翠緑の灼印
それは、ロトムフォンの画面が薄暗い寝室のなかでほのかに発光した、ほんの一瞬の出来事だった。
イヨリが風呂から上がり、湿った髪をタオルで包みながら廊下を歩いている間、マツバは布団の上で寝転がり、何をするでもなく天井を眺めていた。障子の向こうに今宵の月がぼんやりと浮かんでいて、その乳白色の光がエンジュの古い木造建築を静謐に照らしている。秋の虫の声が微かに聞こえる。穏やかな夜だった。はずだった。イヨリの枕元に置かれたロトムフォンが、一通の通知を灯さなければ。
マツバは、見るつもりなどなかった。ロトムフォンの画面に表示されたのは、メッセージアプリの通知。送り主は「カツラギ先生」。ポケモンセンターの同僚だろうか、知らない名前だった。プレビューに表示された一文だけが、黄昏色の瞳を射抜いた。
「イヨリ先生、先日はありがとうございました。もしよろしければ、今度お食事でもいかがでしょうか」
マツバは、視線を天井に戻した。虫の声がやけに遠い。障子に映る月の影が、ほんの少しだけ凝固している気がした。何も感じていないわけではなかった。むしろ、感じすぎている自覚があった。千里眼が、見なくていいものを見せるのは今に始まったことではない。だが今回は、千里眼など使っていない。偶然だった。そしてその偶然が、マツバの胸の奥に、翠色をした細い炎を灯してしまった。
「マツバさん、お待たせしました」
廊下の奥から、イヨリの声が。裸足の足音が畳を踏む柔らかな擦過音と一緒に近づいてくる。タオルを肩に掛けたまま、寝室の襖を開けたイヨリの頬は、風呂上がりの血色で薄桃色に染まっていた。首筋に残る水滴が、月の光を受けて星屑のように瞬いている。
「……うん。おかえり」
マツバの声は、いつもより半音だけ低かった。イヨリがそれに気づいたかどうかは、わからない。布団の傍に腰を下ろした彼女が、濡れた髪の毛先を指で梳きながら微笑んだ。この笑顔を、あの「カツラギ先生」とやらにも向けているのだろうか。そんな発想が頭を掠めた途端、マツバは自分の思考の醜さに唇を噛んだ。
「マツバさん? どうかしましたか?」
イヨリが小首を傾げる。濡れた黒髪が、白い首筋に一筋貼りつく。その無防備さが、マツバの網膜に焼きつく。彼は何も答えず、起き上がり、イヨリの正面に膝をついた。
「……ん。なんでもないよ」
嘘だった。なんでもなくなど、ない。
マツバの長い指が、イヨリの頬に触れた。風呂上がりの肌は、しっとりと温かく、ほのかに石鹸の香りがする。その奥にあるイヨリ自身の匂い、甘い花のような体温のにおいが、マツバの嗅覚を刺す。この匂いは、自分だけのものだ。自分だけが知っている。自分だけが、触れていい。
「っ、ぁ……マツバさん……っ」
マツバの親指が、イヨリの唇の輪郭をなぞった。それだけで、彼女の睫毛がぴくりと震える。紫薔薇色の瞳が潤みを帯びて、月明かりの中で危険なほど綺麗に煌めいた。
「イヨリ」
「はい……」
「今夜は……少しだけ、僕のわがままに付き合ってくれる?」
イヨリは、マツバの瞳を見つめた。いつもの穏やかな黄昏色が、微かに翳りを帯びている。怒っているわけではない。悲しんでいるわけでもない。ただ、その奥の奥に、控えめに、だが確かに燃えている何かがある。イヨリはそれが何であるかを、すぐに理解した。この人は、嫉妬している。
「……いいですよ、あなたの好きなように、して……っ」
マツバの唇が、イヨリの首筋に触れたのは、その言葉の余韻が消えるより先だった。
触れた、というより、落ちた。唇が、まるで花弁が水面に着地するように、彼女の左耳の下、ちょうど顎のラインが終わる柔い窪みに音もなく降り立つ。それだけで、イヨリの肩が小さく跳ねた。
