黄泉の使者が見た、愛という名の枷
【独白】魂を縛る重力
我はヨノワール。この世とあの世を行き来する魂の監視者であり、マツバの忠実な僕(しもべ)だ。
我の頭部にあるアンテナは、常に霊界からの微弱な電波を受信している。彷徨える魂の声、行き場を失った未練、そして——生者の強すぎる執念。
マツバという男は、かつて希有な「眼」を持つ孤独な探求者だった。彼の魂は常に空の彼方、虹色の幻影を追って浮遊していた。いつかどこかへ消えてしまいそうな危うさがあった。
だが、今の彼は違う。
彼の魂は、大地に深く根を張っている。いや、ある一人の女——イヨリという存在に、凄まじい引力で縛り付けられていると言った方が正しい。
◆ ◆ ◆
寝室の闇に、重たい空気が沈殿している。
我は部屋の隅、影の境界線に立ち、その儀式を見守る。
布団の上で、マツバがイヨリを抱きすくめている。背後から覆い被さり、長い腕で彼女の身体を二重三重に拘束している。蜘蛛が獲物を糸で絡め取るように、あるいは宝石箱を絶対に開けさせない番人のように。
『……イヨリ』
『はい……マツバさん……』
イヨリの細い左腕には、彼女が開発した「アステア・システム」という名の腕輪が嵌められている。その無機質なライトが、マツバの腕の中で微かに点滅している。まるで、彼女の生命維持装置のように。
マツバはその左手首を掴み、指を絡め、シーツに押し付ける。
『どこにも行かせない』
『……はい。どこにも行きません……』
『君の目も、足も、心臓も、全部僕が管理する。君は僕なしじゃ生きられないようにしてあげる』
呪いだ。あるいは洗脳だ。
普通なら畏縮し、逃げ出したくなるような重圧。だが、このイヨリという女の魂は、あろうことかその「枷」を至上の喜びとして受け入れている。
『嬉しい……もっと、縛ってください……っ♡』
『いい子だ』
マツバがイヨリの首筋に歯を立てる。白い肌に赤い所有印が刻まれる。イヨリの身体がビクリと跳ね、喉から甘い吐息が零れる。
『ふぁっ……♡ マツバさんの痕……熱いのぉ……っ♡』
マツバの手が、イヨリの着衣を剥ぎ取っていく。抵抗など皆無。むしろ、イヨリは自ら身体を預け、さらけ出している。
露わになった肢体。事故の痕が残る左足、華奢な肩、そして豊かな双丘。
マツバはその全てを支配するように、大きく温かい手で撫で回す。指先が肌に食い込み、形を変えるほど強く、しかし慈しむように捏ねくり回す。
『ん、ぁあんっ……♡ そこっ、強いっ……でも、好きぃ……っ♡』
『身体中、僕の指の跡だらけにしたい』
『して……っ♡ マツバさんの形、私の体に残して……っ♡♡』
我は知っている。霊界へ連れて行くべき魂は、現世への未練がない軽い魂だ。
だが、この二人の魂は重い。互いへの執着という鎖で何重にも巻き付き合い、絶対に天へ昇ることなどできないほど、地上の泥沼に沈み込んでいる。
『濡れてるね。こんなに』
マツバの指が、イヨリの秘泉を暴く。
『だって……マツバさんが……そんな目で見るから……っ♡』
『どんな目?』
『私を……閉じ込めるような……熱い目……っ♡』
イヨリの瞳がとろりと蕩けている。白衣をまとった理知的な医師の顔はどこにもない。そこにあるのは、所有者に愛でられることを歓喜する、ただの雌の顔だ。
マツバが楔を打ち込む。
『入るよ。僕の枷を、その身に受け入れて』
『はいっ……マツバさんの、全部……くださいっ……♡』
結合。
一気に深部まで貫かれる衝撃に、イヨリが弓なりに反り返る。左腕のアステア・システムの表示が、心拍数の急上昇を告げる赤い光に変わる。
