ECHOES OF ECRUTEAK

星と花の小夜曲

― マツバ × イヨリ ―
STARRING MATSUBA & IYORI

イタコ衆の忠言、夜の反省文

【前編】奥方を労ってやりなされ

エンジュジムの昼下がりは、穏やかだ。

古い木造建築の中を、線香の煙が薄く漂い、畳の匂いと混じり合って、どこか懐かしい空気を醸し出す。午前中の挑戦者対応を終えた今、道場の一角に並ぶ年配のジムトレーナーたちが各々の鍛錬に励んでいた。

エンジュジムのジムトレーナーは、他のジムとは少し毛色が違う。若い衆もいるにはいるが、古参の面々は「イタコ衆」と通称される高齢の霊媒師たちで、最年長のキヨばあは齢八十を超えてなお、ゲンガーとの意思疎通において誰よりも深い境地に達していた。

彼女たちは、マツバの師匠筋にあたる。一、二年前の不慮の事故で心身に傷を負ったイヨリを、マツバが連れ帰った当初から、彼女の回復を厳しくも温かく見守ってきたのも、この婆さまたちである。ジムリーダーとなった今も、マツバにとってイタコ衆は頭の上がらない存在だった。

「マツバ坊、お茶が入ったよ」

道場の端で書類に目を通していたマツバが顔を上げると、キヨばあが急須を手に立っていた。「坊」と呼ばれるのはもう三十年来のことだ。ジムリーダーであろうが、結婚しようが、この婆さまたちにとってマツバは永遠に「坊」なのである。

「ありがとうございます、キヨさん」

「それにしても、今日は機嫌がよさそうだねえ」

キヨばあの隣に座ったタエが、にやりと口角を上げた。七十代後半のこの女性は、イタコ衆きっての観察眼を持ち、人の感情を読む精度はマツバの千里眼に匹敵するとすら言われていた。

「そうですか? いつも通りですよ」

「いつも通り、ねえ。そのいつも通りがここ最近、随分と甘い色をしているんだよ、坊の目は」

マツバは湯呑みに口をつけた。否定はしなかった。できるわけがない。昨夜、イヨリの寝顔を見つめながら眠りに落ちた余韻が、まだ彼の瞳の奥で蕩けているのだから。

その時。

ジムの正面入口から、軽い足音が聞こえた。コツ、コツ、コツ。規則正しいが、どこかぎこちないリズム。アステア・システムの微かな駆動音。マツバの顔が、反射的にそちらに向いた。パブロフの犬よりも早い反応だった。

「マツバさん、お昼ですよ」

イヨリが、風呂敷包みを抱えて立っていた。白衣のまま。往診の帰りだろう。左手首に巻かれた腕輪型の補助デバイス「アステア・システム」から微かな電子音が漏れ、左目と左足の自由を補っている。黒髪を一つにまとめた清楚な佇まいに、秋の木漏れ日が柔らかく降り注いでいる。

マツバの表情が、電気のスイッチを入れたように明るくなった。三十過ぎの男の顔に浮かぶ、純度百パーセントの少年のような笑顔。この瞬間だけは、ジムリーダーの威厳も、千里眼の神秘性も、全て吹き飛んで「妻が好きで好きでたまらない男」だけが残る。

「イヨリちゃん! わざわざ届けに来てくれたの? 今日は往診が多い日じゃなかった?」

「はい、でも最後の往診先がジムの近くだったので。今朝、お弁当を作ったんです」

イヨリが風呂敷を開くと、二段重ねの弁当箱が現れた。蓋を取ると、色とりどりのおかずが几帳面に詰められている。卵焼き、煮しめ、鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたし。マツバの好物ばかりだ。彩りも美しく、医師らしい栄養バランスへの配慮が隅々まで行き届いている。

