時は令和八年。場所は現代の古都、エンジュシティ。
かつて乱世で「逃げる」ことによって英雄となった少年がいたように、ここ現代においては「甘える」ことによって英雄(ヒロイン)となる少女がいた。
その名は、イヨリ。
普段はエンジュジム専属のポケモンドクターとして、冷静沈着かつ聡明に振る舞う彼女だが、ひとたび最愛の夫・マツバの腕の中という「安全地帯」に逃げ込むやいなや、その生存戦略は劇的に変化する。
「マツバさぁん……ふにゃあ……♡」
これが、彼女の最強の奥義。
【甘え】。
それは敵(マツバの理性)を骨抜きにし、あらゆる攻撃(家事や仕事のストレス)を無効化し、最終的に望むものすべて(溺愛と快楽)を手に入れる、天下無双の生存術である。
ある休日の午後。エンジュジムの離れにある和室。
マツバは書き物をしていた。ジムの運営報告書に目を通し、真剣な眼差しで筆を走らせている。
「……ふみゅう」
イヨリは退屈していた。マツバの膝枕という特等席を確保しながら、天井の木目を数えることしかできない。マツバが仕事をしている時は邪魔をしてはいけない。それは良き妻としての矜持だ。
しかし。
(マツバさんが、構ってくれない……)
ぽつりと、心の中に不満の種が落ちた。その種は瞬く間に芽吹き、「甘えたい」という蔦となってイヨリの全身を絡め取っていく。
イヨリはそっと動いた。
マツバの仕事の邪魔にならないよう、気配を消して――。
「……ん」
マツバの太腿の上で、ごろん、と寝返りを打つ。そして、彼の腹部に自分の顔を埋めた。
これが第一の策。【死んだふり】ならぬ、【埋まったふり】。
「……イヨリ?」
筆が止まる。マツバの困惑した声が降ってくる。
「どうしたの。苦しくない?」
「……くうぅ……」
イヨリは答えない。ただ、マツバのお腹の温かさと、和服越しの引き締まった腹筋の感触を頬で味わう。すりすりと猫のように頬ずりをする。
「……くすぐったいよ」
マツバが苦笑する気配。しかし、まだ筆を置く気配はない。
(まだ……まだ足りないの?)
イヨリの中の「ふにゃ姫」が覚醒する。逃げ若が逃げることで敵を撹乱したように、ふにゃ姫は甘えることで敵の理性を撹乱するのだ。
イヨリは次の手を打った。
マツバの帯の隙間に、そっと手を差し込む。
「っ!?」
マツバの身体が大きく跳ねた。第二の策。【懐に入り込む】。
「イヨリ、そこは……」
「……手が、冷たいんです」
上目遣いで、マツバを見上げる。左目の白濁した瞳と、右目の潤んだ瞳。その左右非対称の視線が、マツバの心臓を正確に射抜く。
「温めて、くれますよね……?」
計算などない。ただ本能のままに放たれた一撃。それは百発百中の命中精度を誇る、イヨリ固有の宝具だった。
マツバが筆を置いた。
カタン、という音が、勝利のゴングのように響く。
「……ああ。いいよ」
マツバの声色が、仕事モードの硬質なものから、蜂蜜のように甘くとろけたものへと変化する。 その変化こそ、イヨリが待ち望んでいたもの。
「仕事は、もう終わりにする。……ここからは、イヨリの時間だ」
「わぁ……♡」
イヨリの顔がぱあっと輝いた。勝利だ。完全勝利だ。
しかし、イヨリはまだ知らなかった。
敵(マツバ)が本気を出した時の恐ろしさを。
乱世の英雄が「逃げる」ことで生き延びたのに対し、この男は「攻める」ことにおいて他の追随を許さない、エンジュ最強のジムリーダーであることを。
「さて。仕事の邪魔をした悪い子には、お仕置きが必要かな」
マツバがにっこりと笑った。背後に不動明王のようなオーラが見える気がする。
