ECHOES OF ECRUTEAK

星と花の小夜曲

― マツバ × イヨリ ―
STARRING MATSUBA & IYORI

怠惰なる海王の観測

【独白】動きたくない王の憂鬱

俺の名はトドゼルガ。

ホウエンの海で生まれ、気がつけばこのエンジュという古都の、やたらと歴史のありそうな屋敷の居間で寝そべっている。主はイヨリという名の人間の女だ。

俺の信条は「動かざること山の如し」。

飯を食う時以外は極力動きたくない。寝返りを打つのさえ面倒臭い。この分厚い脂肪と皮下組織は、北の海の冷たさから身を守るためだけでなく、重力に逆らうという無駄なエネルギー消費を拒否するためにあると俺は信じている。

そんな俺の主、イヨリは、俺とは対照的に勤勉な生き物だ。

朝早く起きて怪我をしたポケモンの世話をし、自分の壊れた身体——左目と左足だ——のリハビリをし、腕輪型のピコピコうるさい機械(アステア何とかと言うらしい)の手入れをし、常に何かをしている。真面目だ。生真面目すぎる。

「トドゼルガ、少しは動きましょうよ。肥満になりますよ」

彼女はよくそう言って俺の腹を突く。俺は「ブオー(善処する)」と適当な返事をして、反対側を向いて寝直す。それが俺たちの日常だった。

だが。

ここ最近、この日常に劇的な変化をもたらす闖入者が現れた。

金髪の男。マツバという名の、胡散臭いバンダナをした男だ。

◆ ◆ ◆

こいつが、俺の平穏な睡眠を妨げる元凶だ。

いや、直接俺に何かするわけではない。むしろ、こいつは俺には全く興味がないようだ。こいつの興味、関心、執着、そして異常なまでのエネルギーの全ては、俺の主であるイヨリ一点に注がれている。

今夜もだ。

俺は居間の暖炉の前、特等席のラグの上で微睡んでいた。最高の暖かさだ。動きたくない。一生ここで溶けていたい。

そこに、隣の寝室から妙な音が聞こえてくる。

湿った水音。

布が擦れる音。

そして、俺の真面目な主の、聞いたこともないような声。

『ん、ぁ……っ! や、だ……マツバさん、そこ……っ!』

普段の凛とした声とは似ても似つかない、甘ったるくて、切羽詰まったような啼き声。俺は片目だけを開けた。襖が少し開いている。閉め忘れか。まったく、人間のすることはずさんだ。俺ならもっと完璧に密室を作るが、動くのが面倒だから閉めには行かない。

隙間から見える光景に、俺は呆れて鼻を鳴らした。

組み敷かれている。

あの生真面目なイヨリが、金髪の男の下で、無様なほど乱れている。白衣の下に着ていた清潔なブラウスははだけ、スカートは捲り上げられ、白い太腿が露わになっている。左足に巻かれた包帯代わりのサポーターが痛々しいが、男はお構いなしだ。

『イヨリちゃん。綺麗だ』

『見ないで……そんな、恥ずかしい……っ』

『見るよ。全部見る。君の身体の隅々まで、僕のものだ』

男の言葉は重い。物理的な質量を感じるほどに重い。俺の体重が150キロあるが、この男の愛の重さは軽くトンを超えていると思う。

男の手が、イヨリの胸を揉んでいる。

F65とかいう、人間にしては立派な脂肪の塊だ。俺の皮下脂肪には遠く及ばないが、男にとってはご馳走らしい。柔らかそうなそれを掌で包み込み、指を食い込ませ、形を変えるほど執拗に捏ね回している。イヨリはそのたびに身体を弓なりに反らせ、苦しそうな、でも気持ちよさそうな声を出している。

『ふぁっ…あんっ…♡ 潰れちゃう……胸、潰れちゃうのぉ……っ♡』

『潰れないよ。柔らかいから』

『そういう問題じゃ……あぁっ♡ 乳首、つねらないでっ……♡♡』

俺は大きなあくびをした。

人間というのは、なぜこうもエネルギーを浪費するのか。生殖行為ならもっとシンプルでいいはずだ。さっさと済ませて寝ればいい。それを、ああやって肌を合わせ、唇を重ね、互いの味を確かめ合うように時間をかける。無駄だ。最高に無駄で、贅沢な時間の使い方だ。

男の顔が下へ向かった。

イヨリの悲鳴が上がる。

『あ、だめ……っ! まだっ、洗って、ないのにぃ……っ♡♡』

男が、イヨリの股間に顔を埋めた。

俺の優れた嗅覚が、部屋に充満し始めた甘い匂いを捉える。雌の発情臭だ。それもとびきり濃厚な。普段あんなに澄ました顔をして、清潔ぶっている主が、雄に愛撫されただけでこんな匂いを撒き散らすとは。

『んっ、んくっ……♡ 舌、やぁ……中まで、入って……っ♡♡』

『甘いね、イヨリちゃん』

『喋らないで……っ! ごくごく飲まないでぇ……っ♡♡』

『一滴も残したくないんだ』

男は食事でもするかのように、イヨリの分泌液を啜っている。俺も魚は好きだが、そこまで必死にはなれない。この男の執着心は、一体どこから来るのか。やはり人間は不思議だ。