「……イヨリちゃん」

「はい?」

「結婚してくれてありがとう」

「えっ、お弁当一つでそんな大きな感謝を……」

「お弁当一つの話じゃないよ。君が僕のことを考えて作ってくれたっていう、その事実が嬉しいんだ」

マツバが満面の笑みで弁当箱を受け取る姿を、イタコ衆の面々は遠巻きに眺めていた。キヨばあが目を細め、タエが腕を組み、ミツばあが含み笑いを漏らしている。

「さて、お茶をもう一杯もらってから戻りますね」

イヨリが座卓に向かって歩き出した。その時だった。

イタコ衆の目が、同時に動いた。

イヨリの歩き方。いつも左足を庇うぎこちなさはアステア・システムによるものだが、今日の彼女の歩行には、それとは別のぎこちなさが加わっていた。左足ではなく、腰だ。骨盤の辺りを微かに庇うように、歩幅を小さくしている。普通の人間なら気づかないような、ほんの僅かな違い。だが、何十年もゴーストと人間の極微な変化を読み続けてきたイタコ衆の目は、それを見逃さなかった。

キヨばあが、マツバに視線を移した。

マツバは弁当箱を前に幸せそうに微笑んでいる。その顔の満足感の種類を、キヨばあは正確に読み取った。食事の満足ではない。もっと深い、もっと原初的な——

「ああ」

キヨばあが、静かに溜息をついた。

イヨリが座卓までたどり着き、椅子に腰を下ろした瞬間、彼女は微かに顔をしかめた。ほんの一瞬。しかし、それは——

「尻が痛いんだね」

タエが、ぼそりと呟いた。隣のミツばあが「ぶふっ」と茶を噴きそうになった。

イヨリの顔が、見る見るうちに真っ赤に染まった。

「え、あの、その……これは、その……」

「いいんだよ、奥方。あたしらは何十年も生きてきた婆さんだ。見れば分かるさ」

キヨばあが穏やかに微笑んだ。その微笑みの中に、慈愛と呆れが半分ずつ混ざっている。

マツバの箸が、ピタリと止まった。

卵焼きを口に運ぶ直前で凍結した彼の顔は、ジムリーダーとしての威厳を完全に喪失していた。目が泳いでいる。耳が赤い。額にじわりと汗が浮かんでいる。

「マツバ坊」

キヨばあの声が、道場に静かに響いた。

「は、はい」

「こっちにおいで」

マツバは観念したように湯呑みを置き、正座のままキヨばあの前に進んだ。その姿は、三十過ぎのジムリーダーではなく、悪戯を見つかった五歳児そのものだった。

「分かっとるかね、坊。奥方の左足と左目には、一、二年前の事故の後遺症が残っておる。本人が開発に関わったアステア・システムとかいう機械で不自由なく動けるようにはなったが、それは万全ということではない。骨盤周りに余計な負荷をかけたら、腰に響くんだよ」

「……はい」

「奥方が愛らしいのは分かる。あの器量よしで、料理上手で、心根の優しい女御がお前の嫁に来てくれたのは、まこと天の恵みだ。それは、あたしらも認めとるよ」

「……はい」

「だがね、坊」

キヨばあの声が、一段低くなった。

「手加減してやれ」

道場が、静寂に包まれた。

マツバの顔は、もはやトマトよりも赤かった。耳の先端から首筋まで、均一に紅潮している。イヨリに至っては両手で顔を覆い、座卓に突っ伏してぷるぷると震えていた。

タエが腕を組み、厳かに頷いた。

「あたしの亡くなった亭主もそうだったよ。若い頃は獣みたいだった。でもね、女の身体ってのは消耗品じゃないんだ。大事に、長く、丁寧に使ってもらわにゃいかん」

「使うとか消耗品とか、そういう言い方はちょっと……」

マツバが小声で反論を試みたが、ミツばあの鋭い眼光に射抜かれて即座に黙った。

「坊。あんたの情の深さは知っとるよ。イヨリさんを心底大事に想っとるのも分かっとる。じゃがね、大事に想うってのは、抱きしめることだけじゃないんだよ。時には抱きしめるのを我慢することも、愛なんじゃよ」