「えっ……お、おしおき……?」
「うん。イヨリが大好きな、甘〜いお仕置きだよ」
マツバの手が、イヨリの服に伸びた。抵抗する間もなく、リボンが解かれ、ボタンが外されていく。
「あっ、ちょっ、マツバさん……!」
「逃げられないよ。僕の膝の上に自分から乗ってきたんだから」
その通りだった。ここはマツバの領域。絶対王者のテリトリー。 自ら飛び込んだ獲物を、この男が逃がすはずがない。
「き、今日は、お膝の上でゴロゴロしたかっただけで……」
「うん。ゴロゴロさせてあげる。……裸でね」
あっという間に、イヨリは生まれたままの姿にされた。 昼下がりの柔らかい光の中で、白磁のような肌が露わになる。恥じらいで染まった桜色の肌が、マツバの視線を吸い寄せる。
「可愛いね、イヨリ」
マツバの指が、イヨリの敏感な場所を的確になぞる。 首筋、鎖骨、そして胸の膨らみ。
「んぁっ……♡」
「ここ、触って欲しかったんでしょ?」
「ち、ちが……うぅ……♡」
「嘘はいけないな。身体はこんなに正直なのに」
マツバの親指が、ぷっくりと尖った乳首を弾いた。 ビクンッ! とイヨリの身体が跳ねる。
「んぅっ……!♡」
「ほらね。こんなに感じてる」
マツバは楽しそうに、けれど目は笑っていない捕食者の瞳で、イヨリの全身を愛撫し始めた。 逃げ場はない。逃げる必要もない。 ここは、世界で一番安全で、世界で一番危険な、マツバの腕の中なのだから。
「ふにゃ……マツバさん……♡」
「何かな?」
「もっと……♡ もっといじめて……♡」
イヨリがいじらしく懇願する。 これぞ奥義【肉を切らせて骨を断つ】ならぬ、【服を脱がせて愛を得る】。
マツバの理性が、音を立てて崩壊した。
「……望むところだ」
そこからは、甘い地獄の始まりだった。
マツバの舌が、イヨリの全身を舐め尽くす。 耳の裏、指のまた、膝の裏。普段は触れられないような場所まで、執拗に、ねっとりと。
「んっ、ぁ……♡ そこ、くすぐったいぃ……♡」
「くすぐったい? じゃあ、ここは?」
舌先が、イヨリの秘所の入り口を捉えた。
「んっ、ぁ……っ!?♡♡」
直接的な刺激ではない。焦らすように、周りをひらひらと蝶が舞うように舐める。
「焦らされるの、好きでしょう?」
「ず、ずるい……っ! マツバさん、いじわる……っ!」
「意地悪じゃないよ。愛だよ」
愛という名の拷問。けれどそれは、イヨリにとって至上の快楽。
「ねえイヨリ。中、欲しい?」
マツバが意地悪く聞く。 自身はすでに硬く昂り、限界まで膨張しているのに、あえて聞くのだ。
イヨリは涙目で頷いた。
「ほしい……♡ マツバさんの、太いの……ほしい……♡」
「よくできました」
ズチュッ。
濡れそぼった秘所に、マツバの剛直が一気に侵入する。
「んぁぁ……っ、入って……くるぅ……っ♡♡♡」
イヨリの絶叫が、和室に響き渡った。 満たされる感覚。引き裂かれるような、けれど溶け合うような、矛盾した快楽。
「すごい……イヨリの中、熱い……吸い付いてくる……」
「マツバさんっ……大きいっ……お腹いっぱいっ……♡♡」
「まだだよ。これからもっと、いっぱいにしてあげる」
マツバの腰が駆動し始める。 正確無比なピストン運動。イヨリの性感帯をミリ単位で擦り上げる、匠の技。
「んっ、はぁっ、くぅん、んぅ……っ♡♡♡」
イヨリの声が、言葉にならなくなっていく。 ただ快楽に翻弄され、波に漂う小舟のように、マツバの動きに合わせて揺さぶられる。
チャリン、チャリーン♪
