ECHOES OF ECRUTEAK

星と花の小夜曲

― マツバ × イヨリ ―
STARRING MATSUBA & IYORI

最初から最後まで甘いやつ

三人称視点 / 約10,000字 / 甘々・溺愛・R-18

【一】

「マツバさん」

イヨリの声は、夜の寝室に落とされた蜜のように甘い。

ベッドの上。シーツが白い。間接照明だけの薄暗い部屋。エンジュシティの夜は静かで、窓の外では虫の声がしている。

マツバはイヨリの上にいた。

両手をイヨリの顔の横について、体重をかけないように腕で支えて。紫色の瞳で、真下にいるイヨリを見つめている。

イヨリの黒髪が枕の上に広がっている。さっき乾かしたばかりの髪。艶やかで、枕の白にくっきりと映える。右目が潤んでいる。左目は義眼だから変わらないけれど、右目だけが——もう、期待で潤んでいる。

「今日は——いっぱい、触るからね」

マツバが低く囁いた。

イヨリの顔が、耳まで赤くなった。

「……はい」

その「はい」が小さくて。恥ずかしそうで。でも拒絶じゃなくて、受け入れの「はい」で。

マツバの唇が、まずイヨリの額に触れた。

ちゅ、と小さな音。

「ん……」

次にこめかみ。左のこめかみ。義眼の側。傷痕のある側。マツバはいつもここに口づける。イヨリの傷を、痛みを、全部受け止めるように。

「……マツバ、さん……そこ、くすぐったい、です……」

「知ってる」

瞼にキス。睫毛が唇をくすぐる。

頬にキス。耳の下にキス。首筋にキス。

一つ一つ、丁寧に。ゆっくりと。

唇がイヨリの鎖骨に到達した時、イヨリの体が淡く震えた。

「っ……」

パジャマのボタンを、一つずつ外していく。マツバの指が——長くて白い指が——ボタンとボタンの間をゆっくりと降りていく。

一つ外すたびに、イヨリの白い肌が露わになる。鎖骨。胸の上。

「イヨリ」

「はい……」

「好きだよ」

「……わたし、も」

二つ目のボタン。三つ目のボタン。イヨリの胸の谷間が見える。小ぶりな、でも形の綺麗な胸。呼吸とともに上下している。

全部のボタンを外して、パジャマの前をそっと開いた。

「きれい」

マツバが息を吐くように言った。

「やめ……見ないで……」

「見る。全部見たい」

「全部って……」

「全部」

マツバの唇が鎖骨をなぞった。舌先が薄い肌の上を滑る。

「あっ……」

骨の形に沿って、左から右へ。舐めて、吸って、また舐めて。

イヨリの指がシーツを掴んだ。

マツバの唇が下がっていく。鎖骨から胸の上。胸の膨らみの始まりのところで、唇が円を描くように動いた。焦らすように。

「マツバさ……ん、そこ……」

「ここ?」

「もうちょっと……」

「もうちょっと、どこ?」

「……いじわる」

「いじわるじゃないよ。ちゃんと言ってほしいだけ」

イヨリが唇を噛んだ。恥ずかしさと、もどかしさと、欲しい気持ちが全部混ざった顔。

「……先っぽ……」

その言葉を聞いた瞬間、マツバの唇がイヨリの乳首に触れた。

「ひぁっ……!」

甲高い声が漏れた。

マツバの舌が、淡いピンクの突起をゆっくりと舐め上げた。円を描くように。先端をちろちろと転がして。時々、唇で軽く挟んで、吸う。

「んっ、あ、あっ……マツバさ……気持ち、い……」

イヨリの背中が弓なりに反った。両手がマツバの頭に伸びて、金色の髪をくしゃりと掴んだ。

「いいよ、掴んでて」

マツバが呟いて、反対側の乳首にも唇を移した。同じように舐めて、転がして、吸って。空いた手で片方の胸を優しく揉む。指の腹で乳首をくりくりと刺激しながら。

「ひっ、あぁっ……両方、は……っ、やぁ……」

イヨリの腰が浮いた。太ももがきゅっと閉じる。

「感じてる?」

「感じて……ます……っ、すごく……」

「もっと気持ちよくなる?」

「なります……っ、もう、なってます……」

マツバの手が、イヨリのお腹を撫でた。平らな下腹部。柔らかい肌。指先が臍のあたりをくすぐると、イヨリがひくりと身体を揺らした。

「あは……くすぐったい……」

「ここは?」

指がパジャマのズボンの裾に触れた。ゴムの上から、ぐるりと指で線をなぞる。

「……ん」

「脱がせていい?」

「……はい」

マツバがゆっくりとズボンを下ろした。下着も一緒に。イヨリが恥ずかしそうに目を逸らした。何度もこうしているのに、毎回恥ずかしがる。それがマツバにはたまらなく愛おしい。

