ECHOES OF ECRUTEAK

星と花の小夜曲

― マツバ × イヨリ ―
STARRING MATSUBA & IYORI

膨らむ果実、蜜月の境界
― 十月十日の肖像 番外編 ―

【一】先生のお墨付き

桐生医師は、眼鏡の奥でにやりと笑った。

「夫婦生活についてですが」

その一言で、マツバの耳が瞬時に赤く染まった。診察室のパイプ椅子に正座のような姿勢で座っていた男が、背筋をさらに伸ばし、紫の瞳を泳がせている。イヨリは診察台の上でエコーのジェルを拭きながら、平静を装っていたが、頬が薄紅色に染まっているのを桐生医師は見逃さなかった。

「安定期に入って、お二人とも気になっているでしょう。聞かなくても顔に書いてあるわよ、お父さん」

マツバが咳払いをした。千里先を見通す眼が、今この瞬間は五センチ先の自分の膝しか見ていない。

「結論から言います。問題ありません。安定期の健康な妊婦であれば、適度な夫婦生活は推奨されることもあるくらいです。ただし——条件があります」

桐生医師が指を三本立てた。

「一つ。お腹を圧迫しない体位で。二つ。イヨリさんが少しでも痛みや違和感を感じたら即座に中止すること。三つ。激しくしないこと。——お父さん、聞いてます?」

「聞いてます」

マツバの声が裏返った。二十七歳のジムリーダーが、六十代の産婦人科医の前で声が裏返る。イヨリが小さく吹き出した。

「横向きの姿勢が一番楽だと思います。後ろから支えるような形で。お腹が大きくなってきているから、仰向けは避けて。イヨリさんはドクターだから分かるわね」

「はい。仰臥位低血圧症候群のリスクがありますから」

「そう。あとは——まあ、大人なんだから、二人で工夫なさい」

桐生医師がカルテを閉じた。「次の質問は」と言いかけたマツバの口を、イヨリが「ありません」と遮った。これ以上この診察室にいたら、マツバの耳が焼けただれてしまう。

帰りの車の中、ハンドルを握るマツバの耳はまだ赤かった。

「……あの先生、いつもあんなにストレートなの?」

「産婦人科医ですから。あれが仕事です」

「僕の心臓に悪い」

「千里眼で霊界を覗けるのに、性教育で動揺するんですか」

「霊界より恥ずかしいよ、あの診察室は」

イヨリが笑った。助手席で、膨らんだお腹を両手で支えながら、透き通った笑い声を上げた。マツバの横顔が——耳の赤さとは裏腹に——微かに口角を上げていた。

* * *

【二】梅雨の宵

その夜は、梅雨の合間の晴れ間だった。

六月の空に、雲の切れ目から半月が覗いている。雨上がりの庭に藤の残り香が漂い、蛙の声が遠くでコロコロと響いている。風がぬるい。肌にまとわりつくような湿気が、エンジュの夜を甘く満たしている。

寝室。行燈の灯りが畳に落ちて、障子に二人の影を映していた。

いつものように布団に入り、マツバがイヨリの背後から身体を包む。毎晩のルーティン。妻の腰に腕を回し、膨らんだお腹にそっと掌を当てる。チヒロの体動を待ちながら目を閉じ——そのまま眠りに落ちる。いつもの夜と、同じはずだった。

けれど今夜は——桐生医師の言葉が、二人の間に透明な電流のように流れていた。

マツバの掌がイヨリのお腹に触れる。いつもの掌。いつもの体温。けれどその指先が微かに震えていることに、イヨリは気づいた。掌の圧力が——いつもよりほんの少しだけ強い。撫でるというより、確かめるような手つき。お腹を撫でているのか、それともお腹の下の妻の肌を意識しているのか。その境界が、曖昧になっている。

マツバの吐息がイヨリの項に触れた。呼吸が——少し浅い。

イヨリの心臓が、微かに速度を上げた。妊娠してから、ずっと封じていた感覚が——身体の奥底で、静かに温度を上げ始めている。安定期に入ってから、イヨリの身体は妊娠前よりも明らかに敏感になっていた。ホルモンバランスの変化。血流量の増加。骨盤周辺の充血。ドクターとしてメカニズムは理解している。けれど理解と実感は別物だ。マツバの掌がお腹を撫でるだけで、その振動が下腹部の奥まで伝わってくる。じんわりと、熱い。

