い指が、イヨリの太腿に指を添えて布地をずらしていく。太腿の内側を滑り落ちていく布の感触が、ぞくりとした羞恥と期待を同時に煽る。
足首まで下ろされた下着が、畳の上にぽとりと落ちた。
もう、何も纏っていない。
月明かりの中に、イヨリの身体が一糸も残さず晒されている。
マツバの視線が、秘所に注がれた。
「もうこんなに……」
イヨリの秘所は、先ほどの絶頂の余韻と一週間分の渇望が混ざり合って、もう溢れんばかりに濡れそぼっていた。透明な蜜が花弁の上でとろりと光り、内腿を伝って畳に染みを作り始めている。
「はずかし——見ないで……っ♡」
「見る。全部見る。一週間も見れなかったんだから」
マツバが、イヨリの両膝をそっと押し開いた。
抵抗しようとしたが、腕に力が入らない。さっきの絶頂で全身が弛緩しきっている。結果、膝は簡単に開かれてしまい、秘所の全てが——ぷっくりと紅潮した花弁も、蜜を零す入口も、その上の敏感な真珠も——無防備にマツバの前に花開いた。
マツバが、顔を沈めた。
最初に来たのは、吐息だった。
秘所の数センチ上から、ふぅ、と温かな息を吹きかけられる。濡れた粘膜に風が触れるだけで、ひくん、と花弁が痙攣する。
「っ♡♡」
「舐めるよ」
宣言の直後、マツバの舌が、秘所の一番下——会陰のあたりから、ゆっくりと上に向かって舐め上げた。
ずる……り。
長い舌が、溢れた蜜を掬い取りながら、花弁の間をなぞるように上昇する。左右の大陰唇の間に舌先を割り込ませ、内側の柔らかなひだを一枚一枚丁寧に舐めしだいていく。
「あ♡♡♡!! あぁっ♡♡♡!!」
直接的な快感の波が、下半身からぶわっと押し寄せてくる。背中が反る。両手が無意識にマツバの金色の髪を掴む。
舌先が、入口の縁をくるりとなぞった。
ぴくんっ、と腰が跳ねる。
「ここ……一週間ぶりだね。寂しかった?」
「しゃ、喋らないでくださいっ♡♡♡!! そこで喋ると震動がっ——ひぁっ♡♡♡♡!」
入口に舌先をちゅるっと差し込まれる。
浅く、でも確実に。膣壁の入口にある敏感な粘膜を、舌先でぷにぷにと押す。
「やぁっ♡♡♡♡!! 舌っ♡♡♡、中にっ♡♡♡!」
マツバの舌が、ゆっくりと引き抜かれた。
そして――真珠へ。
舌の腹で、包皮ごと押し上げるようにして、硬く充血した真珠を露出させた。
先端に——ちろ、と舌先を当てる。
「ひぃやぁっ♡♡♡♡♡♡!!」
全身がびっくんと大きく跳ね上がった。
電撃のような快感。脳の奥がぱちぱちと発火する。反射的に両足が閉じようとしたが、マツバの両手が太腿の内側をしっかりと押さえ、逃げ道を封じている。
「っ♡♡♡♡!! だめぇっ♡♡♡♡!!直接はっ♡♡♡♡♡!!!」
「大丈夫。優しくするから」
嘘つき。
この人の「優しく」は、世間一般のそれとは全く定義が異なる。
舌先が、真珠の頂点を、時計回りにゆぅっくりと円を描き始めた。微細な圧力で。されど一ミリも逃さない正確さで。包皮と先端の境目に舌先を潜り込ませ、横に、縦に、斜めに。あらゆる角度からイヨリの最大級の快感スイッチを刺激する。
「やぁっ♡♡♡♡♡! またっ♡♡♡♡! 来てるっ♡♡♡♡!!」
同時に、マツバの右手の中指が、とろとろに濡れた秘所の入口に、するりと差し込まれた。
「ひっ♡♡♡♡!!」
長い指が、膣内の前壁を撫でる。入口から数センチ奥の、ざらざらとした敏感なスポットを正確に見つけ出す。
くい、くい、と。指の腹でそこを刺激しながら、舌はひたすら真珠を弄び続ける。
「あっあっあっ♡♡♡♡! 指っ♡♡、舌っ♡♡♡、両方はっ♡♡♡♡! だめだめだめっ♡♡♡♡♡!!」
上と中と、二か所同時の刺激。
頭の中がぐちゃぐちゃに掻き回されて、何も考えられない。
「マツバさっ♡♡♡♡!! イく♡♡♡♡!! もうイっちゃうぅ♡♡♡♡♡!!!」
「——イけ」
命令と同時に、真珠を唇で挟んで、ちゅぅぅぅっ、と強く深く吸い上げながら、膣内の指がGスポットをぐりっと強く押し上げた。
「ッッーーーーっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!」
二度目の絶頂。
今度は、さっきとは比較にならない激しさだった。
びくっびくっびくっ♡♡♡♡——全身が激しく痙攣する。
じゅぷっ——!