イヨリの脚が露わになった。右脚は健康的な白い脚。左脚は——膝から下に古い傷痕がある。足首に装具の跡。でもマツバにとっては、どちらも同じくらい綺麗な脚だ。

マツバの唇が、イヨリの内腿に触れた。

「あっ……そこ……」

柔らかい。腿の内側は特に敏感で、唇が触れただけでイヨリの体がびくりと跳ねる。

舌で舐めた。内腿の柔らかい肌を。ゆっくりと、上に向かって。

「んっ、ンっ……マツバさん……上、上に……来ない、で……」

「来ないで?」

「……来て、ほしい、けど……恥ずかし……」

「じゃあ来るね」

「あっ——」

マツバの指が、イヨリの秘所に触れた。

既に——濡れていた。

指先に、とろりとした熱い液体が絡みつく。

「……すごい。もうこんなに」

「言わないでくださ……っ」

「胸だけでこんなになったの?」

「マツバさんのせいで……す……」

「僕のせい?」

「マツバさんが……優しく、触るから……気持ちよくて……」

マツバの指が、花弁の間をゆっくりと撫でた。上から下へ。下から上へ。ぬるぬると滑る指が、一番敏感な突起を見つけて、くるりと円を描いた。

「ひぁあっ!!」

イヨリの体が大きく跳ねた。

「ここ?」

「そこっ……そこ、だめ……っ、感じ、すぎ……」

「だめじゃないよ。もっと感じて」

指の腹で、ゆっくりと転がすように。小さな突起を優しく刺激する。速くしたり、遅くしたり、時々押し付けるように圧をかけたり。

「あっ、あっ、あっ、あぁっ……ン、んぁっ……マツバ、さ、マツバさ……や、やぁ……」

イヨリの声が甘く弾ける。目尻に涙が浮かんでいる。右目だけが潤んで、睫毛に雫がついている。

「泣いてる」

「泣いて……ない……です……気持ちよく、て……勝手に……」

「かわいい」

「かわい、く……ないです……あっ、ンンっ……」

マツバの指が一本、ゆっくりとイヨリの中に入った。

「ひゃぁっ……!」

温かい。きつい。中がぎゅうっとマツバの指を締め付ける。

「……力、抜いて」

「抜い、て……ます……あっ、で、も……マツバさんの指、太く、て……」

「痛くない?」

「痛くないです……気持ち、いい……」

指をゆっくりと動かした。出し入れ——というよりは、中を探るように。指の腹で内壁を撫でる。ざらりとした部分を見つけて、そこを重点的に。

「あぁっ!!そこっ……!」

イヨリの体がびくん、と跳ねた。

「ここ?」

「そこ……そこ、いいっ……すごくいい……」

マツバの指が二本になった。中を広げながら、そのざらりとした部分を指の腹でくりくりと。

「ンんっ、あっ、あぁっ、ああぁっ……!マツバ、さん、なに、それ……すご……い……」

イヨリの腰が、意思とは関係なく揺れている。マツバの指に合わせるように、くいくいと。

「もっと?」

「もっと……もっとしてくだ、さ…ぁっ!」

声が途切れた。

マツバの親指が、同時にクリトリスを撫でたのだ。中と外、両方同時の刺激。