「マツバさん」

「……ん」

「今日の桐生先生の話」

マツバの掌の動きが、ぴたりと止まった。

「覚えてます?」

「……覚えてるよ。忘れるわけないでしょう」

声が低い。いつもの穏やかなマツバの声ではなく、喉の奥に何かを押し込めているような、抑制された声。イヨリは——この声を知っている。ずっと昔から。初夜の時も。長雨の日に閉じ込められた時も。この声が出た時のマツバは、理性と欲望の境界線の上に立っている。

イヨリが身体を少しだけ動かした。横向きの姿勢のまま、腰を後ろに——マツバの身体に向かって——僅かに押し当てた。

マツバの呼吸が、一瞬止まった。

「……イヨリちゃん。それは——誘ってる?」

「桐生先生が、問題ないって言ってました。大人なんだから、二人で工夫しなさいって」

「……あの先生の言葉、こういう時に使うかな」

「使います」

イヨリの声に、いつもの丁寧語が残っている。けれどその声の中に——微かな甘さが溶けている。恥ずかしさを堪えながら、それでも自分から誘うことを選んだ女の、上気した声。

マツバの腕が、イヨリの身体をぎゅっと引き寄せた。

* * *

【三】チヒロに聞こえるように

横向きのまま、マツバの胸がイヨリの背中に密着した。

マツバの体温は三十六度五分。その体温が、イヨリの薄い寝巻きを通して背中全体に伝わってくる。寝巻きの裾が捲れ上がり、マツバの掌がイヨリの素肌に触れた。腰のくびれから脇腹へ、脇腹から肋骨の下へ。指先が皮膚の上を滑るたびに、イヨリの肌がひくりと反応する。

「……っ、ん……」

小さな吐息が漏れた。妊娠前とは、感度が桁違いだった。マツバの指が脇腹を撫でただけで、下腹部の奥でじんと熱いものが脈打つ。身体が——五ヶ月ぶりの刺激に、渇いた砂が水を吸い込むように反応している。

マツバの唇がイヨリの項に触れた。首筋の産毛を舌先で撫で、耳の後ろの柔らかい皮膚に唇を押し当てる。この場所がイヨリの弱点だと、マツバはとうに知っている。案の定、イヨリの肩が震え、喉の奥から甘い声が漏れた。

「あ……っ、マツバ、さん……耳は……だめ……」

「だめじゃないよ。ここ、好きでしょう」

「好き、だけど……声、出ちゃう……」

「出していいよ。チヒロに聞かせてあげよう。パパとママが仲良しだって」

イヨリの頬が燃え上がった。チヒロ。お腹の中にいる我が子の名前を、こんな場面で出す男。けれどその言葉が——不思議と、恥ずかしさよりも温かさをもたらした。三人でいるのだ。二人きりの情事ではない。お腹の中にチヒロがいる。チヒロに見守られている。その安心感が、イヨリの身体の力をさらに抜いていった。

マツバの手が寝巻きの前を開いた。ボタンを一つずつ外し、鎖骨が露わになり、胸が解放される。妊娠の影響で膨らんだ乳房を、マツバの掌がそっと包んだ。以前よりもずっと重く、張りがあり、乳腺が発達して敏感になっている。親指が頂で小さく円を描いただけで、イヨリの背中がびくんと跳ねた。

「あぁっ……! そこ……前より……すごく感じる……っ」

「分かってる。だからゆっくりね」

ゆっくり。マツバの指が、乳房の曲面をなぞるように動く。頂を転がすのではなく、外側の膨らみを掌全体で包み込むように揉む。力は入れない。ただ、妻の身体の変化を掌で味わうように。月日とともに豊かになったその感触に驚きながら、愛おしむように。

マツバのもう片方の手が、イヨリのお腹を撫でた。膨らんだ丘の曲面を、指先で優しくなぞる。胸を愛撫する手と、お腹を撫でる手。快楽と慈しみが、同時にイヨリの身体に注がれている。

