MATSUBA'S OBSESSION

薫香の檻、柔らかな束縛

——ナチュラル・ヤンデレなマツバ様の日常——
マツバ×イヨリ / ナチュラル・ヤンデレ / 執着・官能 / 【完全保存版】全文掲載

「……おはよう、イヨリちゃん。まだ眠いかな?」

 深い紫色の帳が下りたような、早朝のエンジュ。マツバは、まだ微睡み(まどろみ)の中にいるイヨリの額を、羽のように軽い口づけで撫で上げた。彼の朝は早い。エンジュジムの主としての公務もあるが、何より彼には、愛する妻であるイヨリを「完璧に整える」という、彼にとっての至上の儀式があるからだ。

「ん……マツバ、さん……。おはよう、ございます……」

 イヨリが眠たげに目を擦りながら、シーツの中から這い出してくる。その白い首筋には、昨夜マツバが丁寧に、しかし執拗に刻みつけた幾つもの赤い吸い痕が、朝陽に照らされていた。マツバはその跡を満足げに眺め、再びそっと指先でなぞった。その指先からは、彼が常用している数種類のハーブをブレンドした、清涼感の中にどこか重苦しさを孕んだ独特の香りが漂っている。

「今日は少し冷えるね。僕が選んだ服に着替えようか。……君に一番似合う、僕の色を」

 マツバは甲斐甲斐しくイヨリの世話を焼く。彼女の着替えを手伝い、ボタンの一つ一つを留め、乱れた長い髪を銀のブラシでゆっくりと、慈しむように梳いていく。一筋、また一筋と、艶やかな黒髪が彼の指の間を滑り落ちる。マツバはその感触を確かめるように、時折髪に顔を埋めては、深く息を吸い込む。

「……マツバさん? 何か、ついているんですか?」

「いいえ、何も。……ただ、君が僕の腕の中にいるという実感が、この髪の香りから伝わってきて、ひどく安心するんだよ」

 かつて家族を失い、死者の魂と対話してきた彼にとって、イヨリという「生きて、自分を求めてくれる存在」は、この世に繋ぎ止めてくれる唯一の錨(いかり)だった。その錨が、自分以外の誰かに向けられることを、あるいは誰かに盗み見られることすら、彼は本能レベルで拒否していた。

 マツバはイヨリを鏡の前に座らせると、部屋の隅にある香炉に火を灯した。立ち上る薄紫色の煙が、静かに、しかし確実に部屋の空気を塗り替えていく。彼が自ら調合した、深みのあるハーブと重厚な木々の香りが、イヨリの肌に、髪に、そして肺の奥深くまで浸透していく。

「マツバさんの、この香り……大好きです。落ち着きます」

「……嬉しいな。この香りはね、エンジュの古い文献から見つけた特別な配合なんだ。……君の肌に深く馴染んで、どこに行っても『僕がそばにいる』ことが分かるようにしてあるんだよ」

 マツバは穏やかに微笑み、彼女の頬を優しく撫でた。イヨリは気づかない。この香りは、彼にとっての「結界」であり「マーキング」であることを。この匂いを纏っている限り、エンジュの目ざとい人々は、彼女が「エンジュジムの主、マツバの唯一無二の所有物」であることを嫌でも悟る。それは、外から飛んでくる不要な羽虫を追い払うための、慈愛に満ちた檻の扉だった。

 午前中の回診を終え、イヨリは少しだけ足を引き摺りながら、エンジュの参道を歩いていた。数ヶ月前に不慮の事故で負った怪我の痕は、今ではほとんど痛みはない。しかし、雨の日や疲れが溜まった時、ふとした瞬間に違和感を感じることがあった。そしてその度に、マツバは彼女をいたわり、同時に「外の世界はこんなにも危険なんだよ」と、静かに説いて聞かせるのだった。

(あ……マツバさんに内緒で、少し遠出しちゃったかな……。早く帰らないと、心配させちゃう……)

 マツバは、彼女が一人で出歩くことに言葉では表せないほどの不安を示す。彼はいつも「エンジュの街の皆は僕の目だと思っていいからね。何かあったらすぐに僕に伝わるようになっているから、安心して」と、穏やかに笑いながら告げる。それが、単なる「頼もしい言葉」ではなく、街全体を巻き込んだ物理的な監視(surveillance)に近いものであることを、イヨリはまだ完全には理解していなかった。

