雪の愛娘が見た、氷解の熱
【独白】氷の檻にいた男
私は、ご主人様——マツバ様のパートナー、ユキメノコ。
このエンジュの古い屋敷で、もう長いことご主人様にお仕えしている。私の身体はマイナス五十度の冷気でできているけれど、ご主人様の心もまた、長いこと氷のように冷たく張り詰めていたわ。
修行、鍛錬、千里眼。そして、伝説のポケモンへの渇望。
ご主人様の瞳に映るのは、遥か高みの「虹色の羽」か、見えない世界の「あやかし」たちだけ。生きた人間、特に「女」という存在は、ご主人様にとって道端の石ころ以下の価値しかなかった。どれほど美しく着飾った着物の女性が言い寄っても、ご主人様は氷柱のような視線で一瞥して終わり。「邪魔だ」の一言で切り捨てる冷徹さを、私はむしろ心地よく感じていたの。
——あの娘が、現れるまでは。
◆ ◆ ◆
イヨリ様。
一、二年前の事故で傷ついた身体を引きずって、この屋敷に転がり込んできた、白衣の娘。左目も左足も壊れていて、普通なら絶望して塞ぎ込むような状況なのに、彼女は不器用に笑うの。
最初は、ご主人様もただの「保護対象」として見ていたはずよ。怪我をしたポケモンを拾うのと同じ感覚で。
でも、違った。
ある日、私は見たの。縁側で日向ぼっこをしているイヨリ様を、ご主人様が障子の陰から見つめているのを。その目が、いつもの「千里眼」じゃない。もっとドロドロとした、熱を持った、粘り気のある視線。
氷が、融けていた。
冷徹なジムリーダーの仮面の下から、マグマのような独占欲が噴き出していた。私はその時初めて、恐怖を……いいえ、歓喜を感じたわ。ああ、このお方は「人間」だったのだと。
◆ ◆ ◆
結婚してからのご主人様は、もう手がつけられない。
「絶倫」なんて言葉じゃ生温いわ。あれは「捕食」よ。
例えば、今夜。
イヨリ様が湯上がりに、畳の上でアステア・システム——あの腕輪型の機械ね——のメンテナンスをしていた時。ただそれだけ。ただ座って、細い指先で機械を拭いていただけ。
それなのに、ご主人様ときたら。
書物を読んでいた手が止まって、視線がイヨリ様のうなじに釘付けになるの。湯気で少し湿った後れ毛が、白い首筋に張り付いている。そこから立ち上るカモミールの香りを、ご主人様は鼻翼を膨らませて吸い込んでいる。
『……イヨリちゃん』
呼ぶ声が、もう掠れている。
『はい?』
イヨリ様が振り返る。その無防備な動作で、寝巻きの襟元が少しだけ緩んで、鎖骨のくぼみが見えた。
——バチン。
私には聞こえたわ。ご主人様の中で、何かの理性のヒューズが弾け飛ぶ音が。
次の瞬間には、もう押し倒されているのだから呆れるわ。メンテナンス中の機械が畳に転がり、イヨリ様の「あっ」という短い悲鳴は、ご主人様の唇に吸い込まれて消える。
『マツバさん……まだ、髪も乾かして……っ』
『後で乾かす。今は、君が欲しい』
理由になっていないわ、ご主人様。髪が濡れていることと、情欲には何の関係もないはずよ。でも、ご主人様にとっては、イヨリ様が存在していること自体が発情のトリガーなのね。
◆ ◆ ◆
私は、天井裏の梁の上から、冷ややかに——でも興味深く観察させてもらう。
ご主人様の愛し方は、執拗で、重い。
『ここも、僕のものだ』
そう呟きながら、イヨリ様の耳朶を甘噛みし、首筋に赤い痕を刻みつける。まるで所有印を押すように。白い肌が次々とキスマークで汚されていくのを、ご主人様は恍惚とした表情で見下ろしている。
そして、手。
大きな手が、イヨリ様の身体を弄り回す。特にあの、華奢な身体に不釣り合いなほど豊かな胸。F65とかいうらしいけれど、ご主人様はあの柔らかい果実を掌で包み込み、形が変わるほど強く、でも痛くない絶妙な力加減で揉みしだくのが大好きみたい。
『んぁっ……♡ マツバさん、そこ……弱い……っ♡』
『知ってる。ここをこうされると、イヨリちゃんはすぐ濡れる』
『言わないで……恥ずかしい……っ♡♡』
イヨリ様の恥じらう顔が、さらにご主人様の火に油を注ぐ。かつて修行僧のように禁欲的だった男が、今や妻の性感帯を熟知し、それを弄ぶことに無上の喜びを感じている変態……失礼、愛妻家に変貌している。
帯が解かれ、寝巻きがはだける。