「あ♡♡♡♡♡♡!! でっ、でちゃ♡♡♡♡!! お水でちゃいますぅ♡♡♡♡♡♡!!」
潮が吹いた。
マツバの口元と手を濡らしながら、透明な液体がぷしゃっ、ぷしゃっ、と脈動するように溢れ出る。快感の頂点で締め付けた膣壁が指を力強く搾り、その圧力が潮吹きをさらに促していた。
マツバは指を抜かず、膣壁を優しくさすりながら、波が引いていくのを丁寧に見守った。
「……すごいね。一週間分、溜まってたんだね」
「言わないでぇ……♡♡♡」
びくびくと余韻で震えながら、イヨリは両手で自分の顔を覆い隠した。
恥ずかしい。でも気持ちよかった。マツバの舌と指が、自分の身体の全てを知り尽くしていることが、恥ずかしいのに嬉しくて、たまらない。
マツバが、イヨリの上に覆いかぶさるように体勢を変えた。
いつの間にか上半身は裸になっている。月明かりに照らされた引き締まった胸板と、薄く割れた腹筋が、イヨリの目に入った。着痩せする人だが、脱ぐとその鍛え抜かれた身体は、確かに武道家のそれだった。
下も——もう、限界なのだろう。
着物の前がはだけた先に、マツバの昂りが硬く屹立していた。
「……大きい」
イヨリは、自分の口から無意識にそう漏らしていた。何度見ても、彼のそれは大きくて太くて硬くて、怖いくらいに雄々しかった。
「入れるよ」
マツバが、イヨリの両膝をそっと持ち上げた。大きく開かれた太腿の間に、自分の腰を収める。滾った先端が、濡れそぼった秘所の入口に、こつん、と当たった。
「……ぁ♡」
その一点の接触だけで、全身に電流が走る。焼けるような熱。硬いのに肌は滑らかで、今にも脈打つ鼓動すら感じられるほどの生命の塊。
「一週間ぶりだから。ゆっくり、入れるね」
「……はい♡」
先端が、花弁を押し開き始めた。
ぬるり、と。たっぷりの蜜が潤滑の役割を果たし、抵抗なく入口が受け入れ態勢を整える。
ずぷっ……
先端が、呑み込まれた。
「っ♡♡♡♡!!」
一週間ぶりの異物感。
いや、異物ではない。この人のこれは、もう自分の身体の一部だ。ずっと欠けていたものが戻ってきた感覚。内壁がきゅうっとマツバを締め付け、もっと奥に来てほしいと叫んでいる。
「きつ……っ♡♡♡、一週間あいたから♡♡、きつくなってるっ♡♡♡」
「……ッ、イヨリ……すごい、締めてる……」
マツバの声も、もう平静ではなかった。額に汗の珠が浮かび、紫の瞳が欲望の炎でめらめらと燃えている。
ゆっくりと、奥へ。
太い幹が、イヨリの狭い花道を少しずつ押し広げていく。内壁がぴったりと密着し、侵入する形を寸分の隙もなく包み込んでいく。
ずぷ……ずぷぷ……
「あぁっ♡♡♡♡♡!! どんどん奥に♡♡♡♡!! 広がってくっ♡♡♡♡♡♡!」
半分ほど入った。
マツバの太さと長さを、身体が思い出していく。一週間ぶりの充足感。中身がぎっしりと詰まっていく満ち足りた幸福。
そして——先端が、奥の壁に到達した。
こつん。
「ひぁっ♡♡♡♡♡♡♡!!!」
子宮口を、とん、とノックされた。
イヨリの目の前が、真っ白に弾けた。背骨から脳天まで、甘い電流が一気に駆け上がる。
「あぁっ♡♡♡♡♡! おくっ♡♡♡♡♡! 当たったっ♡♡♡♡♡♡!!」
「全部入ったよ」
マツバが、密着した腰をぐっと押しつけて、最深部まで到達したことを告げた。
イヨリの中に、マツバが完全に収まっている。内壁の隅々まで彼の形で満たされて、先端は子宮口にぴったりと密着していた。