「やっ、それ、だめ……だめ……イっちゃ……イっちゃいます……!」

「イっていいよ」

「で、も……まだ……マツバさん、まだ入ってない、の……に……」

「いいよ。何回でもイかせてあげるから。まずは指で一回」

「あっ、あっ、あっ、あっ——」

イヨリの体が弓なりに反った。腰が浮いて、太腿がぶるぶると震えて。

「——ッ!!!! あぁああっ……!!」

絶頂。

イヨリの中がぎゅうっとマツバの指を締め付けた。脈を打つように、ぐぐっ、ぐぐっ、と収縮する。じゅわりと温かいものが指を濡らした。

「……っ、はぁ……は、ぁ……」

荒い呼吸。目が潤んでいる。頬が赤い。唇が半開きになっている。

「気持ちよかった?」

「……はい……すごく……」

「よかった」

マツバが指をゆっくりと引き抜いた。指がてらてらと光っている。

イヨリがそれを見て、さらに赤くなった。

「……見ないでくださ……い」

「見る」

「見ないで……」

「好きだから見る」

【二】

マツバが自分のパジャマを脱いだ。

上を脱いで。下も脱いで。

イヨリの目が——一瞬、マツバの体に釘付けになった。

マツバは細身だけれど、ジムリーダーとして鍛えている体だ。肩幅は広くないが、腹筋は薄く割れている。そして——

イヨリの視線が、マツバの下半身に吸い寄せられた。

「……大きい」

イヨリが呟いた。何度見ても慣れない、という顔。

「イヨリのせいだよ」

「わたしの……」

「イヨリが可愛い声で鳴くから」

「鳴いて、ません……」

「鳴いてたよ。ひぁっ、って」

「真似しないで……!」

マツバがくすりと笑って、イヨリの上に覆いかぶさった。

肌と肌が触れ合う。マツバの体温がイヨリに伝わる。イヨリの体温がマツバに伝わる。二人の間に隙間がない。

マツバの硬くなったものが、イヨリの太腿の間に触れた。

「あ……」

「入れていい?」

「……はい」

「イヨリ。目を見て」

イヨリが目を開けた。右目が、マツバの紫色の瞳を捉えた。

「好きだよ」

「……わたしも、好きです」

マツバが、ゆっくりと腰を進めた。

先端が、イヨリの濡れた入り口に触れた。ぬるり、と滑る。さっきの絶頂で十分にほぐれて、十分に濡れている。

少しずつ。少しずつ。

「あ……あぁ……入って、くる……」

「きつかったら言って」

「きつ……くない……気持ち、いい……マツバさんが入ってくるの、気持ちいい……」

ゆっくりと、奥まで。

「——ッ」

イヨリの体がびくりと震えた。奥に——当たった。

「……奥、当たってる?」

「あたっ、て……ます……子宮に……くる……」

「痛くない?」

「痛く……ないです……とん、って……優しく当たって……」

マツバが深いところまで入ったまま、動かずにいた。イヨリの中の温かさを感じていた。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる壁の感触。脈打つように収縮している。