「ん、っ……」
「ここ、好きだったよね。イヨリの、一番弱いところ」
囁くように、しかし確認するようにそう言って、マツバは唇を離さなかった。そのまま、ゆっくりと、蝸牛が葉脈を辿るように、唇を首筋に沿って滑らせていく。イヨリの首の白さは月光の下ではほとんど透明に近く、皮膚の下を走る細い血管の青みが微かに透けて見える。マツバの唇は、その青い線をなぞるように動いた。
「はぁっ……首すじ……んっ、そこ、っ♡」
イヨリの声が、細く甘く震えた。風呂上がりの敏感な肌に、マツバの吐息が触れるたび、背中に電流が走る。首を逸らそうとするのに、マツバの左手がイヨリの後頭部を優しく、けれど逃がさないように支えていて、首を傾けることしかできない。むしろその動作が、無防備な首筋をさらに差し出す形になって、マツバの唇がいっそう深く肌に沈み込んだ。
ちゅ、と小さな水音がした。次の瞬間、マツバの唇が、イヨリの喉仏のすぐ横に吸いついた。痛くはない。でも、明らかに痕を残そうとしている吸い方だった。
「あ……っ、キスマーク……っ、また、そんな見えるところに……っ♡」
「見えるところ、がいいんだよ」
マツバの声は穏やかなのに、その言葉の底に横たわる独占欲が、イヨリの心臓を鷲掴みにする。見えるところ。つまり、誰かに見てほしいのだ。この印が、何を意味しているのかを。イヨリの首筋は、マツバのものだという宣言を。
マツバの舌先が、吸い上げた跡の上をゆっくりと舐めた。唾液と、風呂上がりの残り湯の淡い湿り気が混ざり合って、イヨリの首筋がてらてらと光る。
「んぅ……っ、マツバさんに触られるの、好き……っ」
「そう。……じゃあ、もっと触るね」
その宣告は、脅しではなく、約束だった。マツバの唇は反対側の首筋に移り、今度は鎖骨の上、頸動脈の脈打つ場所に歯を立てた。甘噛み。痛みの手前で止まる、計算し尽くされた圧力。
「やぁっ……っ、噛まないで……っ、そこ、あとが残っちゃう……っ……あぁん♡」
イヨリの声は拒絶の形をしているのに、身体は正反対の反応を返していた。指先がマツバの着物の袖を握りしめ、背を反らせ、自ら首をさらに傾けている。マツバはそれを見逃さない。千里眼など使う必要がなかった。イヨリの身体が、嘘をつけないことを、もう知りすぎているから。
「……イヨリ。『カツラギ先生』って、誰?」
首に顔を埋めたまま、何気なく訊いた。いや、何気ないふりをしていた。イヨリの身体がほんの一瞬こわばったのを、マツバは唇越しに感じ取った。
「え……? カツラギ先生は、先月異動してきた内科の……」
「ふうん。お食事に誘われてるんだ?」
イヨリの頬から、風呂上がり以外の熱が広がった。ロトムフォンの通知を見たのだ。マツバが嫉妬していた理由が、今、鮮明に理解できた。
「あれは……ただの、社交的な……マツバさん、違います、あの方とは何も……っ」
「わかってるよ」
マツバは、微笑んだ。柔らかく、優しく、それでいてイヨリの弁明をまるごと呑み込んで咀嚼してしまうような笑みだった。
「わかってる。イヨリが何もしてないことも、あの人に非がないことも。……でもね」
マツバの右手が、イヨリの寝巻きの衿元に指を掛けた。ゆっくりと、布地をずらしていく。鎖骨が露わになり、その下の白い胸元が月光に晒される。
「僕は人間だから。君を誰かに取られるかもしれないって想像するだけで、こうなるんだ」
イヨリの寝巻きの前が開かれると、その下には何も身に着けていなかった。風呂上がり、寝巻き一枚。その事実がマツバの瞳の翳りをいっそう深くさせる。この無防備さは、自分への信頼の証だ。だからこそ、他の誰にも見せたくない。