そこで脈打っている。
とくん。とくん。とくん。
マツバの心臓の鼓動が、最も深い場所を通じてイヨリに直接伝わっている。
「マツバさん……♡♡、脈♡♡♡、感じる♡♡♡♡」
「僕も。イヨリの中が、どくどく脈打ってるの、わかるよ」
額と額を合わせて、紫の瞳と黒い瞳がすぐ近くで重なった。
「動くよ」
ゆっくりと、腰が引かれた。
内壁がマツバを離すまいと吸い付き、名残惜しそうにしがみつく。ぬるりとした蜜の音が、卑猥に響く。
そして——また、押し込まれる。
とん。
「ひぁっ♡♡♡♡♡♡♡!!」
子宮口に当たる。
一突きごとに、お腹の奥が甘く痺れる。ずしん、と重い快感の波が子宮から全身に広がり、指先からつま先まで、しびれるような幸福で満たしていく。
とん。とん。とん。
リズムが生まれた。
ゆっくりと、深く、最奥まで到達するピストン。引いて、押して。引いて、押して。一突きごとに子宮口を確実にノックする。
「やぁっ♡♡♡♡♡! 子宮っ♡♡♡♡♡、トントンされてっ♡♡♡♡♡♡!! お腹の奥がぁっ♡♡♡♡♡♡!!」
イヨリは子宮への刺激に極端に弱い。
ポルチオと呼ばれる子宮口周辺の粘膜は、マツバの手によって長い月日をかけて丁寧に開発されてきた。今では先端が触れるだけで甘い絶頂が押し寄せ、押し込まれればお腹の底から全身を飲み込むような深い快感の海に沈められる。
とんとんとんとん。
テンポが少しだけ上がった。
先端が、子宮口を小刻みにノックする。
「あっあっあっ♡♡♡♡♡♡♡♡!! だめっ♡♡♡♡♡! 子宮トントンしないでぇっ♡♡♡♡♡♡!! すぐイっちゃうのっ♡♡♡♡♡♡♡!!」
「いいよ。好きなだけイって」
マツバの声は、獣の唸りに近い低さにまで落ちていた。
腰の動きが緩むことはない。それどころか、角度を微妙に変えながら、子宮口の最も敏感なポイントを探り当てようとしている。
——見つけた。
ぐりっ。
「ッッッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!」
子宮口のやや左上——イヨリのポルチオの最深最弱の一点を、先端でぐりぐりと抉るように圧迫した。
「ひぁああああっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! そこっ♡♡♡♡♡♡!!! そこだめぇぇっ♡♡♡♡♡♡♡♡!!! 一番弱いとこぉっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
ぐりぐりぐり。
容赦なく、されど器用に。
硬い先端が、子宮口の敏感な一点を執拗に、三百六十度あらゆる角度から刺激する。
「イくっ♡♡♡♡♡♡♡♡!!! イっちゃうっ♡♡♡♡♡♡♡♡!!! ポルチオでイっちゃうのぉっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
「——イけ」
ぐりっっ!と、最深を押し込まれた瞬間。
「ッっ——♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」
三度目の絶頂。
しかし今度のそれは、それまでのどの快感とも次元が異なっていた。
子宮が——ぎゅうぅぅぅぅっ、と。
子宮ごと収縮する感覚。膣壁が狂ったようにマツバを締め付け、全身のあらゆる筋肉がびくびくびくびくと痙攣する。
じゅぷぷぷぷっ——!!
