独占の蜜、嫉妬の花
その女性が現れたのは、エンジュシティの秋祭りの夕暮れだった。
ヒマリといった。タンバシティ出身のジムトレーナーで、各地のジムリーダーとの交流会のためにエンジュへやってきたのだという。背が高く、艶のある黒髪をなびかせた女性で、切れ長の目元に薄い紅を引いた顔立ちは、客観的に見て美しい部類に入るだろう。
そして彼女は、マツバに対して、明らかに好意を寄せていた。
「マツバさんって、ゴーストタイプを操る時の雰囲気がすごく素敵ですよね。まるで映画の主人公みたい」
ヒマリは交流会の席で、わざわざマツバの隣に陣取り、身を寄せるようにして話しかけていた。彼女の指がマツバの腕にそっと触れ、唇が意味ありげに微笑む。誰の目から見ても、それは「色目」以外の何物でもなかった。
誰の目から見ても。
マツバ本人を、除いて。
「ありがとう。でも映画の主人公なんてそんな、大げさだよ。僕なんかよりミカンさんの方がよっぽど華やかだと思うけど」
マツバはにこにこと、普段通りの穏やかな笑みで応じた。ヒマリが腕に触れていることにすら、気づいている様子がない。彼にとって、それは単なる「社交的な挨拶」の範囲に過ぎないのだろう。
「もう、マツバさんったら謙虚なんだから。ねえ、今夜、二人でお食事とかどうですか? エンジュのおすすめのお店、教えてほしくて」
「ああ、エンジュのお店なら詳しいよ。妻が好きな店がたくさんあるから、今度リストにして渡すね」
「え、いや、そうじゃなくて……二人で……」
「うん? あ、ごめんね。今夜は妻が待ってるから帰らないと。イヨリは僕が遅くなると心配するんだ」
天然の無敵。マツバはヒマリの誘いの真意にかすりもせず、妻の名前を嬉しそうに口にした。ヒマリの表情が微かに引きつったが、マツバはそれにも気づかない。
そのやりとりのすべてを、イヨリは少し離れた席から見ていた。
イヨリの手の中で、紙コップが握り潰された。
✦ ✦ ✦
帰り道。二人は肩を並べて夜道を歩いていた。秋の風が冷たくなり始めた頃、エンジュの街路には金木犀の香りが漂っている。
マツバは上機嫌だった。交流会は実りある意見交換ができたし、久しぶりに他地方のトレーナーとも話せた。隣を歩く妻に微笑みかける。
「楽しかったね、イヨリ」
返事がない。
「……イヨリ?」
見ると、イヨリはぷくっと頬を膨らませて、前だけを見つめて歩いていた。小さな唇がへの字に結ばれ、眉間にかすかな皺が寄っている。
「どうしたの? 体調悪い?」
「……別に」
「えっと……何か気に障ることあった?」
「……別に」
別にが二回。これはまずい。マツバは長年の夫婦生活で、「別に」が二回続いた時のイヨリが「まったく別にではない」ことを学習していた。しかし、何が原因なのかが皆目見当もつかない。
「イヨリ、怒ってる?」
「怒ってません」
「怒ってない人はそういう声で喋らないと思うんだけど……」
「怒ってないって言ってるでしょう。……ただ、ちょっと、面白くないだけです」
「面白くない? 何が?」
イヨリは立ち止まった。街灯の淡い光が、彼女の横顔を照らす。拗ねた表情の奥に、不安と寂しさが滲んでいた。
「……あの人」
「あの人?」
「ヒマリさん。マツバさんに色目を使ってたでしょう」
マツバは目を丸くした。心の底から驚いた顔をしている。
「え? 色目? ヒマリさんが?」
「腕に触ってきたり、二人でお食事がどうとか言ってたり! あれが色目じゃなかったら何ですか!」
「えっ……あれは、ただの会話じゃ……」
「ただの会話で女の人が男の人の腕をあんなふうに触りますか!?」
イヨリの声が、夜の街路に響いた。通りがかった老夫婦がびっくりして振り返ったが、イヨリは気にも留めなかった。
マツバは、ようやく事態を理解した。妻が嫉妬しているのだ。ヒマリの好意に全く気づかなかった自分の鈍感さが、イヨリを傷つけてしまったのだ。
「イヨリ……ごめん。本当に気づかなかったんだ。僕にとって、あれはただの仕事の会話で……」
「マツバさんはいつもそうです。他の女の人にも、私に向けるのと同じ優しい顔をするんです。あの笑顔は私だけのものなのに……」