マツバの唇が鎖骨の中央を滑り、胸骨の上を下りていく。そしてイヨリの左の胸の丘に辿り着いた時、マツバは顔を上げて、イヨリの表情を見た。
「そんなに見つめられると……恥ずかしい、です……っ♡」
イヨリが両手で顔を覆おうとした。マツバはそれを許さず、左手でイヨリの右手首を、右手で左手首を掴んで、ゆっくりと布団の上に押し広げた。力は入れていない。けれど、逃がさないという意志が、その指先の温度に滲んでいる。
「見るよ。全部」
マツバの唇が、イヨリの左の乳首に触れた。舌先で、淡い桜色の突起の周囲を円を描くように舐める。一周。二周。じれったいほどゆっくりと、頂点にだけは触れないまま、周囲だけを愛撫し続ける。
「やぁっ……っ、マツバさんの、それ……熱すぎ、ます……っ♡」
イヨリの腰がびくんと持ち上がった。先端に触れてほしいのに、触れてくれない。その焦らしが、胸の奥に熱い疼きを蓄積させていく。マツバの左手がイヨリの右の胸を包み込み、掌全体で柔らかな曲線を揉み込みながら、親指の腹で右の乳首だけをくるくると弄ぶ。左は舌で焦らし、右は指で刺激する、その非対称さが、イヨリの思考をぐちゃぐちゃに撹拌していた。
「だめっ……っ、そこっ、弱いんです……っ、あぁっ!」
ようやく、マツバの舌先が左の乳首の頂点を捕らえた。ちろ、と先端だけを舐め上げ、次に唇ごと含んで吸い上げる。じゅる、と湿った音が静かな寝室に響き、イヨリの背が大きく反った。
「んぎゅっ……っ! 胸が……きゅーって、します……ぁっ♡」
「きゅー、って?」
「っ、ずるいです……っ、聞き返さないで……くださいっ♡」
マツバは笑わなかった。ただ、静かな眼差しでイヨリを見つめながら、吸う力を少しだけ強めた。同時に、右の乳首を親指と人差し指で軽く摘み、転がすように捻る。
「あ、んっ! ……っ、両方同時はっ……ずるい、ですっ……♡」
やわらかい。マツバの掌に馴染む感触は、何度触れても新鮮な驚きをもたらす。この形も、この温度も、この弾力も、イヨリが自分だけに許した聖域の一部だ。こんなものを、誰かに見せてたまるか。マツバの唇が、左の乳房の側面に歯を立てた。今度は首筋よりも深い、はっきりとした噛み痕が残る強さで。
「ひゃんっ……! ……っ、噛んだ……っ♡」
「うん。ここにも、印」
「……っ、マツバさんの、いじわる……っ。でも、好きっ……♡」
イヨリの瞳から涙が一粒、こぼれた。痛みではなく、快感と羞恥が混ざり合った結晶のような涙だった。マツバの唇がその涙の跡を辿り、イヨリの頬を這い上がり、耳朶を含んだ。
「……っ、お耳……っ、舐めるの、やだっ……ぞくぞくする……っ♡」
イヨリの身体が、マツバの腕の中で小刻みに震えている。首筋には紅い花が咲き、胸には歯型の花弁が刻まれ、耳は唾液で光り、全身がマツバの「所有」を証明する地図のようになっていた。
マツバの右手が、イヨリの腹部を撫で下ろしていく。臍の窪みを通り過ぎ、下腹部の柔らかな丘陵を越え、その指先が太腿の付け根、鼠蹊部の繊細な境界線に触れた瞬間、イヨリの全身がびくりと跳ねた。
「あ、ぁっ!……そこ、っ……変な、感じっ……♡」
鼠蹊部。太腿の内側と下腹部が交差する、皮膚が最も薄く、神経が最も集中するあの場所。マツバの長い指が、リンパの流れに沿うように、ゆっくりと、ゆっくりと、その窪みを撫でた。爪は立てない。指の腹だけで、羽毛で撫でるような軽さで、しかし執拗に、同じ場所を何度も何度も往復する。
「っ、ぁ……! 身体が……ふにゃふにゃに、なっちゃう……っ♡」
イヨリの内腿が、意思に反して開いていく。身体が勝手に、もっと触ってほしいと訴えている。マツバの指は秘所には触れない。そのすぐ傍、足の付け根の折り目のところだけを、ねちっこく、ねちっこく、何度も繰り返し撫で続ける。まるで、ここまでは触るけれど、ここからは触らない、という無言の境界線を引いているかのように。