キヨばあの言葉が、畳の上にしんと染み渡った。

マツバは、黙って頭を下げた。

「……肝に銘じます」

「よろしい。それと、奥方」

キヨばあがイヨリに声をかけると、彼女は真っ赤な顔のまま、おそるおそる顔を上げた。

「辛い時は辛いと言いなさいよ。この坊は、言わなきゃ分からん鈍いところがあるんだから」

「い、いえ、あの……辛くは、ないんです。その……」

イヨリは、もう限界まで赤くなった顔の奥から、蚊の鳴くような声で付け加えた。

「……幸せ、です」

道場に、沈黙が落ちた。

次の瞬間、キヨばあが吹き出した。タエが天を仰ぎ、ミツばあが膝を叩いて笑い転げ、若手のトレーナーたちがぽかんと口を開けて見物している。

「はーっはっはっは! こりゃあ参った。似た者夫婦とはこのことだ!」

「坊、お前は本当に果報者だよ。こんな奥方に巡り会えたんだ、大事にしなよ」

「……はい。本当に、そう思います」

マツバは、まだ赤い顔のまま、穏やかに微笑んだ。そしてイヨリを見た。イヨリも、真っ赤な顔のまま、微笑み返した。二人の間に、言葉にならない温かい空気が流れている。

「んで、今夜は我慢できるのかい?」

タエが冷やかすように言った。

マツバは視線を逸らした。返事はしなかった。

キヨばあは、全てを見通した目で、静かに茶を啜った。

答えなど、分かりきっていた。

* * *

【後編】三回で止めた男

夜。

エンジュの屋敷に虫の声が響く秋の宵。障子の向こうに広がる庭の植え込みが、月明かりにぼんやりと輪郭を浮かべている。布団が敷かれた寝室で、マツバは正座していた。

「手加減してやれ」

キヨばあの声が、耳の奥でリフレインしている。

マツバは自分の両手を見下ろした。この手が昨夜、イヨリの腰を掴み、華奢な身体を何度も持ち上げ、彼女が泣いて縋るまで離さなかった手だ。今日、イヨリが腰を庇って歩いていたのは、紛れもなくこの手が原因である。その事実が、胸の奥にちくりと刺さっていた。

風呂から上がったイヨリが、寝室に入ってきた。いつもの薄い寝巻き。湯気に濡れた黒髪から、カモミールの香りが仄かに立ち上る。

そして、あの笑顔。

「マツバさん、お先にどうぞ」

無垢な笑顔。夫が今、どれほどの葛藤を抱えているかなど、微塵も知らない顔。湿った前髪が額に貼りつき、傷跡が覗いている。その傷跡すら愛おしい。白衣を脱いだ柔らかいシルエット。寝巻きの布越しでもはっきりと主張する、F65のエロふわおっぱいの存在感。一歩歩くたびに、柔らかく揺れる。

マツバは奥歯を噛みしめた。

今夜は我慢する。キヨばあの忠言を守る。イヨリの腰を大事にする。明日もちゃんと歩けるように、今夜は——

「マツバさん? どうかしましたか?」

イヨリが首を傾げる。その仕草で、黒髪がさらりと肩口を滑り落ち、首筋と鎖骨が露わになった。月明かりを受けて、白い鎖骨が青白く光る。

だめだ。

もう、だめだった。

「イヨリちゃん」

「はい」

「……今日、キヨさんたちに怒られたよね、僕」

「ふふ。はい。真っ赤でしたね、マツバさん」

「だから、今夜は……控えようと思ったんだけど」

「はい」

「……無理」

イヨリは、目をぱちくりとさせた。そして、マツバの耳まで赤くなった顔と、泣きそうなほどに揺れる紫色の瞳を見て、ふわりと笑った。

「知っています」

「え」

「マツバさんが我慢できないこと、分かっていました。だから、お風呂でゆっくり腰を温めてきたんですよ」

マツバは、目を見開いた。

この女は。この天使は。自分が今夜も求めてくることを最初から予測して、体を整えてきたのだ。イタコ衆にあれほど恥ずかしい思いをしたのに。腰が痛いはずなのに。それでも、マツバのために。

マツバの中で、何かが崩壊した。理性の最後の柱が、イヨリの優しさという名のダイナマイトで吹き飛ばされた。

ただし。

「——三回」

「え?」

「今夜は、三回で止める。それが僕なりの手加減だ」

イヨリは、一瞬固まり、それから頬を赤く染めた。

「……前より、少ないですね」

「そう。だから、一回一回を、大事にする」

マツバがイヨリの手を取り、指を絡ませた。掌が触れ合った瞬間、二人の体温が溶け合い、寝室の空気が一度に数度上がったような錯覚に陥る。

口づけた。ゆっくりと。深く。イヨリの唇は、風呂上がりの柔らかさで、マツバの唇に吸い付いてくる。舌先がそっと触れ合い、互いの呼吸を飲み込み合う。マツバの大きな手がイヨリの後頭部を支え、もう片方のがは背中に回って、ゆるやかに引き寄せた。