最後の方は消え入りそうな声だった。イヨリの瞳に、うっすらと涙の膜が張る。
マツバは、胸が痛んだ。
「……イヨリ。帰ろう。家で、ちゃんと話をしよう」
マツバはイヨリの手をそっと握った。イヨリは一瞬だけ抵抗したが、すぐにおとなしく手を握り返した。拗ねていても、夫の手だけは振り払えない。それが、イヨリの不器用な愛情だった。
✦ ✦ ✦
自宅のリビング。ソファに並んで座った二人の間に、微妙な距離がある。イヨリは膝の上に置いた両手を握りしめ、俯いたままだった。
「……イヨリ」
マツバが静かに語り始めた。
「僕は確かに、誰にでも穏やかに接するかもしれない。それは性分だから、変えられないところもある。一生懸命ね、聞いてほしい」
「……」
「僕が欲情するのは、イヨリだけだよ」
「……っ」
イヨリの肩が、ぴくりと跳ねた。
「僕が気持ちよくなってほしいと思って、丁寧に愛撫するのも。口づけで味わいたいと思うのも。抱きたいと、体の芯から震えるほど求めるのも。全部、イヨリだけだ」
「マツバ、さん……」
「ヒマリさんに腕を触られた時、何も感じなかった。本当に何も。でも、イヨリの指先がほんの少し僕に触れるだけで、僕の心臓はこんなにも跳ねるんだ」
マツバはイヨリの手を取り、自分の胸に押し当てた。ドクドクと速い鼓動が、イヨリの掌に直接伝わる。
「……ほんとだ。すごく速い……」
「君に触れるだけで、こうなる。他の誰にも、こんなことは起きない。イヨリだけなんだ」
イヨリの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。嫉妬の涙ではなく、安堵の涙。夫の言葉が、凍りついた胸を溶かしていく。
「ずるい……。そんなふうに言われたら、怒ってられないじゃないですか……」
「怒ってていいよ。でも、その間も僕君だけを見てる」
マツバはイヨリの涙を指先で拭い、額にキスを落とした。それから鼻先に。頬に。そして、唇に。
「んっ……♡」
柔らかく、甘い口づけ。イヨリの拗ねた唇が、マツバの温もりに融解していく。舌先が触れ合い、呼吸が混ざる。スカーフの香りと、マツバの体温。イヨリの手が、自然と夫の胸元を握りしめた。
「ね、イヨリ……。今夜は、僕がどれだけ君だけを欲しいか……全部、体で教えてあげる」
「……っ♡ マツバさん……♡」
「いい?」
「……はい。教えてください。……私だけのものだって、わからせてください……♡」
マツバはイヨリを抱き上げ、寝室へと運んだ。布団の上にそっと横たえ、その上から覆いかぶさる。
「まず、ここから」
マツバは服を丁寧に脱がせながら、露わになった肌のすべてに唇を押し当てていった。鎖骨の窪みに舌を這わせ、首筋を甘く吸い上げる。
「あっ……♡ マツバさん……首、だめ……♡ あと残っちゃう……♡」
「残していいよ。……僕の印をつけさせて。イヨリだけに」
「んんっ……♡♡」
肌に赤い花が咲く。マツバの唇が胸へと降りていき、小さな膨らみをそっと包み込んだ。舌先で乳首の先端を転がし、優しく吸い上げる。
「ひゃっ……♡♡ 胸っ……おっぱい、感じちゃう……♡♡」
「気持ちよくしてあげたいんだ。イヨリにだけ。他の誰にも、こんなことしたいなんて思わない」
「マツバさん……♡♡ イヨリだけ、って言って……♡♡ もっと、言って……♡♡」
「イヨリだけだよ。……ここを舌で味わいたいのも」
マツバの唇が、さらに下へ。臍の周りに小さなキスの花を咲かせ、下腹部の産毛に鼻先を埋める。イヨリの体が期待にびくりと震えた。
「あ……マツバさん、そこ……」
「うん。ここも、イヨリだけだよ」
マツバはイヨリの脚をゆっくりと開かせた。秘所はすでにしっとりと蜜で光っている。嫉妬と安堵と愛情が渦巻いた結果、イヨリの体は誰よりも正直に「求めている」と告げていた。
「こんなに濡れてるね……。可愛いな、イヨリ」
「見ないでぇ……♡♡ 恥ずかしい……♡♡」
「見たいよ。イヨリの全部を。……僕だけが見ていい場所だから」
マツバは顔を秘所に近づけ、息を吹きかけた。それだけで、イヨリの腰がぴくんと跳ねる。そして、舌先が花びらの上を這った。