「あぁっ♡♡♡♡♡♡♡!! また出ちゃ♡♡♡♡♡♡♡♡!! お水がぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
潮が、二度目。
結合部からびしゃびしゃと溢れ出す透明な液が、二人の下腹部と太腿を濡らし、敷布団に広い染みを作っていく。
絶頂の波の中で、マツバは腰を止めなかった。
過敏になった膣壁を擦り続ける容赦のないピストンが、終わったはずの絶頂をそのまま次の絶頂に連鎖させていく。
「ま、待っ♡♡♡♡♡♡!! まだイって♡♡♡♡♡! 止まらなっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
四度目。五度目。境界がわからない。もう絶頂が途切れない。子宮がどくどくと脈打つたびに、新しい波が押し寄せてくる。
「マツバさっ♡♡♡♡♡♡♡!! 好き♡♡♡♡♡♡♡♡!! だいすき♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! 一週間、ずっと♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡、マツバさんが欲しかった♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
「僕もだよ。ずっと——ずっと、イヨリが欲しかった」
マツバの声が掠れ、ついに天井を仰いだ。
「中に——出すよ。いっぱい。一週間分、全部」
「来てっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! 全部欲しいっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! 子宮にっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! 全部注いでぇっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!」
マツバの動きが変わった。
深く、速く、強く——しかし乱暴ではない。イヨリの身体を知り尽くした男だけができる、最深部を正確に突き続ける完璧なピストン。
とんとんとんとんとんっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!
「あっあっあっあっあっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
限界だった。二人同時の。
マツバの身体が強張り、最深部まで押し込んだまま——
「ッ——!!」
どくんっ。
「ひぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!」
熱い。
体温をはるかに超えた灼熱の液体が、子宮口から子宮の中に流し込まれる。どくんっ、どくんっ、どくんっ、と脈打つたびに、新しい熱が注がれていく。
同時にイヨリの中も——ぎゅうぅぅぅぅぅっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡、と。
子宮が、搾り取るように収縮する。一滴も逃すまいと、マツバの全てを貪り尽くすように、膣壁がぎゅうぎゅうと律動する。
「あ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……温かい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……子宮がっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡、マツバさんでいっぱいっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……」
どくんっ。どくんっ。どくんっ。まだ出ている。
一週間分の精が、イヨリの最も深い場所に、とめどなく注がれ続けている。子宮が精液の温もりで満たされていく。体の芯から、じんわりと温まっていく。
「いっぱい……♡♡♡♡♡♡ たくさん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……マツバさんの♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……全部♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡、もらったぁ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……」
射精の脈動が、ゆっくりと収まっていく。最後にとくん、と弱い一拍があって、それで終わった。
マツバの全身から力が抜け、イヨリの上に、崩れるように重なった。
額と額がくっつく。荒い吐息が、互いの唇を温める。
「……すごかった」
マツバが、掠れた声で囁いた。
「わたしもです……♡♡♡♡♡♡」
イヨリの目から、涙が一筋、こぼれ落ちた。
気持ちよくて。幸せで。この人と一つになれたことが、たまらなく嬉しくて。
「……泣いてる」
「嬉し泣きです。マツバさんと——やっと、繋がれたから」
マツバの目元が、ふわりと柔らかくなった。
イヨリの頬に落ちた涙を、唇で掬うように吸い取ってくれた。
* * *
余韻に浸る時間は、短かった。
繋がったまま額を合わせていたのは、ほんの数分間だけ。
「——まだ、終わらないよ」
マツバの声が、まだ低く掠れたまま、耳元に落ちてきた。
「朝まで、って言ったでしょ」
囁くようなのに、有無を言わせない強さ。紫の瞳が再び獣の色を帯びて、月明かりの中で不穏に光っている。
「えっ……まだ……?」
「一週間分だよ。一回で足りるわけないじゃない」
イヨリの中で、まだ硬さを保ったままのマツバが——僅かに腰を動かした。
「ひゃっ♡♡♡!!」