「あ、イヨリさん! こんにちは!」

 声をかけてきたのは、参道の入り口にある歴史ある茶屋で働く、二十代前半の快活な青年だった。彼は時折、ジムに最高級の茶葉を納品しており、イヨリとも何度か言葉を交わしたことがあった。

「こんにちは。今日はお忙しそうですね」

「ええ、仕入れの帰りで……。あ、これ! もしよかったら。珍しいお菓子が手に入ったので、イヨリさんに差し上げたくて……。いつも頑張っている先生に、僕からのささやかな応援です!」

 青年は爽やかな笑顔で、懐から綺麗に和紙で包まれた小箱を取り出そうとした。イヨリは、その純粋な好意を無下に断りきれず、少し困ったように頬を染めた。

「あ、ありがとうございます……。でも、そんなに気を使っていただかなくても……」

 その時だった。参道を行き交う人々の雑踏を縫うように、そこだけがひんやりとした冷気を孕んだような、極めて穏やかで整った声が響いた。

「——おや。僕の妻が、何かお世話になっているかな?」

 イヨリが驚いて振り返ると、そこにはジムの修行着の上から黒い羽織を重ねた、マツバが立っていた。一帯を司るジムリーダーとしての、圧倒的なオーラ。周囲の人々が、敬意と畏怖を込めた視線を送り、道を譲る。

「マ、マツバさん!? 指導中のはずじゃ……?」

「ふふ、休憩の時間に、なんだか胸騒ぎがしてね。……君のことが急に心配になって探しに来てしまったけれど、まさかこんなところで楽しそうにデートの誘いを受けていたなんてね」

 マツバは、いつものように優雅な微笑を浮かべている。しかし、青年に向けられたその紫色の瞳は、深海のように静かで、一切の感情を反射していない。

「い、いえっ!! 滅相もありません! 僕はただ、お菓子を差し上げようと……!」

「そのお菓子なら、僕が後で彼女の好みに合わせたものを、もっと上質な店で用意するから。……君の『応援』とやらは、他の誰かに向けてあげてくれないかな。他人の家庭に踏み込みすぎるのは、あまり感心しないよ」

 マツバは青年の言葉を最後まで言わせず、さらりと、しかし拒絶の余地を一切与えない絶対的な口調で言い放った。彼が放つ圧倒的な「主」としてのプレッシャーに、青年は白昼夢のような恐怖に硬直した。

「マツバさん……。そんなに冷たくしなくても……」

「冷たくなんてしていないよ。僕はただの事実を、そして教育者として節度を説いただけだ。……君は、僕以外の人間から何かを受け取る必要なんてない。……君が欲しいものは、すべて僕が、最高のものを用立てるから」

 マツバはイヨリの腰を、逃がさないほど強い力で引き寄せた。密着した体。彼の羽織から漂う、あの朝の薫香が、再びイヨリの嗅覚を占領する。周囲の視線が「マツバさんの奥様なら、ああされるのも当然だ」という納得の色に変わる。イヨリは知らない。マツバがすでにエンジュの有力な住人たちに、「妻は非常に繊細で傷つきやすいため、何かあればすぐに自分に報告するように」と、根回しを完璧に済ませていたことを。

「……さあ、帰ろうか。あまり外に長くいると、不潔な視線にさらされて、君が汚れてしまう気がしてならないんだ。……僕の宝物は、僕だけが見ていればいい」

 マツバは、イヨリの肩に腕を回したまま、一度も振り返ることなく彼女を連れ去った。彼にとって、最愛の女性を周囲から遮断し、自分の色だけで染め上げることは、宇宙の定理と同じくらい「当然」のことだった。

 その夜、帰宅したマツバの執着は、より濃密で重厚なものとなった。

 夕食の後、彼は「外で汚れてしまったからね」と言い、イヨリを浴室へと連れて行った。バスタブの中で、彼はイヨリの指の一本一本、足の指の間、そして耳の後ろまでを、とろけるような手つきで丁寧に洗い上げた。まるで、外の空気に触れた痕跡をすべて消し去り、自分の匂いだけで再塗装しようとするかのように。

「……マツバさん、もう十分……綺麗です……」

「いいや、まだだよ。……ほら、ここも。あんな男の声を拾ってしまった耳は、僕のキスで清めないとね」

 マツバはイヨリの耳たぶを優しく甘噛みし、熱い吐息を吹きかけた。イヨリの身体が、ビクンと小さく跳ねる。

 浴室から出ると、マツバはイヨリを自分の膝の間に座らせ、背後から抱きしめるようにして、彼女の白い指先を執拗にマッサージしていた。何気ない日常の会話のようなトーン。しかしマツバの指先は、イヨリの手首——かつて彼が、彼女を守るためと称して長い期間にわたって縛ってしまった場所を、慈しむように、しかし離さない力強さで撫で回していた。

