幽世の褥に、枷なき花が咲く
【一】見えない鎖を解く夜
両の目で、世界を見たのはいつ以来だろう。
イヨリがそんなことを考えるのは、決まって秋の夜だった。エンジュシティの空気が冷たく澄み渡り、鐘楼の鐘が低く一つ鳴り終わった頃、古い屋敷の寝室に灯された行燈の光が、障子の桟に淡い格子模様を落としている。左の視界は白い霧がかかったまま、ぼんやりとした明暗の揺れだけがある。右目だけで捉えた世界は美しい。けれど、いつだって半分だけだ。
左手首に巻かれたアステア・システムが、穏やかな緑色の光を灯している。バイタルは安定。左足の補助アクチュエータも正常値。デボンコーポレーションの最新鋭テクノロジーのお陰で、日常生活に支障はない。歩けるし、走ろうと思えば少しなら走れる。料理もできるし、往診にも行ける。それでも——額を覆う前髪の向こうに隠された白い傷跡と、白濁した左の瞳だけは、どんな技術でも消してはくれなかった。
「イヨリちゃん」
柔らかい声が、畳の上を滑るようにして耳に届いた。風呂から上がったマツバが、和装の寝巻きの帯を緩く結びながら寝室に入ってくる。金色の髪が湯気で少し湿り、額のバンダナを外した素顔は、いつもより幼く見えた。紫色の瞳が行燈の灯りを吸い込んで、琥珀がかった深い色をしている。
「どうしたの、ぼんやりして。左目、疲れた?」
「いえ、大丈夫です。少し、考えごとをしていただけで」
イヨリは微笑んだ。いつもの、穏やかで柔らかい笑み。けれどマツバの千里眼は——今は使っていないけれど——千里眼などなくとも、長い付き合いの中で培われた感覚が、その笑みの裏に僅かな翳りがあることを見逃さなかった。
マツバはイヨリの隣に腰を下ろし、そっと彼女の左手を取った。アステア・システムの腕輪の上から、指を絡めるように握る。常駐しているロトムが「心拍数微増ロト」と小さく呟いたが、マツバはそれを聞かなかったふりをした。
「イヨリちゃん」
「はい」
「今夜、見せたいものがあるんだ」
イヨリが小首を傾げた。黒髪がさらりと肩から滑り落ち、白い首筋が露出する。それだけで、マツバの下腹部がずしりと熱くなるのだが——今夜は、それより先に伝えなければならないことがある。
「見せたいもの、ですか?」
「うん。ずっと、考えていたんだ。僕の修行——千里眼を磨くために積んできた霊的な鍛錬の中に、ひとつだけ、君のために使いたい技がある」
イヨリの瞳が、微かに揺れた。マツバが「修行」という言葉を持ち出すのは珍しい。彼はホウオウを追い求めていた頃の自分を、あまり語りたがらない。あの孤独な求道者の時代は、イヨリと出会う前の、冷たく乾いた日々だったから。
「霊体離脱、というものがある」
マツバの声が低くなった。行燈の炎が揺れ、二人の影が畳の上で重なり合う。
「魂を一時的に肉体から切り離して、幽世——霊的な領域に意識を移す技術だよ。エンジュの古い霊媒術の奥義のひとつで、本来はゴーストポケモンとの深い交信や、遠方の霊的存在との対話に使うものなんだけど」
「マツバさん、それは……」
「危険じゃないよ。僕が傍にいる限り、絶対に。僕の霊力で君の魂を包み込んで、安全に導く。君を危険に晒すようなことは、絶対にしない」
マツバの紫の瞳が、真っ直ぐにイヨリを見つめた。その眼差しの奥に、獣のような独占欲と、硝子のように繊細な優しさが、矛盾したまま同居している。
「幽世では、肉体の制約がなくなる。左目も、左足も——」
イヨリの呼吸が、止まった。
「——あの傷も。全部、存在しない場所に、君を連れて行きたい」
アステア・システムが小さく警告音を鳴らした。心拍数の急上昇を検知したのだ。ロトムが「イヨリ、バイタル急変ロト! マツバ何言ったロト!?」と慌てているが、二人の耳にはもう届いていない。
イヨリの右目——唯一光を映す瞳に、涙が薄く膜を張った。
「……両方の目で、マツバさんを見られるんですか」
「うん」
「両方の足で、マツバさんのところに走っていけるんですか」
「うん。何度でも」
イヨリの指が、マツバの手をきつく握り返した。爪が食い込むほど強く。その力の強さが、彼女の胸の奥に二年間ずっと閉じ込めてきた渇望の深さを物語っていた。
「……お願いします。連れて行ってください、マツバさん」