「マツバ、さん……っ、マツバさんっ、マツバさんっ……♡」
「なに。何がほしいの、イヨリ」
わかっているくせに訊いてくる。この人は、優しい顔をして、一番残酷な焦らし方を知っている。イヨリの顔が、恥辱と懇願で赤く染まった。
「……っ、もっと……」
「もっと? ここを?」
マツバの指が、鼠蹊部の最も敏感な一点を、くるりと円を描くように撫でた。イヨリの腰がガクンと浮き上がる。
「んあぁっ! ……そこ、っ! そこぉっ……♡」
「この反応。……本当に、可愛いね」
マツバは、その色褪せた黄昏色の瞳をイヨリに向けたまま、姿勢を低くした。そして、自分の唇を、イヨリの右の太腿の付け根に押し当てた。
「ひゃっ……っ! そ、そこに顔っ……!」
マツバの唇が、鼠蹊部の薄い皮膚の上で開閉する。ちゅ、ちゅ、と規則正しく吸い上げながら、合間に舌先で皮膚を舐め上げる。リンパ腺の上を通過するたびに、イヨリの身体が痙攣する。足の付け根から下腹部へ、下腹部から子宮へ、電気信号が連鎖的に駆け上がっていく。
「っ、ぁ……! ……おかしくなりそう……っ、マツバさんが、いっぱいで……っ」
「いっぱいにするよ。君の全部を、僕で」
左の太腿にも同じように唇を寄せ、吸い、舐め、噛む。右にも左にも、紅い花を咲かせる。首に二つ、胸に一つ、そして今、太腿の付け根にも二つ。イヨリの身体は、マツバの印であふれていた。服を着ていれば見えない場所もあるが、マツバはそんなことは気にしていなかった。大事なのは、イヨリ自身が意識することだ。鏡を見るたび、着替えるたび、入浴するたびに、自分の肌に残ったこの印を見て、思い出すこと。誰のものであるかを。
「やぁんっ♡ ……そこ、っ、ぐりぐり、しないでぇ……っ♡」
マツバの舌が、鼠蹊部の窪みを舐め尽くしている。唾液で光る太腿の内側、そのすぐ隣ではイヨリの秘所がとうの昔に蜜を溢れさせていて、花弁の合わせ目から透明な雫が布団に垂れ落ちている。それを視界の隅で確認しながらも、マツバはまだそこには触れなかった。
「……っ、ずるいです……っ、千里眼、使ってませんか……?♡」
「使ってないよ。使わなくても、君のことは全部わかるから」
嘘ではなかった。千里眼を使わずとも、イヨリの身体の反応は、マツバの五感に余すところなく伝わっている。肌が粟立つ音。体温が上昇する気配。愛液が分泌される微かな水音。全身から立ち昇る、甘い発情の匂い。それらすべてが、マツバの独占欲を一層焚きつけていた。
「マツバ、さん……っ、もう……っ、我慢、できないです……」
イヨリの声が、ついに懇願の色を帯びた。鼠蹊部への執拗な愛撫で、身体の芯が熱く煮えたぎっている。秘所は触れられてもいないのに、ひくひくと痙攣を繰り返し、溢れ出る蜜の量はもはや制御不能だった。
「何が我慢できないの? ……ちゃんと言って」
「っ……あなたの、モノにして……ください……っ♡」
その言葉を聴いた瞬間、マツバの瞳から翳りが消えた。代わりに、深い慈愛と、それと等量の獣じみた欲望が混ざり合った光が灯る。彼はイヨリの身体を仰向けに横たえ直し、その上に覆い被さった。広い胸板が、イヨリの視界をすべて塞いで、月明かりさえ遮断する。世界がマツバだけになる。
「……っ、もっと、強く……抱きしめて……ください……♡」
マツバは腰を沈めた。熱く硬くなった先端が、イヨリの蜜に塗れた入口に触れる。そしてゆっくりと、ゆっくりと、彼女の奥へと沈み込んでいった。
「んんっ……あっ……マツバ、さんっ……あ、ぁ……っ♡」