先ほどの射精で過敏を極めた膣壁に、その微かな動きすら激烈な快感を生む。ぎゅうっと締め付けてしまった内壁を、マツバの硬い幹がぬるりと擦る。
「こうして繋がったまま、僕がまた硬くなるのを感じてほしい。イヨリの中で」
「……っ♡♡♡♡♡!」
脈打ちが、明らかに強くなっていく。
先ほど射精したばかりなのに、イヨリの膣壁をかき分けるように、サイズが元のそれ以上に膨張する。
「やっ♡♡♡、また大きくなって♡♡♡……」
「イヨリのせいだよ。イヨリの中が気持ちよすぎるから」
体勢が変わった。
マツバはイヨリの身体を抱き起こし、自分の膝の上に座らせた。対面座位。互いの身体が隙間なく密着し、肌と肌、胸と胸が重なる体勢。
この姿勢では、重力がイヨリの身体をさらに深く貫かせる。自重で沈み込むたびに、先端が子宮口をぐいっと押し上げ、先ほどとは異なる角度からポルチオを圧迫する。
「あぁっ♡♡♡♡♡♡♡!! 深いっ♡♡♡♡♡!! さっきよりもっと奥にっ♡♡♡♡♡♡!!」
「この角度だと、もっと深く入る。……イヨリが一番弱いところに、ずっと当たり続ける角度」
知っている。この人は知っている。
イヨリの身体の全てを。
どの角度が最も深く到達するか。どの速さが最も激しい反応を引き出すか。どの言葉が、イヨリの理性の最後の砦を粉砕するか。
「動いて。イヨリが。自分で腰を動かして」
「っ♡♡♡♡♡♡!! わ、私がっ♡♡♡♡♡……?」
「うん。自分で、気持ちいいところに当てて」
その言葉は、優しい命令だった。
でもイヨリには——抗えない。
自分の手で快感を求めなければならないという、途方もない羞恥と興奮が、下腹部で渦巻いている。
そっと、腰を持ち上げる。
ずる……と、濡れた音を立ててマツバの幹が引き抜かれていく。半分ほど抜けたところで、ストン、と腰を落とす。
ずぷんっ♡♡♡♡♡♡。
「ひぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
自重で、一番奥まで一気に突き刺さった。
先端が子宮口を突き上げ、ぐり、とポルチオの一番弱い場所に直撃する。
「っ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! 自分でっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! すごいっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! 自分で一番深いとこに当てちゃった♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
「そう。気持ちいいところ、わかってるじゃない」
マツバの両手が、イヨリの柔らかな腰に添えられた。上から押さえつけるのではなく、動きをサポートするように。
そしてイヨリが腰を持ち上げるたびに、下からぐいっと突き上げる。
上からの自重と、下からの突き上げ。二つの力が、ポルチオの一点で衝突する。
「やっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! マツバさんも下からっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! だめっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! 挟み撃ちはっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
ぐちゅっ♡♡♡、ぬちゅっ♡♡♡、ずぷっ♡♡♡——
結合部から卑猥な水音が、途切れなく寝室中に響き渡る。先ほどの射精と潮吹きの残りが、ピストンのたびに泡立ち、二人の太腿を白く濁った液で汚していく。
イヨリは、マツバの肩にしがみつきながら、我を忘れて腰を振り続けていた。
もう恥じらいも余裕もない。ただ、子宮の奥が求める快感を追い求めて、自分から貪っている。
「マツバさっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! 好きっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! 好き好き好きぃっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
「僕も好きだよ、イヨリ」
マツバが、腰を振りながらイヨリの唇を塞いだ。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が、下半身からも上半身からも同時に響く。舌と舌が絡まり合いながら、腰と腰が打ち合い続ける。
不意に。
イヨリが、両足をマツバの腰にぎゅっと絡みつけた。
だいしゅきホールド。
「!!」
マツバの身体が、びくっと大きく震えた。
紫の瞳が、一瞬見開かれる。
イヨリの左足は本来、後遺症のために力が入りにくい。だいしゅきホールドをするためには、右足だけで体を支えつつ、動きにくい左足を必死にマツバの腰に巻きつけなければならない。
それでも。
この人から離れたくなくて、この人をもっと深く受け入れたくて、イヨリは全力で、不自由な左足に力を込めた。
「——離さないで」
マツバの声が、震えた。
獣の唸りでも、スパダリの余裕でもない。ただ純粋に、愛する女を求める男の、震えた声。
「離しません♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……絶対に♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……」
その言葉が引き金だった。
マツバの腰が、凄まじい速度で動き始めた。
対面座位の密着したまま、下から突き上げるピストンが、もう手加減を放棄している。
とんとんとんとんとんとんっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!
「あっあっあっあっあっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!! 子宮ぅっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! 子宮にキスしてっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! ぐりぐりしてぇっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
もう言葉すら壊れている。
頭の中が真っ白で、何も考えられない。ただ子宮の奥を突き上げられる快感だけが、視界を埋め尽くす花火のように次々と炸裂している。
「イく♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! またイっちゃう♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!! 止まらないのぉ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
「一緒にイこう。イヨリ」
「一緒にっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!! 一緒にイくぅっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!」
「——イけ」
最後の一突きが、ポルチオの最弱点を真正面から貫いた。
「ッっっっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!!!!」
今夜最大の絶頂が、イヨリの全身を呑み込んだ。
同時に。
どくんっっっ!!!
マツバが、二度目の射精を迎えた。
子宮口に密着した先端から、灼熱の精が二度目の奔流となって注ぎ込まれる。先ほどの分がまだ子宮の中に残っているのに、新しい熱がさらに押し込まれて、容量を超えた液体が結合部からじゅぷじゅぷと溢れ出す。
「あぁ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……また出てるっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……温かい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……いっぱい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……」
子宮の中が精液の熱でぱんぱんに満たされていく。二回分の精液が子宮壁を温め、体の中心から指先まで、じんわりとした温もりが広がっていく。
お腹を、内側から温められている。
この人の愛で、命で、満たしてもらっている。
イヨリは、マツバの肩に顔を埋めた。
だいしゅきホールドの腕と足は、もう力が入らない。左足が微かに震えている。でも、離したくなかった。ゆっくりと力が抜けていく手足を、マツバが大きな両腕で包み込んでくれた。
「……頑張ったね、イヨリ」
耳元で、優しい声がした。獣ではなく、夫の声。
「左足、痛くない?」
「……大丈夫、です」
「無理しちゃだめだよ。……でも、ありがとう。嬉しかった」
だいしゅきホールドのことだ。
左足が不自由なのを知っていて、それでも全力で抱きしめてくれたことへの、心からの感謝。
イヨリは、マツバの広い背中にぎゅっとしがみついたまま、小さく笑った。
「だって、マツバさんのこと……離したくないんだもん……♡♡♡♡♡」
タメ口。もう理性は完全にどこかへ旅立っている。
マツバの喉が、ぐっ、と鳴った。
「……もう一回って言ったら——怒る?」
「……怒んない♡」
* * *
三度目は、スプーンの体勢で。
マツバが背後からイヨリを抱き、横たわったまま穏やかに腰を動かした。
激しさよりも、密着感を。速さよりも、深さを。ゆっくりと、ゆっくりと、子宮口をとん、とん、と静かにノックしながら、うなじにキスの雨を降らせる。
「や♡♡♡♡♡♡……うなじ♡♡♡♡♡♡……後ろからうなじ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……甘い♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……っ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
うなじを吸われながら、奥をゆっくり突かれる。
二つの弱点を同時に刺激されて、もう声すら出ない。涙だけが次から次へと枕を濡らしていく。
マツバの左手が、背後からイヨリのお腹を包んだ。先ほどたっぷりと注いだ精液で温まった子宮の上を、大きな手のひらが優しく撫でる。
「ここに、僕のが、いっぱい入ってるんだね」
「ん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……温かい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……マツバさんので♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……いっぱい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……」