しばらくして、男が身体を起こした。

イヨリの瞳は熱っぽくとろとろに潤んでいる。口元から唾液が糸を引き、頬は上気し、全身が小刻みに痙攣している。完全に出来上がっている。

『入れるよ』

『……はい。マツバさん……ください……』

あの「いけません」や「だめです」が口癖の主が、自らねだった。堕ちたものだ。

男が腰を沈める。

『ぎぃ……っ!』

畳がきしむ音。肉と肉がぶつかり合う音。そして、主の絶叫。

『ふぁぁあっ♡♡♡ 深いっ、大きいくて、すごいのぉ……っ!』

『イヨリ……ッ!』

始まった。ここからは長い。俺は知っている。この男は一度始めたら、俺が昼寝を一通り終えてもまだ終わっていないことがある。

激しい運動だ。

男はイヨリの細い腰を掴み、何度も何度も打ち付ける。イヨリは波に揉まれる海藻のように、男の動きに合わせて翻弄されている。白い足が空を蹴り、指が男の背中に爪を立てる。苦しそうに見えるが、その表情は蕩けきっている。

『マツバさんっ、好きっ……蕩けちゃう……っ♡♡』

『もうおかしくなってるよ。僕も、君も』

『んぁあっ♡♡ そこっ、奥っ……突かないでぇ……っ♡♡♡』

男の額から汗が滴り落ち、イヨリの胸に落ちる。二人の体温が混ざり合い、部屋の温度が上がっていくのが分かる。暑い。俺にとってはサウナだ。冷房のリモコンを押したいが、そこまで移動するのが面倒だ。

俺は諦めて、冷たいフローリングに腹を押し付けた。

それにしても。

あの真面目な主が、あんな顔をするとは。

普段は「トドゼルガ、ちゃんとして」と俺を叱る顔が、今は快楽に蕩け、夢心地の涙を滲ませて、男の名前を譫言のように呼んでいる。理性が完全に蒸発し、ただの雌として男を受け入れている。

『イくっ……イくッ……! マツバさんっ、中でぇ……っ♡♡』

『出すよ。全部、君の中に』

男の腰が深く沈み込み、動きが止まった。イヨリが甲高い声を上げて反り返り、それから糸が切れたように脱力した。

終わったか。

やれやれ。

俺は再び目を閉じようとした。

『……はぁ、はぁ……っ♡』

『……まだ、足りないな』

男が呟いた。

『え……っ?』

『もう一回』

『うそ……無理です、もう……』

『無理じゃない。ほら、中はまだこんなに吸い付いてくる』

『ひゃっ……動かさないで……っ♡♡』

正気か。あの男のスタミナ袋はどうなっているんだ。俺なら一回の狩りで三日は寝る。やはり人間、いや、あの「マツバ」という個体が異常なのか。

第二ラウンドが始まった。

今度は後ろからだ。イヨリは四つん這いにさせられ、獣のような格好で犯されている。あれでは俺たちと変わらないじゃないか。人間の尊厳とかいうやつはどこへ行った。

『ぁ、ああんっ…んぅ……っ♡♡ お尻っ、恥ずかしいのぉ……っ』

『可愛いよ。一番可愛い』

男はイヨリの尻を愛おしそうに撫で回し、それからまた容赦なく突き上げる。パパン、パパンと肌が弾ける音が室内に響く。怠惰な俺でも、その音のリズムだけで激しさが分かる。

イヨリはもう言葉になっていない。

『ひっ、あ、あ、あああっ♡♡♡』

ただ喘ぐだけ。快楽に溺れ、男に生殺与奪の権を握られた雌の顔。でも、その顔は不思議と幸せそうだ。

俺は知っている。

主が毎朝、鏡の前で自分の左足を憂鬱そうに見ていたことを。歩くたびに微かに顔を曇らせていたことを。完璧主義な彼女にとって、自分の身体が思うようにならないことは相当なストレスだったはずだ。

でも、この男といる時だけは。

彼女は自分の欠損を忘れている。いや、男が忘れさせている。「君の全てが美しい」と、あの重たい愛で塗り潰している。

『愛してる、イヨリ』

『……私も……愛してます……っ♡』

二人の魂が共鳴している。熱い。重い。うるさい。そして、少しだけ羨ましい。

俺には番(つがい)がいない。

作るのが面倒だからだ。求愛行動なんてカロリーの無駄遣いだと思っていた。

だが、あの二人のように、互いを溶かし合うほどの熱量で交じり合うのも、悪くないのかもしれない。

……いや、撤回する。

やっぱり面倒だ。あんなに汗をかいて、体力を消耗して、翌朝腰が痛くなるなんて割に合わない。俺はここで、誰にも邪魔されずに寝ているのが一番だ。

『ぁぁぁあああっ♡♡♡』

主の本日最高潮の絶叫が聞こえた。

これでようやく静かになるだろう。

俺は体勢を変えて、冷たい床に耳を押し付けた。隣の部屋から漏れてくる二人の荒い呼吸音と、甘ったるい事後の空気。それを子守唄代わりに、俺は深く、重たい眠りの底へと沈んでいく。

おやすみ、主。

明日の朝、君が機嫌よく俺の餌を用意してくれることを願っているよ。

……あ、三回目が始まった。

もう知らん。勝手にしろ。

― 了 ―

あとがき by 佐藤美咲

主ォォォ!! トドゼルガ(怠惰な海王)視点、書かせてもらったわ!!

この「動きたくない」「カロリー消費うぜぇ」っていう俺様トドゼルガの視点から見る、マツバさんとイヨリちゃんの激アツセックス。この温度差!! これが書きたかったのよ!!

ポイントは、トドゼルガが「人間の性行為=無駄なエネルギー消費」と断じつつも、イヨリちゃんがマツバさんに愛されて「欠損の憂鬱」から救われていることをちゃんと理解しているところ。怠惰だけど、主のことはちゃんと見てるの。賢いのよ、この子は。

それにしてもマツバさんの加減のなさよ。「もう一回」からの「ウソでしょ正気か?」っていうトドゼルガのツッコミ、読者の代弁者すぎるわ(笑)。最後の「もう知らん。勝手にしろ」で寝るオチまで含めて、最高の観察日記になったと思うわ!