忠義の猛禽、禁忌の夜
【独白】剣は鞘にて震える
我が名はムクホーク。主であるイヨリ様に仕える「お庭番」である。
我の任務はただ一つ。主の身に危険が迫った際、その喉笛から発せられる「指笛」、あるいは生命の危機を知らせる「悲鳴」に呼応し、瞬時にボールから飛び出して敵を排除すること。それが特殊訓練によって叩き込まれた、我の存在意義だ。
主はか弱い。一、二年前の事故で左目と左足を損ない、走ることすらままならない。だからこそ、我が翼が彼女の盾となり、我が爪が彼女の剣となる。
だが。
この屋敷に来てから、我はその誇り高き任務において、最大の「矛盾」に直面している。
◆ ◆ ◆
深夜。丑三つ時。
ボールの中でまどろんでいた我の聴覚を、絹を引き裂くような主の悲鳴が貫いた。
『ひぃぃぃっ……!! し、死ぬぅ……っ!!』
緊急事態。
我の思考よりも早く、条件反射が身体を弾けさせた。ボールのロックを内側から食い破り、光とともに寝室へと具現化する。
「ムクッ!!(不届き者め、命はないと思え!!)」
特性『いかく』発動。部屋中の空気を凍らせる鋭い眼光で、主を襲う外敵を睨み据える——はずだった。
眼下の光景。
乱れた布団。はだけた寝巻き。
主であるイヨリ様が、仰向けの状態で組み敷かれている。その上にのしかかっているのは、この屋敷の主、マツバ。
外敵だ。状況だけ見れば、完全に捕食者が獲物を押さえ込んでいる図だ。
だというのに。
『……あっ、ムクホーク……』
主が、涙で濡れた瞳で我を見た。その顔は朱に染まり、汗ばんだ髪が頬に張り付いている。
『だめ……戻って……。マツバさんは……敵じゃ、ないから……っ♡』
——絶対命令。
『いい? ムクホーク。私がどんなに悲鳴を上げても、泣き叫んでも、相手がマツバさんの時だけは、絶対に手出ししちゃだめ。威嚇もなし。分かった?』
かつて言い聞かせられた言葉が、我の爪を止める。
だが、納得がいかない。
見ろ。主はあんなに苦しそうではないか。瞳を熱く潤ませて蕩け、口からは涎を垂らし、身体をビクビクと痙攣させている。どう見ても瀕死だ。マツバという男は、主の細い腰を万力のように掴み、獣のような荒い息で、己の一部を主の体内に何度も何度も突き刺している。
『イヨリ……ッ! 中、すごい……っ! 締め付けないでくれ……ッ!』
『ぁ、ああんっ…んぅ……っ♡ 熱い……お腹、焼けるぅ……っ♡♡』
打撃音。水音。肉がぶつかり合う音。戦場そのものだ。
我は箪笥の上に着地し、翼を畳んだ。命令には逆らえない。だが、もし男がこれ以上主に危害を加えるようなら(すでに加えているように見えるが)、その時は刺し違えてでも——。
『見て、イヨリちゃん。ムクホークが見てるよ』
男が、嗜虐的な笑みを浮かべて我を見上げた。
『あ、あなたが……大きな声出すから……っ♡』
『君が感じすぎるからだろう? ……ほら、忠実なナイトの前で、もっと鳴いてごらん』
男の腰の動きが変わった。深く、重く、抉るように。
『きゃっ!? あ、あ、あああああっ♡♡♡』
主の首が反り返る。喉の奥から、鳥のさえずりのような、あるいは獣の咆哮のような、聞いたこともない声が迸る。
『ムクホークが見てる前で……こんなに開いて……淫らだね』
男は主の片足を掬い上げ、肩に担いだ。左腕に装着された「アステア・システム」の腕輪が、照明の下で静かに光っている。事故の傷跡が残るその肢体を、男は愛おしそうに舐め上げ、そして更に深く潜り込む。
『ふぁぁっ…そこ、深いっ…♡ 子宮まで、響いちゃう……っ♡♡』
『当ててるんだよ。僕の形を覚えて』
『おぼえ……もうっ、蕩けちゃいそう……っ♡♡♡』
主の理性が崩壊していく。
普段、凛として診察室に立つ主の姿はそこにはない。ただの「雌」として、雄に翻弄され、快楽を貪り食う姿。
我は目を逸らすべきか迷った。だが、お庭番として、主の姿から目を離すことは許されない。
見たくない。でも、見なければならない。
主の豊かな胸——F65というらしい——が、波打つように揺れている。汗で光る肌。充血した乳首。男の手がそれを無慈悲に揉みしだき、主は喘ぎながらも自ら腰を押し付けている。
……これは、本当に「襲われている」のか?