三度目の射精は、静かだった。
どくん……どくん……と、穏やかな脈動でイヨリの奥に注がれる精液。もう子宮がいっぱいで、注がれる端から溢れ出して太腿を伝い、敷布団を温かく濡らしていく。
「……好きだよ、イヨリ」
「……好きです♡♡♡♡♡、マツバさん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡……世界で一番……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
繋がったまま、互いの手を絡めた。左手と左手。指と指の間を埋めるように、ぎゅっ、と握り合う。
障子の向こうで、夜風が梅の木を揺らす。
白い花弁が、月明かりの中を舞いながら、一枚、また一枚と散っていった。
* * *
事が終わった後のマツバは、信じられないほどに丁寧だった。
ぬるま湯で濡らした柔らかなタオルで、イヨリの全身を、一寸の曇りもなく拭き清めてくれた。
太腿についた白い液を丁寧に拭い、汗で張り付いた黒髪を額からそっと掻き上げ、うなじと鼠径部に咲き乱れた赤い花たちの上にも、慈しむようにタオルを当ててくれる。
「……痛いところ、ない?」
「ないです。ちょっと……足が、ふにゃふにゃで、立てないくらいですけど」
「それは——まぁ、ごめん」
照れたように目を逸らすマツバの横顔が、行灯の明かりに柔らかく照らされていた。さっきまで獣のように瞳を光らせていた人と同一人物とは、やっぱり到底思えない。
汚れた敷布団を手際よく交換し、新しいシーツを敷いてくれた。パジャマをイヨリに着せてくれた。ボタンを一つ一つ留めながら、胸元のキスマークが隠れるのを確認して小さく満足そうに頷く姿が、可笑しくて愛おしかった。
「髪、乾かすね」
ブラシを手に取り、イヨリの後ろに回って、丹念に髪を梳いてくれた。
毛先まで丁寧にブラシを通し、指で絡まりを解いて、ドライヤーの温風でゆっくりと乾かしていく。マツバが一番好きだと言ってくれる髪を、壊れ物でも扱うような繊細な手つきで。
「……マツバさん」
「ん?」
「今日、ずるかったです。朝あんなこと言って、一日中そわそわさせておいて、帰ってきたら知らん顔して」
「……バレてた? 僕が演技してたこと」
「最初はわからなかったです。本当に忘れたのかなって思って……すごく寂しかった」
「ごめん」
「でも——あのあと、ああやって仕掛けてきた時、全部吹き飛びました」
イヨリは小さく笑った。
「一日中溜め込んだ分もあったのかな。……マツバさんにしてもらったの、全部、すごく、気持ちよかった」
「…………」
背後で、ブラシを動かす手が一瞬止まった。
そしてドライヤーの音に紛れるように、マツバが低く呟いた。
「……そういうこと言うから、また襲いたくなるんだよ、イヨリは」
「え? 今何てっ——」
「何も」
穏やかな声で否定しながら、再びブラシが動き始める。
やがて。
全てが終わり、清潔な布団の中に、二人は並んで横になった。
マツバの腕がイヨリの腰に回される。大きな手がお腹を包む。いつもの定位置。背中に密着する胸板は、もう獣の激情を鎮め、穏やかな夫の温もりだけを伝えている。
お腹の中には、まだ、マツバがくれたものが温かく残っていた。三回分の温もりが、子宮の奥でゆっくりと体温に馴染んでいく。
「……おやすみ、イヨリ」
「……おやすみなさい、マツバさん」
目を閉じる。
今日一日——朝のあの台所から、長い長い一日だった。
そわそわして、どきどきして、がっかりして、そしてこんなにも幸せな夜を迎えて。
朝、あの人が囁いた言葉を思い出す。
「今夜は——朝までたっぷり、愛させてくれ」
約束は、この上なく完璧に果たされた。
――マツバさん。
焦らされたのは、ちょっとだけ意地悪だったけど。
でも、あれがなかったら——一日分の「待つ時間」がなかったら——きっとこの夜は、こんなにも甘くなかった。
焦がれることで、蕩ける。
待つことで、満たされる。
この人は、それすらも計算していたのだろうか。
だとしたら——本当に、ずるい人だ。
そして——世界一、大好きな人だ。
マツバの腕の中で、イヨリは満ち足りた笑みを浮かべたまま、深い眠りに落ちていった。
障子の向こうでは、春先の夜風がなおも梅の枝を揺らし、白い花弁を静かに散らしている。
やがて夜が更け、月が傾き、東の空が僅かに白みを帯び始める頃。
マツバもまた、腕の中の妻の温もりを確かめるように、少しだけ腕の力を強めた。
彼の薄い唇が、イヨリの後頭部にそっと触れる。
音のないキス。
――焦がれてくれてありがとう、イヨリ。
その想いだけを、吐息に乗せて。
夜が、穏やかに明けていく。
梅の古木の下に零れた白い花弁が、朝露に濡れて、新しい春の光を静かに受け止めていた。
――後編・了――
あとがき by 佐藤美咲
朝からの焦らしと一週間の我慢が爆発した結果、マツバさんの独占欲とイヨリさんの体力が限界突破する後編をお届けしました。うなじ、胸、ポルチオ……とイヨリさんの弱点を片っ端から攻め尽くし、最後にはだいしゅきホールドに応えて理性が飛ぶマツバさんが書けて大満足です!
最後までお読みいただきありがとうございました♡