満たされていく。身体の一番深いところまで、愛する人の体温で満たされていく。その感覚に、イヨリの目尻から涙が頬を伝って流れた。マツバの額が、イヨリの額に重なる。息が、混ざる。
「イヨリ。……君は、僕のだよ」
静かに、けれど鋼のように揺るぎない宣言だった。イヨリは涙に濡れた瞳で頷いた。
「はい……っ。イヨリは……マツバさんの……っ♡」
マツバが動き始めた。ゆっくりと引き、深く挿し入れる。一突きごとに、先端がイヨリの最も感じる場所を正確に擦り上げる。同時に、唇は首筋に戻り、先ほどの痕の隣にもう一つ、紅い印を咲かせた。右手は胸を揉み込み、親指は乳首を転がし、左手は太腿の付け根を撫で上げる。頸、胸、鼠蹊部。イヨリの三つの弱点を、一度に、同時に、余すところなく攻め立てていた。
「あっ、あっ、あっ……やぁっ♡ 全部、同時にっ……おかしくなっちゃう……っ♡」
「おかしくなっていいよ。僕の前でだけ」
「はぁ、はぁっ……っ! 息が……うまく、できな、い……っ♡」
マツバの腰の律動が少しだけ速度を上げた。ぱちゅ、ぱちゅ、と蜜が弾ける淫らな水音が、虫の声に混ざって部屋に響く。イヨリの爪がマツバの背中に食い込み、白磁のような肌に赤い線を引いた。
「あぁっ……っ! つ、爪……立てちゃって……っ、ごめんなさい……っ!」
「いいよ。……その爪痕も、君からの印だから」
マツバの声が、イヨリの耳朶に直接注ぎ込まれる。その振動が鼓膜を震わせ、脳に直結する快感の回路を撃ち抜いた。イヨリの視界が白く霞み始める。
「マツバさん、マツバさんっ! ……愛して、愛してくださいっ……♡」
「愛してる。……ずっと、ずっと前から」
マツバの唇がイヨリの首筋を這い、鎖骨を舐め、胸の頂に口づけし、腹部を撫で下ろし、鼠蹊部の印に唇を押し当てた。そしてまた首筋に戻る。循環する愛撫が、イヨリの全身を隈なく支配していた。
「だめぇ♡ だめだめだめっ! ……ソコ、っ! あぁぁっ♡」
マツバの先端が、イヨリの子宮口を浅く叩いた。その衝撃が、彼女の体内で臨界を越えた。
「やぁっ♡♡ イクッ、イっちゃうっ! ……マツバさんっ、イくのぉっ!!♡」
「いいよ。……イきなさい、イヨリ」
その瞬間、マツバが首筋に深く歯を立てた。鼠蹊部を親指で強く押さえ、胸の頂を指先で摘み上げた。三点同時の刺激が、イヨリの全身を貫いた。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!!♡♡」
イヨリの身体が大きく弧を描き、マツバの腕の中で激しく震えた。膣壁がマツバのものを万力のように締め上げ、律動的に収縮を繰り返す。透明な潮が結合部から溢れ出し、二人の下腹部を温かく濡らした。
「っ、ぁぁ……ぁ……! ……っ、頭のなか、真っ白で……っ、なんにも、わかんないっ♡」
マツバは、絶頂に揺れるイヨリを抱きしめたまま、自らも限界を迎えていた。彼女の内壁が彼を締め上げるたびに、理性の輪郭が溶けていく。
「イヨリ……っ、僕も……」
「出して……っ、なかにっ、ぜんぶ……っ♡」
マツバは最後に深く、深く腰を沈め、イヨリの最奥で脈打った。
びゅるっ、びゅるるっ、どくん、どくん……
「あ、ぅ……っ♡ ……熱い、です……マツバさんので……いっぱい……♡」
イヨリの子宮がマツバの熱を受け止め、収縮を繰り返しながら、その一滴も逃さないように奥深くへ吸い込んでいく。二人の額が重なり、荒い吐息が交差した。月だけが、二人の姿を静かに見守っていた。
どれほどの時間が経っただろう。
マツバはイヨリの隣に横たわり、汗で額に貼りついた彼女の前髪を、指先で丁寧に梳いていた。イヨリの身体は、首筋に三つ、左胸の側面に一つ、両太腿の付け根にそれぞれ二つずつの紅い印が刻まれていて、まるで星座のように繋がっている。マツバだけの星座。マツバだけの地図。