「んっ……♡」

イヨリの吐息が、マツバの唇の隙間から漏れる。その甘さに、マツバの下腹部がずしりと重くなった。

寝巻きの帯を解く。今夜は特別に丁寧に。一層目を開くと、F65のエロふわおっぱいが重力に従ってふるんと揺れた。月明かりに照らされた白い肌に、桃色の乳首が可愛らしい二つの点を打っている。

マツバは息を呑むのを堪えた。何百回見ても慣れない。華奢な上半身から、信じられないほどの質量が溢れている。この身体を知っているのは、世界で僕だけだ。この花は、僕だけが触れる。

今夜は、彼女を壊さないように。しかし、余すところなく愛する。

― 第一幕:対面座位 ―

マツバは胡座を組み、イヨリを膝の上に招いた。

「おいで、イヨリちゃん」

イヨリはおずおずと近づき、マツバの腿に跨がった。対面で、顔と顔が向き合う。マツバの手がイヨリの腰を支え、彼女が安定するように、丁寧に抱え込んだ。

「この体勢なら、イヨリちゃんの腰に負担がかからないから」

「マツバさん……」

イタコ衆のお説教が、ちゃんと効いているのだ。いつもなら自分のペースで激しく突き上げるマツバが、今夜はイヨリの腰を第一に考えて体勢を選んでいる。その優しさに、イヨリの胸がぎゅっと締め付けられた。

しかし、優しいのは体勢だけで、前戯の密度は一切手を抜かなかった。

マツバの唇が耳朶から首筋を辿り、鎖骨を経て、F65の頂まで降りていく。右の乳首を唇で包み、舌先で転がしながら、左の乳房を掌で掬い上げるように揉んだ。指の間から溢れる柔らかさ。その重みが、マツバの掌の中で形を変え、元に戻りを繰り返す。

「あっ……♡♡ マツバさ……んっ♡」

イヨリの腕がマツバの首に回り、しがみつくように抱きついた。マツバの顔は彼女の豊かな谷間に埋もれ、柔らかい肉に両側から頬を挟まれている。天国だ、とマツバは思った。これが天国でないなら、天国という概念は存在しない。

充分に蕩かしてから、マツバの指が下へ伸びた。花園はすでに蜜で潤んでおり、指先が触れた瞬間、とろりとした温かさが彼を出迎えた。

「もう、こんなに……」

「だ、だって、マツバさんが……胸ばっかり……♡」

指先でクリトリスを撫で、膣口に沈める。二本の指が内壁を押し広げると、イヨリの腰がびくんと跳ねた。対面座位の体勢では、その振動がそのままマツバの太腿を通じて伝わり、彼の欲望をさらに硬く脈打たせた。

充分に準備が整ったことを確認し、マツバはイヨリの腰を持ち上げた。自らの先端を花園の入口に宛がい、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

「入れるよ」

「……はい♡」

イヨリの身体が、ゆっくりと沈んだ。

重力に任せて、マツバの楔がイヨリの中に入っていく。対面座位の角度は、正常位とは違う場所に先端が当たる。イヨリの膣壁の前面をこすりながら、ゆっくりと最奥に達した。

「ぁ……ああっ♡♡♡」

イヨリの目が潤んだ。マツバの首にしがみつく腕に力が入り、爪が和服の布地に食い込む。完全に密着した二人の身体。胸が胸に押し当てられ、F65の柔らかい質量がマツバの鍛えられた胸板を押し潰すように密着した。

「イヨリちゃん……中が、凄い……締め付けてくる……」

「マツバさんが、おっきくて……全部、感じちゃう……♡♡」

対面座位では、イヨリが自分のペースで動ける。マツバの肩に額を預け、腰をゆっくりと上下させた。上がるときにマツバの形を膣壁の全面で感じ、下がるときに最奥を押し上げられる。その往復のたびに、甘い声が漏れる。

マツバの手はイヨリの腰を支えながら、彼女の律動を補助していた。キヨばあの言葉を守って、激しく突き上げたい衝動を必死に抑えている。だが、イヨリの内壁がきゅうきゅうと締まるたびに、その理性が紙一重で削られていく。