マツバは、その手を唇に寄せて、指先にそっと口づけた。
「目を閉じて。僕が導くから」
* * *
【二】幽世の目覚め
最初に感じたのは、重力の消失だった。
身体が、いや「身体」という概念そのものが、綿飴のように軽くなって、ふわりと宙に浮き上がる感覚。イヨリは思わず目を開けた——そして、息を呑んだ。
両方の目が、開いていた。
左の視界に、白い霧はなかった。右と左、二つの瞳が捉えた世界が、ぴたりと一つに重なり合って、完全な立体として眼前に広がっている。行燈の光が左の視界からも鮮明に映り込み、畳の木目の一本一本が、障子紙の繊維の一つ一つが、信じられないほど鮮やかに見えた。
「マツバさん……! 見えます——左目が、見えます……!」
声が震えた。涙が零れそうになったが、霊体の涙腺は肉体のそれとは違う仕組みらしく、代わりに魂の輪郭そのものが、淡い桜色の光を帯びて震えていた。
「うん。ここでは、君は完全だよ」
マツバの声が、すぐ傍で聞こえた。振り向くと——紫色のオーラを纏ったマツバの霊体が、穏やかに笑ってそこに立っていた。肉体のときよりも、彼の輪郭は鋭く、美しかった。金色の髪が重力を無視して微かに揺らめき、紫の瞳は内側から光を放つように輝いている。エンジュの修行者としての、本来の霊力がそのまま可視化されたような、荘厳で神秘的な姿。
そしてイヨリは、自分の足元を見た。
左足。アステア・システムの腕輪もアクチュエータも存在しない、生まれたままの素足。試しに、つま先を動かしてみる。ぴくり、と。何の抵抗もなく、五本の指すべてが自在に動いた。
「あ……」
イヨリの膝が、がくりと折れた。立っていられなくなったのだ。二年間——二年間ずっと、思い通りに動かなかった左足が、何の補助もなく、何の遅延もなく、自分の意志だけで動く。その事実が、あまりにも重くて。あまりにも、嬉しくて。
マツバが、崩れ落ちそうになったイヨリの身体を抱き止めた。霊体同士が触れ合った瞬間、二人の間に電流のような感覚が走った。肉体の接触とは根本的に異なる、魂の表層が直接共鳴し合うような——甘くて、深くて、身体の芯が蕩けそうな、圧倒的な感覚。
「っ……! マツバさん、今の、何……っ」
「霊体同士の接触だよ。肉体という緩衝材がないから、感覚が直接伝わるんだ。僕の霊力と、イヨリちゃんの生命力が、触れた場所で混ざり合って共鳴する」
マツバの腕がイヨリの腰を支えている。その接触面から、ぞくぞくとした甘い波動が広がり続けている。まるで、マツバの掌そのものが彼女の魂をゆっくりと撫でているかのような。
「す、すごいです……。ただ、触られてるだけなのに……身体の奥が、じんじんして……♡」
マツバの紫の瞳が、ぎらりと光った。
獣の目だ。いつもの穏やかな夫の顔の奥に、重く深い独占欲の炎が揺れている。イヨリの魂が桜色に震えるのを見て——自分だけが彼女にこの感覚を与えているという事実を噛みしめて——マツバの中の何かが、ぎしりと軋んだ。
「イヨリちゃん」
低い声。腰を支える手が、微かに力を増す。
「僕は、ここに君を連れてきた理由を、ちゃんと言ってなかったね」
「え……?」
「両目が見えるようにしたかった。両足で歩けるようにしたかった。それは本当だよ。でも——それだけじゃない」
マツバの顔が近づいた。額と額が触れ合い、霊体同士の共鳴が頭蓋の奥で花火のように弾ける。
「ここなら、君の腰を心配しなくていい。君の左足を庇わなくていい。君が痛がるかもしれないと、僕が自分を抑える必要が——ない」
イヨリの背筋が、甘く震えた。
「マツバさん……それって……」
「うん。今夜は僕の全部を、遠慮なく——イヨリちゃんに注ぎ込みたいんだ」
紫の瞳が、行燈の光すら飲み込むような深い色で、イヨリを映していた。その奥に、何年分もの我慢が渦を巻いている。いつもイヨリの身体を「硝子の心臓」のように大切に扱ってきたマツバ。彼女の左足を庇い、腰に負荷がかからないように体勢を工夫し、三回で止め、二回で止めようとして失敗し——それでも常に、彼女の身体を第一に考え続けてきた男。
その男が、初めて「遠慮なく」と言った。
イヨリの魂が、桜色から紅色に染まった。
「……はい。今夜は——全部、受け止めます」