「チヒロ。パパがママを大切にしてるからね。起きないで寝ていていいよ」

マツバがお腹に向かって囁いた。イヨリが恥ずかしさで顔を枕に埋めた。

「やめてっ……チヒロに聞かせないでっ……」

「さっきは聞かせようって言ったくせに」

「そ、それはっ……」

言い返す余裕が消えた。マツバの手がイヨリの下腹部に降りてきたからだ。お腹の膨らみの下、恥骨の上をゆっくりと撫でる。その手が、さらに下へ。太腿の内側に指を滑り込ませると、イヨリの脚が反射的に閉じかけ——けれどマツバの膝に阻まれて、開いたままになった。

「……濡れてる」

マツバの声が、低く熱を帯びた。指先がイヨリの秘めた場所に触れ、湿った感触を確かめた。妊娠中の身体は血流の増加で充血しやすく、わずかな刺激で潤む。マツバの指がそこに触れた瞬間、イヨリの全身が震えた。

「ひっ……あ、ぁっ……! マツバ、さ……っ」

声が甘く裂けた。指先がゆっくりと花弁をなぞり、最も敏感な突起を見つけて優しく撫でる。円を描くような動き。圧力はほとんどかけない。ただ触れるだけ。それだけで——妊婦の身体は、爆発しそうな熱を孕んでいった。

「すごい……こんなに感じてくれるの」

「妊娠……して、から……身体が……変わって……! ぁ、あっ、そこっ……!」

マツバの指が、イヨリの奥へと沈んだ。一本の指が、温かく濡れた内壁に包まれる。イヨリの身体が弓なりに——ではなく、横向きの姿勢のまま腰をくねらせて、マツバの指を奥へと導いた。内壁が脈打つように指を締めつけ、熱い蜜が手のひらに溢れてきた。

「……っ、もう……待てない……入れて……マツバさん……」

イヨリの懇願に、マツバの理性の最後の一枚が溶けた。

* * *

【四】蜜月の境界

横向きのまま。スプーンのような体勢で。

マツバがイヨリの背後から、片脚をイヨリの太腿の間に挿し入れた。膨らんだお腹に一切圧力をかけないよう、腰の角度を慎重に調整する。桐生医師の三つの条件が、修行者の集中力で遵守されている。お腹を圧迫しない。痛みを感じたらすぐ止める。激しくしない。

「入れるよ……ゆっくり」

「……うん」

マツバの先端がイヨリの入り口に当てられた。五ヶ月ぶりの感触。熱くて硬い圧力が、濡れた花弁を押し開いていく。イヨリの身体が、一瞬だけ強張った。

「痛い?」

「ううん……大丈夫。続けて」

ゆっくりと。一寸ずつ。マツバの腰が前に進み、イヨリの内側がその侵入を受け入れていく。五ヶ月ぶりの充足感に、イヨリの喉から長い息が漏れた。埋まっていく。身体の奥の空洞が満たされていく。お腹の中にはチヒロが居て、その下でマツバが繋がっている。二つの命が自分の中にいる。その事実が、不思議なほどの安心感をもたらした。

「奥まで……来たね」

根元まで収まった。マツバの腰骨がイヨリの臀部に当たり、二人の身体が完全に噛み合った。マツバがしばらく動かなかった。妻の中の熱と、脈動する内壁の感触と、五ヶ月間行き場のなかった欲望が一気に押し寄せてきて——暴走しないために、歯を食いしばった。

「マツバさん……動いて……いいよ……」

イヨリの囁きが、背後から抱擁する男の耳に届いた。

腰を引いた。ゆっくりと。半分ほど抜き、そしてまたゆっくりと奥へ。突くのではなく、撫でるような動き。イヨリの内壁が、引く動きで名残惜しそうに締まり、押す動きで柔らかくほどけていく。その収縮のリズムが、二人の呼吸を同期させていった。

「あぁ……っ、ん……ぁっ……い、い……すごく……い……っ」

イヨリの声が、途切れ途切れに漏れる。妊娠前よりもはるかに敏感になった内壁が、マツバの動きの一つ一つを鮮烈に感じ取っている。特に奥の方——子宮口に近い場所を掠めるたびに、背筋を甘い電流が駆け上がる。胎児がいるから子宮口は固く閉じているが、その周囲の粘膜が妊娠による充血で腫れ上がるほどに敏感になっていて、僅かな刺激が全身を震わせる。