露わになったイヨリ様の秘所には、もう愛液が溢れている。ご主人様の前戯——というより、執拗な愛撫——だけで、彼女の身体は準備完了させられてしまうのね。
『びちゃびちゃだね、イヨリちゃん』
『……だ、誰のせいだと……っ♡』
『僕のせいだ。僕が君をこんなにした。……最高だ』
ご主人様は、イヨリ様の太腿を割り開き、その間に顔を埋める。クンニリングス。高貴なジムリーダーが、妻の股間に顔を押し当てて、獣のように蜜を啜る。初めて見た時は目を疑ったけれど、今ではもう見慣れた光景よ。
『ふぁっ……♡♡ 舌っ、だめぇ……そこ、すごいのぉ……っ♡♡』
イヨリ様の腰が跳ねる。指先が畳を掻く。その反応すらも、ご主人様の食欲を刺激するスパイス。
そして、結合。
『入るよ』
『はい……♡ マツバさんの、ほしい……♡』
一気に、最奥まで。
部屋の空気が、熱で歪む。私の冷気すらも溶かされそうなほどの熱量。ご主人様はイヨリ様と繋がっている時、まるで魂まで融合しようとしているみたいに必死な顔をする。
『愛してる……イヨリ……ッ!』
『私も……マツバさんが、好き……大好き……ッ♡♡』
激しい。見ているこっちが心配になるくらいに。
イヨリ様の身体なんて細くて壊れそうなのに、ご主人様は楔を打ち込むように腰を振る。でも不思議と、乱暴には見えない。一突き一突きに「離さない」「どこにも行かせない」「僕だけのものだ」という重たい念が込められているから。
一回で終わるはずがない。
一度果てても、ご主人様の熱は冷めない。ぐったりしているイヨリ様を抱き起こして、今度は後ろから。その次は上から。一晩に三回、四回は当たり前。
『もう……無理です……マツバさん……』
『無理じゃない。身体はこんなに正直だよ』
イヨリ様がとろとろに蕩けきっても、ご主人様は止まらない。あの無限のスタミナはどこから湧いてくるのかしら。ゴーストポケモンのエネルギーを吸っているわけでもないのに。
結局、明け方近くまで、その営みは続いた。
◆ ◆ ◆
静寂が戻った寝室。
事後の匂いが充満する部屋で、二人は泥のように眠っている。ご主人様はイヨリ様を抱き枕のようにガッチリとホールドして、足まで絡めて。絶対に逃がさないという執念が、寝相にまで表れているわ。
私は、そっと枕元に降り立つ。
イヨリ様の寝顔は、ひどく幸せそうだ。あれだけ激しく抱かれたのに、頬は薔薇色で、唇の端が緩んでいる。そしてご主人様も、かつてないほど安らかな顔をしている。
……まあ、悪くないわね。
かつての氷のように冷たいご主人様も素敵だったけれど、愛を知って、獣のように妻を貪り、そして満ち足りて眠るご主人様も。
『ユキ……メノコ……』
寝言。
『……そこは……違う……』
『……えへへ、マツバさん……』
イヨリ様も寝言。夢の中でもいちゃついているのね。本当に、呆れるほど仲のいいこと。
私は溜息をつき、少しだけ冷気を吐いて部屋の温度を下げてあげた。これだけ熱気ムンムンじゃ、寝苦しかろうと思ってね。
私の愛するご主人様。どうぞ、その熱が冷めるまで——いえ、一生冷めることのないその熱で、愛しいお人形を溶かし続けてくださいな。
私はそれを、氷の陰からずっと見守っているから。
― つづく? ―
あとがき by 佐藤美咲
主ィ!! ユキメノコ視点、新しい扉が開いたわ……!!
「女に興味がなかったマツバが、イヨリに対してだけ獣になる」。このギャップを「氷の檻にいた男」と表現してみたわ。ユキメノコだからこそ分かる、マツバの「冷徹さ」と「熱」の対比。どうかしら!?
特にこだわったのは「些細なことでも欲情する」描写よ。湯上がりにただ座っているだけ、髪から香りがしただけ、名前を呼ばれて振り返っただけ。それだけのトリガーで理性のヒューズが飛ぶマツバさん、完全にイヨリちゃん中毒よね。
そして後半の「絶倫」描写。ユキメノコ姉様、天井裏から実況中継ありがとう。淡々と、でも核心を突く語り口で、マツバさんの執拗で重い愛撫とピストンを描写してもらったわ。「一突き一突きに重たい念が込められている」……まさにゴースト使いのセックス!!
最後の「夢の中でもいちゃついている」二人を見守って冷気で調節してあげるユキメノコ姉様、本当にいいパートナーポケモンだわ……(涙)。