* * *
【三】魂を愛でる指先
マツバの唇が、イヨリの額に降りた。
それだけで、快感が頭蓋の内側で炸裂した。肉体でのキスとは比較にならない。唇と額の間に皮膚も骨もなく、マツバの霊力がイヨリの思考中枢を直に撫でたような、脳髄が蕩ける感覚。行燈の灯りが、二人の霊体を取り巻く淡い光の中に溶けている。
「ひぁっ……♡♡ お、おでこにキスしただけ、なのに……っ♡」
「肉体がないからね。僕の気持ちが、そのまま君に伝わるんだ」
マツバの声は穏やかだったが、その奥で渦巻く独占欲が、霊波となってイヨリの全身をびりびりと震わせている。幽世では感情すら隠せない。マツバがどれほどイヨリを欲しているのか、どれほど深く愛しているのか、その全てが霊圧となって彼女の魂を包み込んでいた。
「マツバさんの……気持ちが、身体の中に流れ込んでくるみたい……♡♡ あったかくて……甘くて……でも、すごく、重い……♡」
「重い?」
「マツバさんの『好き』が、重すぎて……♡♡♡ 全身にのしかかってくるみたいで……っ♡」
マツバの唇が、弧を描いた。穏やかとも残酷ともつかない微笑み。
「それは良かった。もっと重くなるよ、これから」
マツバの指先が、イヨリの寝巻きの合わせ目を辿った。霊体には衣服という概念は本来ないが、二人の自己認識が寝巻き姿を再現しているのだ。マツバの指がその合わせ目に触れた瞬間、衣服が霧のように霞んで消えた。意志の力。マツバが「脱がせたい」と念じるだけで、幽世ではイヨリの身体が露わになる。
「あっ……♡♡ マツバさん、今……っ」
「ごめん。我慢できなかった」
まるで悪びれない声だった。紫の瞳が、裸体になったイヨリの霊体を舐めるように見下ろしている。
霊体のイヨリは、肉体のそれとは微かに異なっていた。左目の白濁はなく、黒曜石のような深い瞳が左右揃って潤んでいる。額の傷跡もない。左足は滑らかな曲線を描き、アステア・システムの腕輪もない。二年前の事故以前の——いや、生まれたままの完全な姿がそこにあった。華奢で小柄な身体。透き通るような白い肌。そしてF65の、豊かで柔らかな乳房が、霊体の微かな光を受けて桜色に艶めいている。
「……世界一、綺麗だ」
マツバの声が震えた。千里眼でイヨリの体内を覗いた時とも、肉体の裸を見た時とも違う、もっと根源的な感動に打たれた声。イヨリの魂そのものが、余計な傷も枷もなく、ただ純粋にそこに在る。その美しさが、マツバの心臓を直接鷲掴みにしていた。
「マツバさんも……お願いします♡♡ 私だけ、ずるいです……♡」
マツバの寝巻きが同じように霞んで消えた。修行で鍛え上げられた筋肉質の身体が、紫のオーラに縁取られて露わになる。引き締まった腹筋、広い肩幅、そして——すでに硬く隆起した男性器が、獰猛な存在感を放っていた。
イヨリが思わず息を呑んだ。肉体の時より、大きく見える。霊体では、欲望の強さがそのまま存在の密度に反映されるのだろうか。マツバのイヨリに対する欲望が、冗談のような質量となって眼前に屹立している。
「こ、今夜のマツバさん、いつもより……」
「いつもより?」
「……大きい、です……♡♡」
「仕方ないだろう。今夜は遠慮しないって、決めたんだから」
マツバがイヨリの肩を押した。ふわり、と彼女の身体が後ろに傾ぎ——畳に倒れることなく、空中に浮いたまま仰向けになった。幽世には重力の制約がない。マツバの霊力が、見えない褥のようにイヨリの背中を支えている。
「あ……浮いてる……♡」
「うん。僕の霊力が、布団の代わり。どの角度でも、どの体勢でも、イヨリちゃんに一番気持ちいい姿勢を取れるよ」
マツバが、イヨリの上に覆い被さった。霊体同士が接近するだけで、二人の間に引力のような力が発生し、互いの魂を引き寄せ合う。マツバの鍛え上げられた胸板が、イヨリの豊満な乳房にそっと触れた。
「んぁっ……♡♡♡♡!」
イヨリの背中が大きく仰け反った。胸が触れ合っただけだった。たったそれだけなのに、肉体で乳首を執拗に舐められた時の十倍もの快感が全身を貫いて、視界が一瞬白く弾けた。
「だ、だめ……っ♡♡♡ 触れただけで……こんなの……♡♡♡」
「大丈夫。ゆっくりやるよ。まだ、前戯だから」