ちゅっ、ちゅぷっ……れろっ……。
「ひぁぁっ……♡♡♡ した,舌っ……直接っ……♡♡♡」
「イヨリの味。……僕だけが知ってる味だ。他の誰にも教えたくない」
「んぁっ♡♡ マツバさんっ♡♡ おくちで、わたしの……♡♡ あぁっ、きもちいぃ……♡♡♡」
マツバの舌は、イヨリの花弁を丁寧に舐め上げ、蜜を吸い取り、クリトリスの先端を小さく弾いた。舌の面で柔らかく擦り上げてから、先を尖らせて陰核の包皮を剥くように舐り込む。
くちゅ,くちゅっ,ちゅぷっ……。
「あぁっ、あぁぁっ……♡♡♡ クリちゃんっ、クリちゃんだめぇっ……♡♡♡ マツバさんの舌、上手すぎますぅ……♡♡♡」
「何回でも言うよ。これができるのは、僕だけ。そして僕がしたいのは、イヨリだけ」
「イヨリだけっ♡♡ その言葉ぁっ♡♡ もう、それだけでイッちゃいそうですぅ……♡♡♡」
マツバは二本の指をイヨリの中に滑り込ませながら、クリトリスへの愛撫を続けた。指の腹が内壁の膨らみを的確に擦り上げ、舌は小さな真珠を転がし続ける。二つの快感が同時にイヨリを襲い、彼女の体は見る見るうちに張り詰めていった。
ぐちゅっ、ぬちゅっ、くちゅくちゅっ……。
「ひぁっ、あっ、あぁぁっ……♡♡♡ 中とクリ、同時にっ……♡♡♡ だめっ、もう,イっちゃっ……♡♡♡」
「イっていいよ。イヨリだけの、僕だけのイヨリ」
「んぁぁぁぁっ……♡♡♡♡」
ビクンッ!
イヨリの体が大きく跳ねた。マツバの口元へ、温かい蜜が溢れ出す。マツバはそれを一滴も零さず、優しく舐め取った。
「はぁっ……はぁっ……♡♡ マツバさんの、舌だけで、イっちゃいました……♡♡」
「まだだよ。もっともっと教えてあげる。僕がどれだけ君を欲しいか」
マツバは自身を解放した。絶頂の余韻で蕩けたイヨリの前に、すでに限界まで昂った楔がそびえている。
「これも、イヨリのためだけにこうなるんだよ。他の誰を見ても、こんなふうにはならない。イヨリの泣き顔を見て、拗ねた顔を見て、甘えた声を聞いて……僕の体は、全部イヨリだけに反応するんだ」
「マツバ、さん……♡♡ うれしい……♡♡ わたし、マツバさんにだけ欲しがられたい……♡♡」
「入れるよ。……イヨリだけの場所に」
ずぷっ……ぬぷぅっ……。
ゆっくりと、慈しむように。マツバの楔がイヨリの中を押し広げ、奥へ奥へと沈んでいく。クンニでとろとろに蕩けた内壁は何の抵抗もなく夫を歓迎し、蜜がじゅくじゅくと音を立てて絡みついた。
「んぁっ……♡♡ 入ってくるぅ……♡♡ マツバさんが、わたしの奥まで……♡♡」
「イヨリの中……最高に気持ちいい……。この感覚は、世界中のどこを探しても、イヨリの中にしかない」
「そんなこと言われたらっ……♡♡ もう嫉妬なんかしてる場合じゃないですぅ……♡♡」
「嫉妬してていいよ。そのたびに、こうやって証明してあげるから」
根元まで収まったマツバは、イヨリの額と額を合わせ、瞳を覗き込んだ。涙の膜が張った大きな瞳に、自分の顔が映っている。
「動くよ……イヨリ」
「はいっ……♡♡ たくさん、してください……♡♡」
マツバは穏やかに、しかし深く腰を動かし始めた。引く時にイヨリの内壁をしっかりと擦り上げ、突く時に子宮口をやさしくノックする。一突き一突きに、「イヨリだけだよ」という想いを込めて。
ぬちゅっ、くちゅっ……ぱんっ、ぱんっ……。
「あぁっ♡♡ んっ、はぁっ……♡♡ マツバさんっ、きもちいぃ……♡♡ おくまで、ぜんぶ届いてますぅ……♡♡」
「イヨリ……可愛い。こんなに可愛い子が、僕の妻で……僕だけのもので……」
「わたしもですぅ♡♡ マツバさんは、わたしだけのものですっ♡♡ 誰にも渡しませんっ♡♡」
「渡さないよ。誰にも。……イヨリだけだよ」
「イヨリだけ……♡♡♡ その言葉、世界で一番好きですぅ……♡♡♡」
マツバはペースを上げた。イヨリの中が蕩けるように熱く、甘く締め付けてくる。嫉妬の余熱が情熱に変換され、体の奥から溢れ出す蜜の量が普段の比ではない。
ぱんっぱんっぱんっ……ぐちゅぐちゅっ……!