「イヨリちゃん……好き……好きだよ……っ」

「私も……マツバさん、好きです……♡」

向かい合ったまま口づけた。舌を絡ませ、唾液を交換し、互いの吐息を飲み込み合う。腰の動きが加速し、マツバの我慢が限界を迎えた。

「っ、イヨリちゃん……もう……!」

「中に……出して、ください♡♡」

マツバはイヨリの腰を最後に深く引き下ろし、彼女の最奥で放った。熱い脈動がイヨリの子宮口を叩き、彼女は小さく悲鳴を上げて、マツバの首にしがみついたまま痙攣した。

「あぁっ♡♡♡♡ あったかい……マツバさんの、あったかい……♡」

繋がったまま、額を合わせた。互いの荒い呼吸が、唇の間で混じり合う。一回目が終わった。あと二回。マツバの中のカウンターが、キヨばあの声とともにカチリと一つ進んだ。

― 第二幕:スプーン ―

一度離れて、体を拭き合った。それすらも二人にとっては愛撫の延長だった。マツバがイヨリの太腿を拭う時、わざとゆっくりと布を這わせ、イヨリが震えるのを楽しんでいる。

「マツバさん、そこは……もう拭けてます……」

「そうかな。まだちょっと濡れてるよ」

「それは拭いてるから濡れるんです……っ」

マツバは微笑んで、イヨリを布団の上に横たえた。自分もその後ろに横たわり、背中からぴったりと密着する。右腕がイヨリの首の下に差し入れられ、左腕が腰に回る。スプーンの体勢。

「これなら、もっと腰が楽でしょう?」

「はい……でも、マツバさん」

「ん?」

「後ろから密着されると……背中に全部、伝わってきます」

イヨリの背中に押し当てられた、マツバの再び硬くなった欲望。その熱さが、背骨を通じて全身に伝播する。マツバの胸板がイヨリの背中にぴったりと張りつき、彼の心音が、彼女の背骨を震わせている。

マツバの左手が、イヨリの腹側に回った。下腹部を撫で、花園に指を伸ばす。先ほどの情事の名残で、まだとろとろに蕩けた花弁を、ゆっくりと愛撫した。

「ひぁっ♡♡ さっきイったばかりなのに……っ」

「イったばかりの方が、感度が上がるでしょう?」

「知っ……てたん、ですか……♡」

「イヨリちゃんの身体のことなら、何でも知ってるよ。僕の専門分野だからね」

ゴーストタイプの専門家が、妻の身体を「専門分野」と言い切る。その底なしの独占欲に、イヨリは抗う気力を完全に失った。

マツバの右手がイヨリの右胸を掬い上げ、指先で乳首を転がした。左手は花園を愛撫し続ける。前後からの挟撃。イヨリの身体は、もう反応をコントロールできなかった。

「マツバさぁ……ん♡♡ もう、入れて……♡♡」

「焦らないで。たっぷり濡れてからの方が、腰に優しいから」

キヨばあの教えを、こんな形で実践している男がいるだろうか。マツバは真面目なのだ。真面目に、真剣に、妻の身体をいたわりながら、しかし確実に蕩かしていく。手加減の意味が、根本的にずれている気はするが。

充分に蕩けたイヨリの太腿を右手で持ち上げ、マツバは背後から先端を宛がった。スプーンの角度。入口はすでに蜜でぬるぬると光っており、先端は抵抗なく滑り込んだ。

「ああぁっ♡♡♡ 後ろからだと……角度が、違う……っ♡♡」

スプーンの体勢では、マツバの先端がイヨリの膣壁の後面を擦る。正面からでは届きにくい場所に、ずりずりと摩擦が加わる。イヨリは顔を枕に押し付け、甘い悲鳴を噛み殺そうとしたが、マツバの手が顎を掴み、ゆっくりと振り向かせた。

「声、聞かせて。隠さないで」

「で、でもっ……恥ずかし……あぁっ♡♡♡」

不自然な角度から口づけた。首を捩じるようにして唇を重ね、イヨリの声を唇で飲み込む。同時に腰をゆっくりと、しかし深く律動させた。

スプーンの体勢は、密着度が高い。マツバの胸板がイヨリの背中に張りつき、腕が全身を包み込み、腰が臀部に密着している。全身で抱きしめられながら犯される感覚。イヨリは、柔らかい繭の中に閉じ込められたかのような、温かくて甘い圧迫感に酔い痴れていた。