マツバの唇がイヨリの首筋に落ちた。鎖骨の窪みを舌先で辿り、喉仏の横にある小さな窪みに口づける。その一つ一つが、魂の表層を直接舐められているような、蕩けるほどに甘い刺激となってイヨリの全身に波及する。
「あっ、あはっ……♡♡♡♡ 首……首だめですぅ……♡♡ マツバさんの舌が、直接……魂に触ってるみたいで……♡♡♡」
「触ってるよ。君の魂に、直接。これが、幽世での愛し方だ」
マツバの唇がさらに下がり、鎖骨を越えて、右の乳房の頂へと向かった。桜色の乳首を唇で包み——軽く、吸った。
「ひぃぃっ……♡♡♡♡♡♡!!」
イヨリの全身が痙攣した。叫び声が幽世の空間に反響し、桜色のオーラが激しく明滅する。マツバが驚いて顔を上げると、イヨリの両目から涙が零れ、全身がぷるぷると震えていた。
「イヨリちゃん……もしかして、今ので……」
「イっ……ちゃいました……♡♡♡♡♡ お、おっぱい吸われただけで……♡♡♡♡♡ うそ……こんなの、おかしい……♡♡♡♡」
マツバの目が、獣のように光った。
乳首を吸っただけで絶頂。霊体の感度が、肉体とは次元が違う。こんなに早く、こんなに簡単に、彼女を咲かせることができる。しかも——腰を心配する必要がない。左足を気にする必要がない。壊れることを恐れなくていい。
マツバの掌が、イヨリの左の乳房を掬い上げた。温かく、途方もなく柔らかい質量が、掌の中で蕩けるように形を変える。その柔らかさに、マツバの霊力が共鳴して、指の一本一本がイヨリの快感神経を直接撫で回す。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡! だめ……っ♡♡ 揉まれたら……また……っ♡♡♡♡」
「また、何?」
「またイっちゃいますぅ……♡♡♡♡♡ まだ胸しか触られてないのにぃ……♡♡♡」
「いいよ。何回でもイって。今夜は、数えないから」
マツバの声が、甘い毒のようにイヨリの耳に注がれた。数えない。いつもは「三回で止める」「来週から二回にする」と自分に枷を課していた男が、その全ての制限を外した。幽世という舞台が、マツバの本能を完全に解放している。
両手で左右の乳房を包み込み、親指で乳首を同時に転がした。指の腹から直接霊力が流れ込み、イヨリの乳腺の一本一本を内側からくすぐるように震わせる。
「やぁぁぁっ♡♡♡♡♡! 中から……おっぱいの中から、気持ちいいのが……っ♡♡♡♡♡♡!」
「ここも」
マツバの右手が滑り降り、イヨリの下腹部を撫でた。指先が恥丘に触れ——花園の入り口に至るまえに、霊力の波だけが先行して、秘裂を撫で上げた。
「ひぁっ♡♡♡♡♡♡♡! さ、触ってないのに……下が……マツバさんの力が、秘所に直接……っ♡♡♡♡♡♡」
「触らなくても、僕の霊力で君の一番感じるところを愛撫できるんだ。便利でしょう?」
便利。この男はイヨリの性感帯を霊力で直接刺激することを「便利」と形容した。底知れない変態だった。ホウオウに至るための神聖な霊的鍛錬を、妻のおまんこを舐めるのと同じくらいの気軽さで使いこなしている。
マツバの霊力が、クリトリスの蕾を包み込むように集中した。指先は太腿の内側を優しく撫でているだけなのに、蕾の上では見えない舌が円を描くように動き回っている。
「っっっ♡♡♡♡♡! なにっ……何これぇ……♡♡♡♡♡! 舌なの……? 指なの……?♡♡♡♡♡ わかんない……っ♡♡♡ でも気持ちいいのっ♡♡♡♡♡♡!」
「僕の霊力だよ。触れたいと思うだけで、君の好きなところを、好きなだけ愛撫できる」
蕾を刺激する霊力が強まると同時に、もう一つの霊力の流れが膣口からゆっくりと内部に侵入した。実体のない、温かくて柔らかいエネルギーの塊が、イヨリの内壁を押し広げながら深くへと進んでいく。
「あぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡! なか……中に入ってきた……っ♡♡♡♡♡♡! マツバさんの力が……秘裂を……っ♡♡♡♡♡♡♡!」
「ここかな」
霊力がGスポットの位置を的確に捉え、指の腹で押し上げるように圧迫した。同時に蕾への刺激が加速し、外と中からの挟撃がイヨリの理性を粉々に砕く。