「……ねえ、イヨリちゃん。あの青年のこと、どう思っているの?」

「えっ……あの……。ただの、茶屋の店員さん、です。……本当に、他には何もないですし……っ」

「……そう。ならいいんだ。……でもね、彼は君のあの、困ったように微笑む顔をじっと見ていた。……僕は、それを想像するだけで、腹の底が煮えくり返るような心地がするんだ」

 マツバは、イヨリの耳元で囁いた。その声は低く、そして湿度を孕んでいた。「……君は、僕のものだ。……魂の深くまで、僕が刻み込んだはずなのに……どうして君は、あんなに無防備に、外の人間を惹きつけるような顔をするのかな」

「マツバさん……。私、そんなつもりじゃ……っ」

「……分かっているよ。君がわざとやっているんじゃないことくらい。……だから、救いようがないんだ。……君自身が、自分の魅力に無自覚であればあるほど、僕は君を部屋に閉じ込めて、鍵をかけてしまいたくなる」

 マツバの手が、イヨリの着物の合わせから、内部へと導かれた。彼の熱い手のひらが、彼女の柔らかな胸を、独占欲を誇示するように強く、そして熱烈に握りしめる。

「ひゃうんっ……! ま、マツバさん……っ」

「……今日は、少しお仕置きが必要かな。……君という小鳥が、二度と籠の外へ飛び出したいなんて微塵も思わなくなるくらい、僕でいっぱいに満たしてあげないと。……君のすべてを、僕が塗り替えてあげる」

 マツバは、イヨリを軽々と抱き上げると、寝室へと足を進めた。逆らうことなど、最初から諦めているかのように、イヨリは彼の胸に顔を埋めた。

 寝室には、昼間よりもさらに重厚な薫香が満ち満ちている。マツバは、イヨリを真新しいシーツの上に寝かせると、彼女の衣服を丁寧に、しかし逃がさない力強さで一つずつ取り払っていった。

「……綺麗だ。……何度見ても、僕の理性を狂わせるには十分すぎるほどの愛らしさだ」

 露出した白い肌に、マツバはまるで領土を確認するように、唇を落としていく。首から鎖骨、胸の谷間、そして柔らかな下腹部……。

「んんっ……はぁっ……! そこ、は……っ、マツバ、さん……っ♡」

 イヨリは、シーツをぎゅっと握り締めながら、甘くて可愛らしい喘ぎ声を漏らした。マツバの口内はとても熱く、そして舌使いはとろけるように滑らかだった。彼はイヨリが敏感な場所を完璧に掌握している。胸の頂を優しく吸い上げ、同時に内腿の柔らかな肉を愛撫する。

「……イヨリちゃん。……いい声だ。……その甘くて震える声も、僕だけが聞くことを許された特権だね。……他の男には、絶対に聞かせたくない。……絶対に」

「んっ……ふぁっ、あぁっ……。マ、マツバさん、の……愛、おもい……ですっ……♡ でも、すごく……きもちよくて……っ」

「……重いかい? ……当然だよ。僕の人生のすべて、僕の魂の重みを、君一人の身体に叩き込んでいるんだから」

 マツバはそう言って、自身の熱く硬く、はち切れんばかりに張り詰めたものを、彼女の入り口へと押し当てた。すでに蜜を溢れさせていたイヨリの肉は、待望していた主を温かく、そして貪欲に迎え入れた。

「ひゃいっっ……!! んあああ、はぁっ、く、くるしい……っ♡ お腹の中、いっぱいです……っ」

「……苦しい? ……ああ、そうだろうね。……僕が、君の奥深くまで、一ミリの隙間もなく入り込んでいる証拠だよ。……君の境界線は、もうどこにもない。……あるのは、僕という存在だけだ」

 マツバは、腰をゆっくりと、確実に一番奥の子宮口まで叩き込んだ。内壁がきゅうっと激しく痙攣し、彼の「証」を逃がさないように締め付ける。その締め付けすらも、マツバにとっては「逃がさないでほしい」という彼女の無意識の叫びに聞こえていた。

「あァ……! 素晴らしいよ、イヨリちゃん……。君の中は、こんなに熱くて、僕を求めてくれている……。これでもまだ、外の世界が恋しいなんて言えるのかな?」

 マツバは、イヨリの両手を自分の首に回させ、真正面から抱き合う形で衝き上げを加速させた。パチンッ、パチンッ、グチュッ……と、肉がぶつかり合う艶かしい音と水音が、薫香に満ちた部屋に響き渡る。