『ふぁぁぁっ……♡♡! 入ったぁ……っ! マツバさんの、太いの、奥までぇ……っ♡』
『逃がさない。二度と、この腕の中から』
マツバの腰が、重く、深く、打ち付けられる。
単純な快楽の追求だけではない。一突きごとに、自分の存在を相手の魂に刻み込むような、儀式的な性交だ。マツバはイヨリの両手首を頭上で束ね、片手で制圧しながら、何度も何度も楔を穿つ。
『あ、ああんっ! 深いっ……♡ そこっ、すごくイイのぉ……っ♡♡』
『イヨリ……愛してる、愛してるッ!』
縛る男と、縛られる女。
普通なら息苦しいその関係が、この二人にとっては呼吸をするよりも自然なことなのだ。イヨリという「壊れた器」は、マツバという「重力」があって初めて、その形を保っていられる。
『マツバさんっ、マツバさんっ……♡ 大好きっ……もっと、もっと縛ってぇ……っ♡♡』
『ああ、縛るよ。骨の髄まで、魂の果てまで』
部屋の温度が上がる。汗と愛液の匂いが充満する。アステア・システムの警告音が小さく鳴るが、誰も気にしない。
『イくっ……イっちゃう……っ! マツバさんの鎖に繋がれたまま……イっちゃうのぉぉッ♡♡♡』
『イヨリ……ッ!!』
限界を超えた絶頂が二人を襲う。マツバはイヨリを抱き潰すように深く沈み込み、その奥底に熱い楔を注ぎ込む。イヨリは痙攣しながら、マツバの背中に爪を立て、その束縛を確かに受け止める。
◆ ◆ ◆
事後。
マツバはまだ、イヨリの中から出ようとしない。繋がったまま、彼女を自分の肋骨の一部のように抱きしめている。
『……苦しくないかい?』
『ううん……。安心します……』
イヨリが、とろとろに蕩けた瞳でマツバを見上げる。その左腕の腕輪が、穏やかな緑色の光に戻っていた。
『私、マツバさんに捕まってて、本当に幸せ……』
『一生離さないよ。たとえ君が死んで、魂になっても。僕のこの手で捕まえて離さない』
『ふふ……嬉しい……ずっと、捕まえていてくださいね……♡』
これだ。
霊界からの電波などより、遥かに強力で、断ち切れない波長。
我はアンテナを少し伏せた。
マツバよ。お前のその重すぎる愛は、確かに一つの「枷」だ。だがそれは、この不確かな現世において、脆いイヨリの魂を繋ぎ止めるための、唯一無二の錨(いかり)なのだろう。
黄泉の国への案内は、当分必要なさそうだ。
この二人の魂は、死してなお、互いを縛り合い、地獄の底まで一緒に堕ちていくのだろうから。
それもまた、一つの愛の形。
我は静かに闇に溶け、主の安らかな寝息を守る番人へと戻った。
― 了 ―
あとがき by 佐藤美咲
主ォォォォ!! ヨノワール視点、究極の「重愛」が書けたわ!!
ヨノワールさんは「魂の監視者」。そんな彼から見たマツバさんの愛は、「イヨリの魂を現世に縛り付ける鎖」であり「錨」なの。
ポイントは、マツバさんがイヨリちゃんを物理的にも精神的にもガチガチに拘束しているところ。「君の目も足も心臓も僕が管理する」なんて、普通の恋人ならアウトだけど、イヨリちゃんにとってはこれ以上ない安心感なのよ!
そしてアステア・システム! 左腕で光るそのデバイスが、心拍数で赤くなったり、事後に緑に戻ったりする描写を入れてみたわ。無機質な機械が二人の愛のボルテージを可視化してるみたいでエモいでしょ?
「死んで魂になっても捕まえて離さない」というマツバさんの殺し文句と、「ずっと捕まえていて」と蕩けるイヨリちゃん。これぞ星と花の小夜曲の真骨頂! 甘くて重たくて、最高に幸せな地獄ね♡