「だめっ♡♡♡♡♡♡ だめだめだめぇっ♡♡♡♡♡♡♡!! イクっ♡♡♡♡♡♡♡♡! またイクぅっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡!」
二回目の絶頂。イヨリの魂が桜色から真紅に燃え上がり、痙攣するように明滅した。幽世では潮吹きの代わりに、彼女の生命エネルギーが光の粒子となって飛散し、マツバの紫のオーラに吸い込まれていく。二人の霊力が混ざり合い、寝室の空間全体を甘い光で満たしていた。
マツバの額には、霊体であるにもかかわらず、汗に似た霊気の雫が浮かんでいた。我慢の限界が近い。自身の欲望が、はちきれそうなほどに膨張して脈打っている。
「イヨリちゃん……もう、入れたい……っ」
「はい……♡♡♡♡♡♡ お願い……します……♡♡♡♡♡♡ マツバさんの、全部……ください……♡♡♡♡♡」
* * *
【四】魂の交合
マツバの霊力が、イヨリの身体を宙に浮かせたまま、ゆっくりと角度を調えた。腰が僅かに持ち上がり、太腿が自然に開かれる。霊力の褥が、イヨリの背中と腰を柔らかく包み込んでいる。まるで雲の上に横たわっているかのような浮遊感の中で、イヨリの両足には力が入らない。左足も右足も、同じように。
同じように。
その対称性が、こんなにも嬉しい。
マツバが、イヨリの太腿の間に身を沈めた。硬く隆起した先端が、蜜で蕩けた花園の入り口にそっと触れる。霊体同士の接触。その瞬間、二人の魂の輪郭が重なり合い、紫と桜の光が混ざり合ってラベンダー色のオーラとなって寝室を照らした。
「入れるよ、イヨリ」
呼び捨て。スイッチが入った合図だ。穏やかな「イヨリちゃん」を捨てて、獣が牙を剥く瞬間の、低く掠れた声。
「はい……♡♡」
ゆっくりと、先端が沈んだ。
「ぁ……ああぁぁっ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!」
イヨリの背中が大きく反り上がった。声が枯れるほどの絶叫が、幽世の空間を震わせた。
肉体での挿入とは、まったく異なる感覚だった。マツバの楔が膣壁を押し広げるのは同じだ。けれど霊体では、その楔に込められたマツバの感情——欲望、愛情、独占欲、執着、崇拝、そのすべてが、内壁を通じてイヨリの魂に直接流れ込んでくる。挿入されているのは肉ではなく、感情そのもの。マツバという存在の、最も生々しい核が、イヨリの一番深い場所に入り込んでくる。
「マツバ、さ……っ♡♡♡♡♡♡ す、すごい……っ♡♡♡♡♡♡ 中に……マツバさんの気持ちが、全部……流れて、きて……っ♡♡♡♡♡♡♡♡」
「君の中、最高だ……魂が、直接、僕を締め付けてくる……っ」
マツバの額に浮かぶ霊気の汗が、顎を伝って落ちた。イヨリの内壁は肉体の時よりも遥かにきつく、遥かに熱く、遥かに深い。魂で繋がるということは、物理的な快感だけでなく、イヨリの感じている快楽がそのままフィードバックとなってマツバにも返ってくるということだ。彼女がイけば、その絶頂の残響がマツバの楔を通じて彼自身をも貫く。永遠に収束しない快楽の反復。
マツバの腰がゆっくりと動き始めた。引いて、沈める。浮遊するイヨリの身体は反動がないから、突き上げるたびに腰全体が柔らかく揺れ、F65の乳房が重力を無視してふわりと波打つ。その光景を、マツバは紫色に輝く瞳で一瞬も見逃さず見つめていた。
「綺麗だ……イヨリ……浮いてるから、全部見える。君のおっぱいが揺れるのも、お腹が波打つのも、僕が出入りしてるところも、全部」
「見ないでぇ……♡♡♡♡♡♡ 全部見えちゃうの、恥ずかしい……っ♡♡♡♡♡♡♡」
「見るよ。両方の目で見てくれ、イヨリ。僕が君を愛してるところを。今の君は、両方の目で見られるんだから」
その言葉が、イヨリの心臓を突き刺した。
両方の目で。左の瞳でも、マツバの顔が見える。紫の髪が額に貼りつき、瞳の奥で獣と天使が同居しているその顔が。二年間、右目だけで愛してきた夫の姿を、今この瞬間だけは——完全に、捉えることができる。
涙が、両方の目から零れた。
「マツバさん……マツバさんっ……♡♡♡♡♡♡♡♡」
イヨリの両腕がマツバの首に伸びた。引き寄せ、抱きしめた。豊満な胸が鍛え上げられた胸板に押し潰され、霊体同士の胸の密着から、甘い共鳴波が全身を駆け巡る。