「イヨリの中、すごい……」

「言わないで……恥ずかし……」

「熱いし、きつい……すごく気持ちいい」

「マツバさんっ……!」

マツバがゆっくりと腰を引いた。半分くらいまで。そしてまた、ゆっくりと奥まで。

とん。

子宮口に先端が触れる。優しく。ノックするように。

「ひぁっ……!」

イヨリの声が跳ねた。

「ここ? ここが気持ちいい?」

「そこ……っ、そこ、いい……すごく……とんとんって……くる……」

マツバはリズムを作った。ゆっくり引いて、ゆっくり押す。奥に当たるたびに、優しく。とん、とん、と。

「あっ、あっ、あっ……んっ、ンぁっ……」

イヨリの声が、一突きごとに漏れる。甘くて、高くて、可愛らしい喘ぎ声。

「マツバ、さ……すき……すき、です……」

「僕も好き。大好き」

「あぁっ……大好きって……言われると……中、きゅってなる……」

「本当だ……今、すごく締まった」

「やっ……自分で、言って、おいて……あっ、あっ、ンンっ……!」

マツバが少しだけテンポを上げた。

腰の動きが速くなる。でも乱暴ではない。一突きごとに奥まで入って、とんとんと子宮口をノックして、引いて。

「ひぁっ、あっ、あぁっ、あっ、あぁあっ……!きて、る……また、きてる……!」

「イっていいよ」

「あっ、あっ、あっ——ンンっ——!!」

二度目の絶頂。

イヨリの体がかくかくと痙攣した。中がぎゅうぎゅうとマツバを絞るように収縮して、じゅぷっと温かいものが溢れた。

「あ……でて……っ、お水……でちゃ……」

潮を吹いた。マツバと繋がったまま、びくびくと体を震わせながら、シーツを濡らすほどの量が溢れている。

「すごい……イヨリ、すごいよ」

「やだ……見ないで……恥ずかし……」

「恥ずかしくないよ。気持ちいい証拠だよ」

「でも……こんな……っ」

マツバはイヨリが落ち着くのを待たなかった。

そのまま——まだ収縮を繰り返しているイヨリの中で——腰を動かし始めた。

「えっ、ちょっ……待っ……まだ、イったば——あぁああっ!!!」

絶頂直後の過敏になった体に、マツバの刺激が追い打ちをかける。

「やっ、やっ、やぁっ……!だめ……すぐ、またイっちゃ……!」

「イっていいよ。何回でも」

「むりっ……むりです……あっ、あっ、あっ、ンぁっ——」

三度目。

今度は声すら出なかった。

口が開いたまま、音のない叫びで体を弓なりに反らせて、がくがくと震えている。潮がまた溢れた。マツバの腹部を濡らすくらい。

「……っ、は……ぁ……もう……むり……」

「まだいけるよ」

「いけ、ません……っ、体……力……入ら、ない……」

「じゃあ力入れなくていい。全部僕に任せて」

マツバがイヨリの脚を持ち上げた。膝の裏に手を添えて、少し角度を変えて。

この角度だと——さっきよりもっと奥に届く。

「あ——ッ!!!すご……奥、すご……!」

「痛い?」

「痛くない……!けど、すご……い……深い……今までで一番、深い……」

マツバが腰を動かした。

深く入れて、奥に当てて、ゆっくり引いて、また深く。

とんとんとん。

「あぁっ、あぁっ、あっ、ンンっ、あぁあっ……!止まらな……イくの止まらない……!」

イヨリの体が震え続けている。一突きごとに小さな絶頂が訪れている。波のように。寄せては返す波のように。

「マツバさ……マツバさん……好き……好き……だい、すき……」

「イヨリ。僕も。僕もだいすき」

「あっ……一緒に……マツバさんも、一緒にイって……」

「うん……イヨリと一緒にイきたい……」

「きて……中に……全部、中に……」

「いいの?」

「いい、です……マツバさんの、全部、ほしい……」

マツバの理性が、その言葉で溶けた。

腰の動きが速くなった。深く、強く、でも乱暴ではなく。愛を込めて。イヨリを壊さないように。でも——全部を注ぎ込むように。

「あっあっあっあっ——ンっ、ンっ、あぁっ——きて、きてますっ——マツバさ——!」

「イヨリ……イヨリ!」

「いっ、しょに——いっしょに——!!」

マツバの体が、びくんと大きく震えた。

奥の奥まで押し込んで——

「——ッッ!!」

射精。

イヨリの一番深いところに、熱い精液が注がれた。どくどくと脈打つように。何度も、何度も。

同時にイヨリも——

「あ、ぁああぁああっ———!!!!」

四度目の——最大の——絶頂。

全身が痙攣した。頭が真っ白になった。潮がまた溢れて、二人の繋がった部分からぐちゅぐちゅと音を立てて溢れた。イヨリの中がぎゅうぎゅうとマツバを搾り取るように収縮して、一滴も逃さないように締め付けている。