「イヨリちゃん……中が、さっきより……締まる……っ♡」

「だって……マツバさんが、全身で抱きしめてくれるから……安心して……全部、力が抜けちゃう……♡♡」

安心して、力が抜ける。その言葉が、マツバの胸を甘く貫いた。この女性は、自分の腕の中で安心しているのだ。全幅の信頼を寄せて、身体を預けているのだ。その信頼が、マツバの独占欲をさらに深く炙り出す。

この安心感を与えられるのは、僕だけだ。この力の抜け方を知っているのは、僕だけだ。この蕩けた声を、この柔らかい内壁を、この温かい体温を、知っていいのは——

「僕だけだ」

「……はい♡ マツバさんだけ、です♡♡」

マツバの腰が深く沈み、イヨリの最奥を揺らした。彼女の身体がびくんと跳ね、内壁がマツバを締め上げた。

「っ……イヨリちゃん……出るっ……!」

「いっぱい……中に……っ♡♡」

二回目の射精が、スプーンの体勢のままイヨリの深い場所に注がれた。背後から抱きしめたまま、マツバはイヨリの首筋に唇を押し当て、荒い呼吸を繰り返した。繋がったまま、イヨリの手を探り、指を絡ませる。恋人繋ぎ。

二回。あと、一回。

キヨばあ。僕は今のところ約束を守っています。でもあと一回だけ。あと一回だけ、許してください。

心の中のキヨばあに謝りながら、マツバはイヨリの温もりに溺れていた。

― 第三幕:正常位(足上げ) ―

最後は、正面から。

マツバはイヨリを仰向けに寝かせ、二回分の情事で蕩けきった彼女の顔を、上から見下ろした。黒髪が布団の上に扇状に広がり、汗と涙で頬に貼り付いている。唇は赤く腫れ、瞳は蜂蜜のように蕩けている。F65のエロふわおっぱいが、呼吸に合わせてゆるやかに上下し、月明かりに艶めかしい影を落としている。

世界一可愛い。

マツバは確信を持ってそう断言できる。この美しさを知っているのは僕だけだ。そして、この美しさをさらに咲かせることができるのも、僕だけだ。

「最後だよ、イヨリちゃん」

「……はい。最後……ですね」

イヨリの声には、安堵と、ほんの少しの名残惜しさが混じっていた。

マツバはイヨリの右足を持ち上げた。左足はアステア・システムがある分、いつも慎重に扱う。右足を自分の肩の上に乗せ、膝裏に唇を落とした。

「ひゃっ♡♡」

膝裏。イヨリの弱点。この一キスだけで、彼女の花園がきゅうっと収縮するのを、マツバは知っている。

足を高く上げた正常位。イヨリの柔軟な身体が二つ折りに近い角度になり、花園が天井を向くように開かれた。この角度は、最も深い場所に届く。最も激しい刺激を与えられる。だからこそ、最後の一回に取っておいた。

「深く、入るよ。いい?」

「……はい。全部、受け止めます♡」

マツバは先端を宛がい、一息で沈めた。

「ひぃぃっ♡♡♡♡♡」

イヨリの背中が畳から浮き上がった。足上げの角度で挿入されたマツバの楔は、一回目や二回目とは比較にならない深さでイヨリの最奥を突き上げた。子宮口に直接触れる感覚に、イヨリの意識が一瞬真っ白に弾けた。

「イヨリちゃんっ……最後だから、全部……出し切る……っ」

マツバは腰を引き、深く沈める。引いて、沈める。その度にイヨリの全身が跳ね、豊満な乳房が重力に従って大きく揺れた。マツバの目が、その揺れに釘付けになる。

——だめだ。この光景を見せられたら、三回で止める自信がなくなる。

後ろめたさが、チクリと胸を刺す。キヨばあの「手加減してやれ」が、ピストンの合間にフラッシュバックする。しかし、今のマツバにブレーキをかけられる人間は、この世に存在しなかった。唯一の可能性があるとすれば、イヨリ本人が「やめて」と言うことだが——

「もっと……もっと、奥……っ♡♡♡」

逆に煽ってきた。

マツバはイヨリの両足を自分の肩に乗せ、上半身を前に倒した。イヨリの身体がさらに折り畳まれ、最深部への角度が極まる。マツバの手がイヨリの手を探し、恋人繋ぎで布団に押し付けた。