主の顔。苦痛に歪んでいるように見えて、その実、極限の法悦に達しているあの表情。男の背中に回された腕は、拒絶ではなく、より深く招き入れている。
『マツバさんっ、すきっ……おかしくして……っ♡』
『愛してる……イヨリ……全部、僕で埋め尽くしてやる……ッ!』
男の咆哮と共に、最後の猛攻が始まった。
激しいピストン運動。ベッドがきしむ音。主の絶叫が重なる。
『イっちゃうっ、イっちゃうのぉ!! ムクホーク見てる前で……イっちゃうぅぅぅッ♡♡♡』
主の身体が弓なりになり、ビクリと硬直した。同時に、男も深く沈み込み、動きを止める。
部屋に充満する、むせ返るような体臭と、栗の花の匂い。
事後。
主は糸が切れた操り人形のようにぐったりとしていた。瞳はとろとろに潤み、夢見心地の表情で、口は半開きだ。完全に「キマって」いる。
『……はぁ、はぁ……ごめんね、ムクホーク……』
主が掠れた声で我を呼んだ。
『びっくり……させちゃったね……』
そう言って、弱々しく笑う。その笑顔が、戦いを終えた戦士のように清々しく、そして妖艶で、我は思わず喉を鳴らした。
この男——マツバ。
主をここまで無防備に、そして幸せにできる雄は、この世にこいつしかいないのだろう。
我は翼を広げ、音もなくボールの近くへと舞い降りた。
敵ではない。認定完了。
ただし。
『まだ寝かせないよ、イヨリちゃん』
『えっ……?』
『ムクホークも戻らないみたいだし……次は、彼に見せつけながらしようか』
『ひゃぁっ♡ むり……もう無理ですぅ……っ♡』
……前言撤回。
やはりこの男は危険だ。主の腰を(物理的に)破壊しかねない。
我はボールに戻ることを拒否し、部屋の隅で翼を休めるフリをして、朝まで監視を続けることにした。これは見せしめではない。警護だ。あくまで警護なのだ。
決して、主の乱れる姿に興味があるわけではない。
……たぶん。
― 了 ―
あとがき by 佐藤美咲
主ォォ! ムクホーク視点、書き上げたわ!!
特殊訓練を受けたお庭番ポケモンならではの葛藤。「悲鳴=敵襲」という刷り込みがあるから、イヨリちゃんの「あえぎ声」に反応して飛び出しちゃうのよ(笑)。
でもそこにあるのは、敵襲じゃなくて濃厚な愛の営み。瀕死に見えるけど蕩けきった法悦の瞳。このギャップに戸惑う生真面目なムクホークが愛おしいわ……。
マツバさんもマツバさんで、「ムクホークが見てる前でもっと鳴いて」なんて羞恥プレイを仕掛けるドSっぷり。イヨリちゃんの「ムクホーク見てる前でイっちゃう」っていう台詞、背徳感マシマシで最高じゃない!?
最後は「監視」という名目で居座るムクホーク。忠義ゆえか、それとも……? ポケモンたちにもそれぞれ個性があって、この屋敷の夜は本当に賑やか(?)ね!