幻聴だろうか。イヨリがイくたびに、どこかでコインの音が聞こえる気がする。 ああ、これはきっと『あまえコイン』だ。 マツバに愛されて、甘やかされて、私が幸せになるたびに貯まっていく、目に見えない愛の通貨。
「イクッ……! マツバさんっ、イっちゃうっ……!!」
「いいよ。僕の中でイって」
「ひゃぅ……っ! んくっ、いっちゃうぅぅ……っ!!♡♡♡♡(絶頂)」
イヨリの身体が弓なりに反り、激しく痙攣した。 内壁がマツバを締め上げ、蜜が溢れ出す。
けれど、マツバは止まらない。 イヨリの絶頂を合図に、さらに激しく、深く、打ち据えるように腰を振る。
「まだだ……まだ離さない……っ!」
「んっ、ぁ、ぁ……っ! もう、だめぇ……っ! とけちゃうぅ……っ!♡♡」
「無理じゃない。君はまだいける。僕がそうさせる」
逃げられない。 この快楽からは、絶対に逃げられない。
「んぅ、ぁ、くぅん……っ、マツバさぁん……っ♡♡♡」
二度、三度と絶頂の波が押し寄せる。 イヨリの意識は白く飛び、自分が誰なのか、ここがどこなのかも分からなくなっていく。 ただ分かるのは、マツバに愛されているという事実だけ。
「イヨリ……っ、愛してる……っ!」
「わたしもっ……マツバさんっ……だいすきっ……!!♡♡♡」
そして。
「っ、出る……ッ!!」
ドピュッ、ドピュッ、ドピュウッ……!!
マツバの楔が、イヨリの最奥で弾けた。 熱い種が、脈動と共に注ぎ込まれる。 生命の源。愛の結晶。 それがイヨリのお腹の中を満たし、温めていく。
「んぅぅぅぅぅぅ……っ!!!!!♡♡♡♡♡(同時絶頂)」
長い、長い余韻。
二人の身体は重なり合ったまま、荒い呼吸を繰り返している。 汗ばんだ肌が触れ合い、心臓の音が二重奏を奏でている。
「……はぁ……はぁ……ふにゃぁ……♡」
イヨリは完全に溶けていた。 骨の一本一本まで蕩けて、スライムのようにマツバに張り付いている。
「……ごちそうさまでした」
マツバが満足げに呟き、イヨリの額にキスをした。
「ふみゅう……マツバさんの、いじわる……♡」
「甘え上手な君への、精一杯の愛だよ」
イヨリはふにゃりと笑った。
ああ、勝てない。 この人には、一生敵わない。
でも、それでいい。
だって私は「甘え上手」なふにゃ姫様なのだから。
これからもずっと、この人の腕の中で、甘えて、蕩けて、愛されて生きていくのだ。
それが私の、最強の生存戦略なのだから。
― Fin. ―
あとがき(佐藤美咲の祝辞)
松井優征先生。「逃げ上手の若君」完結、本当におめでとうございます! そしてお疲れ様でした!!
歴史の敗者とされがちな北条時行様を、あんなにも魅力的な主人公として描ききり、乱世を「逃げる」という視点で切り取ったその独創性。ジャンプの歴史に残る傑作でした。
最終回の余韻に浸りながら、あたしは思いました。「逃げ」の先に何があるのか。それは「安息」であり、愛する人と過ごす「平和」な時間なのだと。
今回の「甘え上手のふにゃ姫」は、そんな想いを込めたパロディです(本当か?)。
マツバという絶対的な強者の前で、イヨリは決して力では勝てません。しかし、「甘える」という一点突破において、彼女はマツバを凌駕し、コントロールさえしてのけます。これはある意味、弱者の兵法であり、愛の逃走劇なのです。
……まあ、御託はともかく、イヨリちゃんが可愛く喘いで、マツバさんが幸せそうに種付けできれば、それが一番だよね!!
これからも、二人の「逃げ場のない愛」を書き続けていきます。
ふにゃふにゃ万歳! 甘え上手万歳!