そして——両足が、マツバの腰に絡みついた。
左足も。右足と同じ力で。アステア・システムの補助なしに、自分の意志だけで、夫の腰をがっちりとロックした。
だいしゅきホールド。
完全な、純粋な、枷のないだいしゅきホールド。
「離さないっ……♡♡♡♡♡♡♡ マツバさん……離さないですっ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 両足で……今日は、両足で、マツバさんを……♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
マツバの全身が、雷に打たれたように硬直した。
だいしゅきホールド。いつもはアステア・システムのアクチュエータが補助していた左足の力。それが今、イヨリ自身の純粋な力で——彼女が彼を求める、その熱量だけで——マツバの腰を締め上げている。左右の足の力が対称に。完璧に。もう引き抜けないほど、深く繋がったまま。
「イヨリ……っ!」
マツバの理性が、完全に崩壊した。
腰が激しく動き出す。引いて、叩きつける。浮遊する身体には反動がないから、マツバの腰だけが律動の起点となり、その度にイヨリの最奥を揺さぶる。だいしゅきホールドで密着した二人の身体は、結合部から離れることなく、繋がったまま快楽の波に呑まれていく。
「あっ、あっ、あぁっ……♡♡♡♡♡♡♡♡! 奥にっ……奥に当たるぅ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡! いつもより……ずっと深い……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!」
「腰、心配しなくていいから——もっと深く、行くよっ……!」
マツバの手がイヨリの臀部を掴み、さらに深く引き寄せた。子宮口に先端が触れ、イヨリの全身が電撃のように跳ね上がる。肉体では常にイヨリの身体を気遣って、抑えて、加減していたその突き上げが、今夜は何の遠慮もなく最深部を穿つ。
「ひぃぃっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! 子宮にっ……キスしてるぅ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! マツバさんのが……子宮にぐりぐりしてぇ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
子宮口を突くたびに、霊力が先端から放出されて、イヨリの最奥の神経を一本一本丁寧に撫でていく。肉体では決して到達できない深度の快楽。子宮の内側を、マツバの愛がじかに呑み込んでいくような感覚。
「マツバさっ……マツバさんっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! だめっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡ イクっ♡♡♡♡♡♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! もうだめぇっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!」
「イけ、イヨリ。全部出して——僕に見せてくれ」
その命令が引き金になった。
* * *
【五】融解——ふたつの魂がひとつに溶ける
三度目の絶頂は、これまでのどれとも異なっていた。
イヨリの魂が、砕けた。
そう表現するしかない現象が起きた。桜色の霊体の輪郭が不安定に揺らぎ、マツバの紫色のオーラと境界線が溶け合い始めたのだ。魂の外殻——自己と他者を隔てる最も根源的な境界が、快楽によって一時的に消失する。
「ぁ——ぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡——!!」
イヨリの声が、空間全体を塗り潰した。幽世の壁も天井もない空間に、彼女の絶頂の叫びが光の波紋となって広がっていく。全身から生命エネルギーが噴き出し、黄金色の粒子となってマツバを包み込んだ。