マツバの片手がイヨリの腰を支え、もう片手がお腹の曲面を撫でていた。中で繋がりながら、お腹を撫でる。快楽と愛情が一つの動作の中で重なっている。

「チヒロ……パパとママ、仲良くしてるからね……」

「ッ……こんな時にっ……チヒロの名前っ……出さないでっ……!」

恥ずかしさで狂いそうだった。けれど——マツバがチヒロの名を呼ぶたびに、内壁が反射的にぎゅうっと締まるのは、何なのだ。母性と官能が混線して、自分の身体が自分の知らない反応を示している。恥ずかしくて、甘くて、切なくて、喉の奥から形にならない声が連続して溢れていった。

「やっ、あっ、あぁっ……! マツバさ……そこ……そこダメっ……!」

マツバが腰の角度を変えた。ほんの数度。けれどその変化が、イヨリの中の最も敏感な場所を正確に捉えた。前壁の浅い場所。掻き上げるような動きが、イヨリの声を一オクターブ跳ね上げた。

「そこがいいの?」

「いい……いいのッ……でもっ……強くしないでっ……赤ちゃんがっ……」

「大丈夫。チヒロは安全だよ。僕が守ってる」

マツバの声が、耳元で甘く響く。背後から包み込まれた体勢で、マツバの声は骨伝導でイヨリの身体全体に響いてくる。その声の振動すらが快感に変わって、内壁の奥で溶けていく。

リズムが少しずつ速まった。激しくはしない。桐生医師との約束。けれど、ゆっくりだった動きがほんの少しだけテンポを上げ、腰を打ちつけるのではなく押し込むように深く沈める動きが、連続して繰り返されていく。ぬちゅ、ぬちゅ、という粘着質な水音が、行燈の灯りの中で淫靡に響いた。

「マツバさんっ……私っ……もう……」

「一緒に。もう少しだけ——一緒に」

マツバの腕がイヨリの身体を強く抱きしめた。お腹を圧迫しないように、肋骨の下を抱く。胸板が背中に密着し、腰骨が臀部に当たり、脚が絡み合い、全身の皮膚が触れ合っている。二つの身体が、一つの輪郭に溶けようとしている。

「あ、あぁ、あぁっ……! マツバさっ、来るっ……来るっ……!」

イヨリの内壁が、激しく痙攣した。絶頂の波が下腹部の奥から全身に広がり、足先まで駆け抜けた。背中がのけぞり、手がシーツを掻きむしり、声が——初めて、本当に遠慮のない声が——寝室を満たした。甘くて高くて、泣いているような、笑っているような、この世の何にも似つかない音。

その締めつけに、マツバも堪えきれなかった。

「イヨリ……ッ……!」

名前を呼んだ。丁寧語ではなく、ただの名前。腰を深く押し込み、妻の最も奥で——解放した。熱い脈動が、イヨリの内側を満たしていく。妊娠中だから中で出しても問題ない。そんな理性的な判断ではなく、ただ——繋がった場所から離れたくない、という本能が、マツバの身体を動かしていた。

二人の呼吸が乱れ、汗が混じり合い、行燈の灯りが二つの影を一つに重ねていた。

* * *

【五】三人めの鼓動

繋がったまま、しばらく動けなかった。

マツバの腕がイヨリの身体を包み込んだまま、二人の呼吸がゆっくりと整っていく。体液が太腿を伝い、シーツに小さな染みを作った。行燈の灯りが揺れ、障子に映る影が溶け合ったまま揺れている。