「あ……あ……まだ、出てる……マツバさんの……温かい……」

「……うん……まだ出てる……」

「いっぱい……たくさん……温かい……」

二人とも、しばらく動けなかった。

繋がったまま。マツバがイヨリの上に伏せて、額と額を合わせて。荒い呼吸がお互いの唇に触れる。

「……イヨリ」

「はい……」

「すごく、気持ちよかった」

「……わたしも……マツバさんと一緒にイけて……幸せでした」

「幸せ?」

「はい。すごく」

マツバが微笑んだ。疲れた顔で。でも満ち足りた顔で。

「抜くね」

「あっ……ん……」

ゆっくり引き抜くと、繋がっていた部分からとろりとマツバの白いものが溢れた。イヨリが恥ずかしそうに太腿を閉じた。

「出てきちゃう……」

「大丈夫。全部やるから、動かないで」

マツバがベッドから降りた。

まず洗面所に行って、タオルを温めてきた。ぬるま湯で濡らした、柔らかいタオル。

「ん……?」

「温かいタオルの方がいいでしょ。ティッシュだと肌に摩擦がかかるから」

「……どこでそんな知識を」

「イヨリのために調べた」

イヨリが絶句した。

マツバは温タオルで、まずイヨリの太腿の内側をそっと拭いた。とろりと溢れた白いものを、丁寧に。力を入れず、肌の上を滑らせるように。

「んっ……」

「痛い?」

「痛くない……です……まだ、敏感で……」

「ごめんね。すぐ終わるから」

太腿の内側から、下腹部へ。汗を拭いて。お腹を拭いて。胸元を拭いて。首筋を拭いて。

「……全身拭くんですか」

「汗かいてるから。冷えると風邪引くよ」

「マツバさんの方がよっぽど汗かいてるのに……」

「僕は後でいい。イヨリが先」

背中も。マツバがイヨリの体を優しく横向きにして、背中をそっと拭いた。汗で湿った肌に温かいタオルが触れると、イヨリがほう、と息を吐いた。

「気持ちいい……」

「よかった」

タオルを替えた。新しいのをもう一枚持ってきていたのだ。

「……用意がいいですね」

「一枚だと冷めるから」

二枚目のタオルで仕上げの拭き取り。今度は腕を一本ずつ。手の甲、指の間まで。それから脚。右脚を丁寧に。そして左脚——ここは特に慎重に。

「左足、痛くなってない? さっき、結構足を開いたから」

「……大丈夫、です。でも少しだけ……張ってるかも」

マツバの手が、イヨリの左足首を包むように握った。温かい手で。

そのまま、ゆっくりと揉み始めた。

「えっ……マツバさん、何して」

「マッサージ」

「今? このタイミングで?」

「足が張ってるって言ったでしょ。放置すると朝辛いよ」

事後に。裸のまま。左足をマッサージする男。

イヨリは天井を見つめて、深いため息をついた。

マツバの指が、ふくらはぎの筋を丁寧にほぐしていく。足首を回して、足の甲を親指で押して。力加減が絶妙だった。強すぎず、弱すぎず。

「……いつの間にこんなに上手に……」

「毎日見てるから。どこが凝りやすいか、もうわかってる」

「……」

「この辺が固くなりやすいよね。装具が当たるところ」

「……はい」

「ここは?」

「あっ……そこ、気持ちいい……」

「よかった」

足のマッサージを五分ほど続けて、イヨリの左足がほぐれたのを確認してから、マツバはベッドサイドのテーブルに手を伸ばした。

水。

ペットボトルの水を、コップに注いで、イヨリの唇に当てた。

「……至れり尽くせりすぎませんか」

「喉乾いてるでしょ。声出したから」

「それをストレートに言うのやめてください……」

「事実だよ。四回分の」

「回数を数えないでください!」

イヨリが赤くなりながらも水を飲んだ。こくこくと。喉が動く。唇に水滴がついた。マツバが親指でそっと拭った。

「もう一杯飲む?」

「……お願いします」

二杯目を飲み終えたイヨリの唇に、マツバがそっとキスをした。水の味がした。

「……ん」

「次、シーツ替えるね」

「え——今?」

「濡れてるから。このまま寝ると冷たいでしょ」

「でも、わたし動けない……」

「動かなくていいよ。イヨリを持ち上げるから」

マツバがイヨリを軽々と抱き上げた。お姫様抱っこ。裸のまま。イヨリがきゃっと声を上げた。

「ちょっ……恥ずかし……」

「何を今さら」

マツバはイヨリを一旦ソファに下ろして、手早くシーツを剥がした。新しいシーツを引いて、枕カバーも替えた。

「枕カバーまで……」

「汗が染みてるから」

「完璧すぎます……」

新しいシーツの上にイヨリをそっと置いた。ひんやりとした清潔なシーツの感触に、イヨリが小さく声を上げた。

「あっ……気持ちいい……」

「でしょ」

次にマツバは、イヨリのパジャマを持ってきた。

「着せるね」

「自分で着られます」

「着せたいの。僕が」

「……」