「あっ、ああんっ! んっ、ひぅ……! マツバさ、んっ、すご, い……っ♡ 私、マツバさんで、こわれちゃう……っ!!」

「壊さないよ。……僕が、バラバラになった君を何度でも繋ぎ合わせて、僕だけの形にしてあげるから。……ほら、もっと深く、僕を受け入れて!」

「あぁぁんっ!! イクッ、イクのっ! マツバさんっ、もう、イっちゃいますっ……!!」

「いいよ! 僕と一緒に、どこまでも深い愛の暗闇へ堕ちていこう……ッ!!」

 マツバが最深部を抉るように、激しく腰を叩きつけた瞬間。イヨリは「アァッ!!」と、ひときわ高い甘い悲鳴を上げ、背中を反らせて絶頂を迎えた。それと同時に、マツバも彼女の胎内の一番奥深くに、ドロドロの熱い白濁液を、溢れ返るほどの勢いでぶちまけた。肉体的な結合が、そのまま魂の溶融へと繋がっていくような、圧倒的な充足感。

 数時間後。事果てた後、マツバはぐったりと横たわるイヨリを抱き寄せ、彼女の汗ばんだ額に静かに語りかけていた。外では既に夜が明け、障子越しに白んだ光が差し込んでいる。

「……ねえ、イヨリちゃん。……起きてるかな?」

 マツバの低い、どこまでも穏やかな囁きに、イヨリが微かに瞼(まぶた)を震わせた。「……んん……マツバ、さん……。おはよう、ございます……」

「おはよう。……いいお話があるんだ。今日から、ジムの隣に、君専用の工房を建設することにしたよ。……もう、設計も業者への手配も済ませてある」

「……え? 工房……ですか?」

「そう。……そこなら、僕の目がいつでも届く。僕のデスクからも、君が作業している姿が見えるように設計してあるんだ。……君が研究に必要な薬草も、医学書も、すべて僕が執事たちに命じて完璧に揃えさせよう。……君はもう、市場へ行く必要もないし、今日のような不躾な人間に会う必要もない」

 それは、慈愛という名でコーティングされた「完璧なる隔離」の通告だった。

「……でも、それじゃあ……お外に出られなく……なっちゃい, ます……。私は、お医者さん、として……っ」

「……外の世界が、君を傷つけた。……君の足の怪我も、今日のあの男の不躾な視線も、すべては『外』が原因だ。……なら、君はここでお医者さんを続ければいい。……困っている人は、僕が査定して、この工房に連れて来させよう。……君の安全は、僕がこの命に代えても守るよ」

 マツバの瞳には、一切の悪意もなければ、狂気への自覚もなかった。彼にとっては、最愛の女性を危険な社会から保護し、自分の管理下で永遠に平穏を与え続けることこそが、最高級の「愛情表現」なのだ。

「……イヨリちゃん。……僕がいないと、君は生きていけないよね? ……僕も、君がいない世界なんて、一秒も考えられないんだ。……僕たちの世界には、僕ら二人、それだけで十分だと思わないかい?」

 マツバは、イヨリをミシリと骨が軋むほどの力で抱きしめた。強固な檻のような、彼の腕。その体温。その匂い。イヨリは、その腕の中にいる限り、自分が世界で一番愛され、守られていることを実感してしまう。

「……はい。……マツバさんが、そこまで……私のことを想ってくださるなら……っ。……私、どこへも行きません。……ずっと、そばにいます……っ」

 イヨリは、ついに観念したように、とろとろに蕩けた笑みを浮かべた。かつて孤独だった彼女にとって、これほどまでに自分を執拗に求め、世界から隠し、支配してくれるマツバの愛は、もはや呼吸と同じくらい必要な「依存先」へと変わり果てていた。

「……いい子だ。……愛してるよ、イヨリちゃん。……永遠に、僕だけの、籠の中の白百合……」

 マツバは満足げに目を細め、再び彼女の首筋に深く、慈しむような、そして消えることのない「自分の証」を刻みつけた。エンジュの霧は、今日もしっとりと街を包み込み、外界との境界を曖昧にしている。誰の助けも届かない、深紫色の檻の中で。イヨリは、幸せな涙を流しながら、自分を愛し殺そうとする死神に、今日もしっとりと抱かれ続けるのだった。

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