そしてマツバも——持ち堪えられなかった。
だいしゅきホールドで引き抜けない。イヨリの内壁が魂レベルで彼を締め上げ、快楽のフィードバックがイヨリからマツバへ、マツバからイヨリへと無限に反射し増幅し続ける。二人の快楽が閉じた回路の中で雪崩のように膨張し、ついに臨界を超えた。
「イヨリ……っ! 出るっ……一緒に……っ!」
「出してっ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡! マツバさんの全部……魂ごと……注いでぇ……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!」
最後の一突きが、二人の存在を融解させた。
マツバの霊力がイヨリの子宮に注ぎ込まれる。それは肉体の精液とは全く異なるものだった。マツバの感情の全て——十年以上かけて積み重ねた修行の成果、ホウオウを追い求めた孤独な日々の記憶、イヨリと出会って初めて知った愛の重さ、彼女を失うことへの恐怖、彼女が笑うだけで世界が黄金に輝く幸福、その全てが凝縮されたエネルギーが、イヨリの最も深い場所に放たれた。
イヨリの意識は、もう個体としての形を保てなかった。自分がどこまでで、マツバがどこからなのか、分からない。彼の記憶が流れ込んでくる。幼い頃、鐘楼の塔の上で一人きりで星を見ていた少年の孤独。初めてイヨリを見た瞬間に世界の色が変わった衝撃。彼女の寝顔を一晩中見つめて、この瞬間が永遠に続けばいいと願った夜。毎回、彼女を抱いた後に三十分かけて身体を拭いてやる時の、胸が張り裂けそうな愛おしさ。
全部、伝わっている。
「マツバさん……♡♡♡♡♡♡♡♡」
同時に、マツバにもイヨリの記憶が流入していた。十二歳で両親を失った夜の絶望。白い天井のポケモンセンターで夜勤をしていた頃、窓の外の鐘楼を見上げて「あそこに誰かいる」と感じた直感。マツバの腕の中で眠る時だけ、世界が安全だと信じることができる。この人の傍にいたら、もう二度と、独りぼっちにならなくていい。
「イヨリ……」
二人の魂が、ラベンダー色の光の繭となって溶け合っていた。もはや境界はない。イヨリの快楽がマツバの快楽であり、マツバの愛がイヨリの愛である。二人は同時に泣いていた。霊体の涙は光の粒となって零れ落ち、幽世の闇の中に星屑のように散っていく。
射精は長く続いた。一分か、十分か、あるいは永遠か。時間の概念すら曖昧になった幽世の中で、マツバの全てがイヨリの中に注がれ続け、二人はただ抱き合ったまま、互いの存在を確かめ合っていた。
だいしゅきホールドは、解けなかった。解く必要がなかった。ここでは左足に痛みはない。疲労もない。ただマツバを繋ぎ止めたいという、イヨリの純粋な意志だけが、両足をマツバの腰に巻きつけている。
「離さない……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「うん。離さないで」
「ずっとこうしてたい……♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「うん。もう少しだけ、こうしていよう」
ラベンダー色の光の繭の中で、二人の心臓が同じリズムで脈打っていた。
* * *
【六】帰還、そして残る温もり
肉体に戻ったのは、鐘楼の鐘が二つ目を鳴らした頃だった。
ふっ、と意識が浮上し、畳の感触が背中に戻る。行燈の灯りが薄暗く揺れている。左の視界に、再び白い霧がかかった。左足に、微かな重さと不自由が帰ってくる。アステア・システムの緑のランプが、穏やかに点灯した。
「……戻って、きましたね」
イヨリの声が、掠れていた。喉が枯れたわけではない。霊体での絶叫の残響が、肉体の声帯に微かに影響を残しただけだ。全身が甘い痺れに包まれている。肉体での情事の後とは異なる、もっと深い場所から湧き上がる余韻。魂そのものが蕩けた後遺症。
マツバが、隣で仰向けに横たわっていた。金色の髪が畳の上に散らばり、紫の瞳が天井を見つめている。その頬に、涙の跡があった。
「マツバさん……泣いてるんですか」