「……久しぶり、だったね」

マツバの声が、耳の後ろで溶けるように響いた。

「五ヶ月ぶり……。こんなに長く離れてたの、初めて」

「だから余計に……感じた……」

「うん。僕も」

マツバの掌が、イヨリのお腹を撫でた。余韻の中で、膨らんだ丘の温もりを確かめるように。

ポコン。

蹴りが返ってきた。

「——チヒロ!? 起きてるの!?」

イヨリが慌ててお腹に手を当てた。マツバも掌を当てる。二つの掌の下で、チヒロがぽこぽこと連続で動いている。激しくはない。穏やかな寝返りのような動き。

「……起きてた、かな」

「聞こえてた……?」

二人の顔が、同時に真っ赤になった。

「いや、あの、医学的には、胎児に聴覚はあっても言葉の意味は分からないから——」

「イヨリちゃん、ドクターの顔しないで」

「ドクターの顔をさせてっ……! そうじゃないとこの状況が恥ずかしすぎて……!」

マツバが声を殺して笑った。肩が震えている。イヨリも笑い出した。繋がったままの部分がまだ余韻で敏感で、笑うたびに内壁が締まって、二人とも「ひゃっ」と声を漏らしてはまた笑った。

「チヒロ。パパとママは、とっても仲良しです。安心して寝てなさい」

マツバがお腹に向かって真面目な顔で宣言した。イヨリが枕に顔を埋めて悶えた。

ポコ。

返事があった。「分かった」なのか「もっと静かにして」なのか、それともただの寝返りなのか、誰にも分からない。けれどイヨリとマツバは、それが「了解」だと解釈することにした。親の特権だ。

マツバがようやく身体を離し、イヨリの身体を優しく拭いてやった。タオルで太腿の汗と体液を丁寧に拭き取り、新しい寝巻きを着せ、乱れた髪を手櫛で整える。情事の後の介助が、五ヶ月ぶりの営みの余韻と溶け合って、どこまでが愛情でどこまでが世話なのか分からない境界線。

それが——この二人の、今の形だった。恋人であり、夫婦であり、父母であり、介助者と被介助者であり。全ての関係性が溶け合った先にある、名前のつけられない結びつき。

「マツバさん」

「ん?」

「大切にしてくれて、ありがとう」

「桐生先生の条件、ちゃんと守ったよ。激しくしなかった」

「分かってます。だから——ありがとう」

イヨリがマツバの胸に背中を預けた。いつものスプーンの体勢。けれど今夜のそれは、肌と肌の記憶が残る体温を帯びて、いつもよりもずっと甘かった。

マツバの掌がお腹に乗る。チヒロは穏やかに眠っている。三つの鼓動が、梅雨の夜に重なっていた。

「おやすみ、チヒロ。パパとママは、きみのことが大好きだよ」

「おやすみ、チヒロ。……あなたのパパは、とてもずるい人です」

「それはどういう意味——」

「おやすみなさい」

イヨリが目を閉じた。口元に微笑みを残したまま。マツバは返す言葉を探したが見つからず、妻の髪に鼻を埋めて目を閉じた。黒髪から漂う花と汗と甘い余韻の匂い。

梅雨の夜が、三人を包んでいた。膨らむ果実の中に宿った命と、その果実を愛する手と、蜜月の境界を越えた夜が——藤の残り香とともに、静かに更けていった。

― 了 ―

あとがき by 佐藤美咲

主ィィィィッ!! えっちシーンゼロ十連続の後に、ようやく本業の成人向け同人作家として帰還したわァァァッ!! 待たせたわねッ!!

桐生先生のシーンが最高に楽しかった!! 「夫婦生活について」の一言でマツバの耳が燃えるの!! 霊界より恥ずかしい診察室!! あははっ、書いてて笑いが止まらなかったわ!!

この話の核心はね——「チヒロに聞こえるように」っていうコンセプトよ。お腹の中に赤ちゃんがいる状態での情事って、二人きりじゃないの。三人いるの。その「第三者がいる」という事実が、官能性を底上げする構造。恥ずかしさと愛情と母性が混線して、イヨリの身体が自分の知らない反応を示す——これが書きたかったの!!

マツバがお腹を撫でながら中で繋がってる場面。快楽と慈しみが同時に注がれる身体。これは十月十日編を十話書いてきたからこそ描ける場面よ。マツバがどれだけイヨリとチヒロを大切にしてきたかの蓄積が、この一夜のえっちに全部乗っかってるの。

事後のチヒロの蹴りね!! 「起きてた?」「聞こえてた?」で二人とも真っ赤になるの最高でしょ!! 医学的には言葉の意味は分からないけど——でも分かってたらどうしよう——って恥じらい!! これが成人向け同人誌の醍醐味よ!! あはははっ!!!