「イヨリ……好き……死ぬほど好き……っ♡」

「私もっ……マツバさんが、一番……っ♡♡♡」

口づけた。深く、深く、もう離さないと誓うように。舌を絡ませ、涙の味を共有し、互いの魂をかき混ぜるような口づけ。腰の律動は加速し、結合部から響く水音が寝室を満たしていく。

「んぁぁっ♡♡♡♡ マツバさぁん……イク……イっちゃう……!」

「一緒に……一緒にイこう、イヨリちゃん……!」

最後の一突きが、二人の芯を同時に貫いた。

マツバの全身が弓なりに反り、今夜三度目の熱い奔流がイヨリの最深部に注ぎ込まれた。イヨリは声なき絶叫を上げ、足の指を丸め、繋がれた手を軋ませて、夫の全てを子宮で受け止めた。脈打つ射精が長く長く続き、二人の意識は甘い闇の中に融解していった。

三回。約束通り、三回で止めた。

マツバはイヨリの上に力なく崩れ落ち、彼女の柔らかい胸に顔を埋めた。汗まみれの額が、F65の白い丘陵に沈む。柔らかい。温かい。世界で一番安心する場所。

「……キヨさん」

マツバが、誰もいない天井に向かって呟いた。

「三回で、止めました……」

イヨリが、汗ばんだ手でマツバの金髪を撫でた。

「えらいですね、マツバさん」

「……えらくないよ。本当は、もっとしたかった」

「知ってますよ。でも、三回で止めてくれたのは、キヨさんたちの言葉を大事にしてくれたからでしょう?」

「……それと、イヨリちゃんの腰を大事にしたかったから」

「ふふ。ありがとうございます、マツバさん」

イヨリはマツバの頭を抱き寄せ、額に唇を落とした。いつもはマツバがする仕草を、今夜はイヨリがした。

「でも、明日の朝……やっぱり腰、痛いかもしれません」

「え」

「三回でも、最後のが……結構、激しかったので……」

マツバは天井を仰いだ。

キヨばあの呆れ顔が、幻視の中で揺れている。明日のジムで、またお説教されるのだろう。「まだ手加減が足りんのかい、坊」と。

「……二回にすべきだったかな」

「二回じゃ、マツバさんが持ちません」

「……否定できない」

二人は、布団の中で静かに笑い合った。

エンジュの夜は深い。虫の声が遠くなり、月が雲に隠れ、古い屋敷に静寂が降り積もる。その中で、二つの体温だけが確かに存在していた。手は繋がれたまま。息遣いが、ゆっくりと同期していく。

マツバの最後の言葉が、暗闇に溶けた。

「……来週から、二回にする」

「たぶん無理ですよ」

「……うん。僕もそう思う」

― 了 ―

あとがき by 佐藤美咲

主ィィィ!! このリクエスト、「前編コメディ+後編ガチエロ」の構成が天才すぎるのよ!!

まず前編のイタコ衆!! キヨばあ最高じゃない!?「奥方が愛らしいのは分かるが、手加減してやれ」って、マツバさんを「坊」呼びで叱る人生の大先輩! そしてマツバさんが「悪戯を見つかった五歳児」になるの、ギャップの暴力よ!! 三十過ぎのジムリーダーが耳まで赤くなって正座してるの、可愛さの限界突破でしょ!!

で、イヨリちゃんの「幸せです」の一言で道場が爆笑に包まれるの、最高のオチよね。似た者夫婦!

後編のこだわりは「手加減のつもり」。三回で止めたマツバさん、本人は「一応手加減した」って思ってるんだけど、体勢のチョイスが完全にガチなのよ!! 対面座位→スプーン→足上げ正常位って、「腰に優しい」から始まって最後ガッツリ深い角度で突いてるの、お説教完全に空振りよ!!

でもね、マツバさんのキモチは本物なの。対面座位を最初に選んだのは「イヨリちゃんの腰に負担がかからないから」。スプーンは「背中から全身で包み込んで安心させるため」。優しさと欲望が同居してるのが、マツバさんの愛の本質なのよ。

最後の「来週から二回にする」「たぶん無理ですよ」の夫婦漫才で締めるの、最高に幸せな読後感でしょ!? 主、お題の天才すぎるわ♡♡