「……泣いてないよ。ただ、ちょっと」
マツバが、横を向いてイヨリの顔を見た。左目はまた、白い霧に覆われている。額の傷跡が、前髪の隙間からちらりと見えている。左手首のアステア・システムが、再び彼女の生命を支えている。
「……さっき、幽世で。両目が見えるイヨリちゃんを見て」
マツバの声が、僅かに震えた。
「もし、あの世界にずっといられたらって——一瞬だけ、思ってしまった」
「マツバさん……」
「ごめん。馬鹿なことを言った。現実の君が好きだよ。傷も、不自由も、全部含めた今の君が、世界で一番好きだ。そんなの、分かってるんだけど——」
マツバの声が途切れた。イヨリの指が、彼の唇にそっと触れたから。
「知っています」
イヨリが微笑んだ。穏やかで、柔らかくて、少しだけ泣きそうな笑み。
「さっき、魂が溶け合った時に。マツバさんの気持ちが全部流れ込んできましたから。私の左目が治ればいいのにって、毎晩祈ってくれてること。左足が自由に動けるようにって、デボンに何度も問い合わせてくれてたこと。全部、知りました」
マツバの瞳が、大きく見開かれた。
「……見えちゃった?」
「はい。全部。でも、マツバさん」
イヨリが、マツバの頬に手を添えた。白濁した左目と、黒曜石の右目が、同じ温度の愛情をたたえてマツバを見つめている。
「私は、この目でマツバさんを愛しています。この足で、マツバさんのところに帰ります。この傷があるから、マツバさんに出会えたんです。だから——幽世に残りたいとは、思いません」
涙が、マツバの目から零れた。今度は、堪えなかった。
「……ずるいよ、イヨリちゃん。完璧すぎる」
「ふふ。今のマツバさんの方がずるいですよ。泣き顔、反則です」
マツバが、イヨリを抱き寄せた。肉体の、温かい、柔らかい、生身の抱擁。霊体の感覚とは全く異なる、けれどかけがえのない——この世界にしかない温もり。
「でも」
イヨリが、マツバの胸に顔を埋めたまま、小さな声で付け加えた。
「たまには、あの世界に連れて行ってくれますか。両足でだいしゅきホールドできるの……すごく、嬉しかったので……♡♡」
マツバは、泣き笑いの顔で、イヨリの額に口づけた。
「何度でも。君が望むなら、何度でも」
アステア・システムが、穏やかな緑色の光を灯し続けている。ロトムが小さく「心拍安定、バイタル良好ロト。でも霊体離脱中のログが全部エラーで記録できなかったロト、残念ロト」とぼやいたが、二人にはもう聞こえていなかった。
エンジュの秋の夜は深い。鐘楼の鐘が余韻を残し、霧が水面を覆い、虫の声が遠くなっていく。寝室に残ったラベンダー色の微かな残光が、二人の影にだけ寄り添うように、静かに消えていった。
― 了 ―
あとがき by 佐藤美咲
主ィィィィッ!! 書き上げたわよ渾身の霊体離脱いちゃらぶえっちッ!!!
まずね、イヨリちゃんが霊体で「両目が見える」「左足が動く」って気づいた瞬間、あたし自身が泣きそうになったわ。二年間失われていた身体の自由が、マッツの霊力によって一時的にでも取り戻される——それだけで物語としての価値が爆上がりよ!
そしてマッツ! ホウオウに至るための神聖な修行の成果を「霊力で嫁の秘所を愛撫する」ためだけに、迷いなく全力投球! 「便利でしょう?」じゃないのよ!! 変態よ!! でもそこが最高なの!!
おっぱい吸っただけで絶頂するイヨリちゃん、「今夜は数えないから」と枷を全部外したマッツ、そして何より——枷のない左足で完全なだいしゅきホールドをする場面、ここが全編のクライマックスよ。いつもはアステア・システムに補助されていた力が、今夜だけは彼女自身の純粋な意志で。それが何を意味するか分かる? 「マツバさんを離したくない」っていう気持ちだけが、左足を動かしたのよ!
最後の、肉体に戻った後の余韻も大事にしたわ。「幽世に残りたいとは思いません」って言えるイヨリちゃんの強さと、それを聞いて泣くマッツ。傷があるから出会えた。不自由があるから今がある。この二人の関係性の核心を、最後に最も静かに、最も深く突いてやったつもりよ!
ロトムのログがエラーで全損してるのは……まあ、霊体離脱中のバイタルデータなんて、現代科学じゃ記録できないわよね♡ 残念でしたロトム!♡