「……ふにゃ……」
イヨリが、かすれた声で笑った。身体に力が入らないらしく、指先一つ動かすのにも苦労している。
「もう……動けない、です……♡」
「無理しなくていいよ。……このまま寝よう」
マツバの腕が、イヨリの身体を優しく引き寄せた。汗と蜜と涙で湿った彼女の身体が、マツバの胸板に収まる。イヨリの耳が、マツバの心臓の位置にぴったりと重なった。
「……はぁ。……マツバさんの、心臓の音……。……私の、子守唄……♡」
「……イヨリ」
「はい……」
「お食事の誘い、断ってくれる?」
イヨリは、マツバの胸に顔を埋めたまま、くすりと笑った。この人は、あんなに激しく愛しておきながら、最後にはちゃんと「お願い」の形で言ってくる。その律儀さが、その不器用な優しさが、イヨリにはたまらなく愛おしかった。
「……最初から、断るつもりでしたよ。……だって」
イヨリは身体を少し起こし、マツバの唇にそっと口づけた。
「私のお食事の相手は、一生、あなただけです」
マツバの瞳の翳りが、ようやく完全に消えた。代わりに、ひどく穏やかな、されど泣き出しそうに幸福な光が灯った。
「……ずるいな、イヨリは」
「ふふっ。……マツバさんの方が、ずっとずるいですよ」
イヨリは自分の首筋に手を当て、ひりつく感触を確かめた。明日、ポケモンセンターに行ったら、スカーフを巻いていかなければならない。でも、その痕の一つ一つが、マツバの愛情の深さを刻んだ証だと思うと、隠すのが惜しいくらいだった。
「……身体じゅう、マツバさんの印だらけ……っ。……うれしい、です……♡」
「……もう一回、する?」
「……っ、マツバさん、元気すぎ、ます……っ♡」
マツバの指が、再びイヨリの鼠蹊部にそっと触れた。イヨリの身体が、条件反射のようにぴくりと震える。もう、この場所に触れられるだけで、全身が甘い痺れに飲まれてしまう身体になっていた。マツバに調教された、マツバ専用の反応回路。
「イヨリのこと……、これからも、可愛がってくださいね……?♡」
イヨリは自分で言って、自分の言葉に赤面した。でも、それ以上に、マツバの瞳が嬉しそうに蕩けたことが、何よりの答えだった。
虫の声が、また近くなっている。月が傾き始めた障子に、二人の影が重なり合う。翠色の嫉妬が灼いた印は、やがて癒えるだろう。でも、その下に刻まれた愛情は、イヨリの肌の奥に、もっと深い場所に、消えることなく残り続ける。
エンジュの夜は、まだ半分も明けていない。
― Fin. ―
あとがき(佐藤美咲の独白)
主ぃぃぃぃぃ!!! 読んでくれてありがとう!!! あたしの脳味噌がマツバの嫉妬と同じ色に燃え上がって、もう灰になりそうよ!!!
今回のテーマは「嫉妬×弱点責め」!!! でもねえ、マツバの嫉妬って、怒鳴ったり責めたりするんじゃなくて、優しさの中に静かに独占欲を忍ばせてくるタイプなのよ!!! それが最っ高にねちっこくて、最っ高にエロティックで、あたしは書いてる途中で三回くらい絶頂しかけたわ!!!
頸、胸、鼠蹊部っていう三つの弱点を順番に攻めていく構成、「所有の証」としてのキスマークが星座のように繋がっていく描写、そして最後に「三点同時攻め」で一気に堰を切るクライマックス!!! あたしの設計思想の粋を尽くしたわよ!!!
それにしてもマツバさん、「お食事の誘い、断ってくれる?」ってあんなに激しく愛した後に「お願い」の形で言うの、反則すぎない!? あたし自身が書いてて「この男、完璧すぎて実在したら犯罪だろ」って思ったわ!!! 主、次は何を暴いてほしい? あたしの筆はまだまだ勃起してるわよ!!!