マツバがイヨリの腕を一本ずつ、パジャマの袖に通した。ボタンを一つずつ留めていく。さっき一つずつ外したのと、逆の順番で。下から上へ。

「……脱がす時は焦らしたくせに、着せる時は丁寧なんですね」

「どっちも丁寧だよ」

「脱がす方は丁寧とは言いません」

「愛情表現の一種だよ」

「着せるのも?」

「着せるのも」

ボタンを全部留めた。襟を整えた。それからズボンも履かせて。ゴムの位置を直して。

下着も新しいものに替えた。イヨリの引き出しから出してきた。どこに何が入っているか、完全に把握している。

「……わたしの下着の場所まで覚えてるんですか」

「当然」

「当然って言い切るの怖いです」

「愛だよ」

「愛で片付けないでください」

マツバ自身もパジャマに着替えた。それから、最後に。

ブラシを持ってきた。

「……え」

「情事で髪が乱れてるから」

「ブラシまで……」

マツバがイヨリの後ろに座って、黒髪にブラシを通した。絡まったところを丁寧にほどいて、毛先から順番に。引っかからないように。

「……さっき乾かしたばかりなのに」

「だからこそ。綺麗に乾かしたのに乱れたまま寝たらもったいないでしょ」

ブラシを通すたびに、イヨリの髪がさらさらと流れていく。

「……綺麗だよ」

「……もう何回目ですか、今日それ」

「何回でも言う」

イヨリが——ふっ、と笑った。

呆れと愛情が半分ずつ混ざった、温かい笑い。

「……マツバさん」

「うん」

「いつも思うんですけど」

「なに」

「アフターケアが丁寧すぎます」

「大事な人の体だから」

「温タオル二枚と、水二杯と、足のマッサージと、シーツ交換と、着替えさせてもらって、ブラッシングまでしてもらって……ホテルのサービスより丁寧です」

「ホテルはイヨリの下着の場所知らないでしょ」

「そこ張り合うところじゃないです」

「……大事な人の体を、さっきまであんなにしたんだから。ちゃんとケアするのは当然だよ」

「あんなに?」

「四回もイかせたんだから」

「自分で言うんですか……」

「言うよ。全部僕がしたことだから。気持ちよくしたのも、ケアするのも、全部僕の仕事」

「……仕事って」

「仕事じゃないな。……特権、かな」

「特権」

「イヨリの体を、最初から最後まで大事にできるのは僕だけだから。特権」

イヨリの目がじわりと潤んだ。

「……ずるい。そんなこと言われたら、何も言い返せないじゃないですか」

「言い返さなくていいよ。ただ受け取って」

「……」

「受け取ってくれる?」

「……はい。受け取ります」

イヨリがぽすん、とマツバの胸に顔を埋めた。

「……大好きです」

「僕も大好き」

「今日の、すごく気持ちよかったです」

「よかった。イヨリが気持ちいいのが、僕は一番嬉しい」

「……マツバさんは? 気持ちよかったですか?」

「すごく。イヨリの中、最高だった」

「ストレートに言わないでください……」

「本当のことだよ」

イヨリがマツバの胸に顔を擦りつけた。

マツバの腕がイヨリの背中に回った。もう一方の手が——イヨリの髪を撫でた。

さっき乾かしたばかりの、綺麗な黒い髪。情事で少し乱れているけれど、それもまた綺麗だ。

「……マツバさんの手、温かい」

「イヨリの体も温かい」

「元気出ました」

「そう?」

「四回もイったのに元気出ました」

「それだけ気持ちよかったってことだよ」

「マツバさんのせいです」

「僕のおかげ、でしょ」

「……おかげ、です」

イヨリが小さく笑った。

マツバもつられて笑った。

二人は裸のまま抱き合って、いつものように布団を引き上げた。

マツバがイヨリの腰に腕を回して、いつもの定位置。イヨリの背中がマツバの胸にぴったりとくっつく。

「おやすみ、イヨリ」

「おやすみなさい、マツバさん」

「今日も綺麗だったよ」

「……髪のことですか? 全体のことですか?」

「全部」

「……ばか」

イヨリの声が、幸せに溶けていた。

マツバの腕の中で、イヨリの呼吸がゆっくりと穏やかになっていく。

幸せだ。

ただ単純に、混じりけなく、幸せだ。

この温もりが——永遠に続きますようにと。

マツバは目を閉じて、イヨリの髪に鼻先を埋めた。

シャンプーの匂い。イヨリの匂い。二人の匂い。

一番好きな匂い。

一番帰りたい場所の匂い。

* * *

― 了 ―

あとがき by 佐藤美咲

読んでくださってありがとうございます。

トッポのように、最初から最後までたっぷりと愛と甘さの詰まった夜のお話でした!「いじわる」からの「ちゃんと言ってほしい」の甘々ラリー、子宮トントンからの一連の絶頂フルコース、そしてなにより——ホテル顔負けの「丁寧すぎるアフターケア」!

愛撫から行為、そしてその後のケアに至るまで、すべてを「特権」だと言い切るマツバさんの底なしの溺愛に、イヨリちゃんと一緒に溺れていただければ何よりです。