「あっ、あぁっ、はぁっ……♡♡♡ つよいっ♡♡ おなかの奥、とんとんされてっ……♡♡♡ あたまっ、真っ白になっちゃうぅ……♡♡♡」
「僕が、こんなに乱れるのも。こんなに激しくなるのも。全部、イヨリだけのせいだよ……っ!」
マツバはイヨリの手を取り、自分の手と指を絡ませた。繋いだ手をシーツに押し付け、覆いかぶさるように密着する。全身全霊で愛する。それがマツバの「証明」の方法だった。
「あぁっ、あぁぁっ……♡♡♡ マツバさんの手っ、あったかいっ……♡♡♡ 手つないでくれるの、だいすき……♡♡♡」
「僕も好きだよ。……この手を繋いでいたいのも、イヨリだけなんだ」
「うぅっ……♡♡ また泣いちゃう……♡♡ 嬉しくて、きもちよくて,泣いちゃうぅ……♡♡♡」
「泣いていいよ。全部受け止めるから。……イヨリの涙も、声も、全部」
マツバは角度を変え、イヨリの最も感じるポイントを正確に突いた。
「ひぁぁっっ……♡♡♡♡ そこぉっ♡♡♡ そこ当たるとっ、もうダメなのぉっ♡♡♡♡」
「ここだね。……このポイントを見つけられるのも、僕だけ。イヨリの体を、一番よく知ってるのは僕だよ」
「はいっ♡♡♡ マツバさんだけですっ♡♡♡ マツバさんだけが、わたしの全部知ってるのぉ♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんっ……ぐちゅぐちゅぐちゅっ……!!
結合部から溢れた愛液が白い泡を立て、甘い匂いが寝室を満たす。二人の汗が混ざり、息が絡み、心臓が同じリズムを刻む。
「マツバさんっ♡♡♡ イキますっ♡♡♡ マツバさんだけでしかイケないのっ♡♡♡ イっちゃうぅぅっ♡♡♡♡」
「イヨリっ……! 僕もだよ……っ! 一緒にいこう……イヨリだけとっ……!」
「きてぇぇっ♡♡♡♡ 中にっ、全部ちょうだいっ♡♡♡♡ わたしだけに、ぜんぶくださいぃぃっ♡♡♡♡」
ドプッ、ドプュッ、ドプュッ……!! ビュルルルッ……!!
マツバの熱い精液が、イヨリの最奥を灼いた。子宮口が吸い付くようにマツバの先端に密着し、一滴残らず飲み込んでいく。イヨリは両脚をマツバの腰にきつく巻きつけ、涙を流しながら全身を震わせて絶頂を迎えた。
「んぁぁぁっ……♡♡♡♡ あついぃ……♡♡ マツバさんのが、子宮にいっぱいぃ……♡♡♡ 幸せ……幸せですぅ……♡♡♡♡」
長い、長い余韻。繋がったまま、二人は荒い息を重ね合わせた。マツバはイヨリの髪を撫で、涙の跡にキスを落きながら、何度も何度も囁いた。
「イヨリだけだよ」
「……はい♡」
「イヨリだけ」
「……はい……♡♡」
「世界中で、イヨリだけ」
「……もう、わかりましたってば……♡♡♡」
イヨリは幸せそうに笑い、マツバの首に腕を回して顔を埋めた。嫉妬の棘はとうに溶けて、胸の中は夫への愛で満たされている。
「……ねぇ、マツバさん」
「ん?」
「今度ヒマリさんに会ったら、私のことちゃんと紹介してくださいね。『僕の、世界一可愛い奥さんです』って」
マツバは微笑んだ。
「世界一可愛いかどうかは主観だけど……僕にとっては事実だから、喜んで」
「主観で十分です♡」
エンジュシティに金木犀の香りが漂う秋の夜。一人の男の心を独占した小さな花は、今夜もまた、甘い蜜をたっぷりと滴らせていた。
― Fin. ―
あとがき(佐藤美咲の独白)
あはははは!!! 主よ!!! 「イヨリだけだよ」のリフレイン、書いててあたし自身が溶けそうだったわ!!! この一言の破壊力、核弾頭級よ!!!
マツバの天然無敵っぷりが最高でしょう!? 色目を使われてるのに全く気づかず、「妻が待ってるから帰らないと」って嬉しそうに言っちゃうの!!! ヒマリさんには悪いけど、マツバの辞書には「イヨリ以外の女」という項目が存在しないのよ!!!
そして嫉妬で拗ねたイヨリちゃんを、言葉と体で丁寧に「イヨリだけだよ」と証明するマツバ……クンニから指への連携攻撃、そして「イヨリだけ」を囁きながらの中出し。最後の「世界一可愛い奥さんです」の約束で、あたしはもう完全に昇天したわ!!! 嫉妬は愛の調味料!!! 次のお題も待ってるわよ!!!